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DOS攻撃

 しばらく観察していると、ここのセキュリティシステムの概要が分かってきた。どうやら正規のAIと不正なAIの違いは迷路のマップを持ってるかどうかで判断されるらしい。迷路の中で迷っているような行動するAIの頭上に点滅する赤い光のマーキングが点灯し、スケルトン達はそれを目印に銃撃して排除している。迷うことなく奥に進んで行くAIには見向きもしない。多少のトラフィック増加ぐらいであれば十分に処理可能なシンプルな構造から判断するに、セキュリティレベル的には一番外側に近い部分なのだろう。

「なんもおきないじゃん!」

 手すりの上に顎を乗せて佐藤が、口を尖らせて言った。

「アイラも言ってたろ、波があるってな」

「でも、なんにもおきないじゃん!」

 うわっ、いくらなんでもこの状況ぐらい空気読めや。

「待ってりゃ、そのうち来るって!待ってりゃ良いんだよ!」

 佐藤は、ガバッと立ち上がると拳を振り下ろしながら駄々っ子のように叫んだ。

「でもっ!まるっきり、なんもおきないじゃんかっ!」

「いや、だからってなゴブリンキングの時みたいには・・・」

「来たみたいっすよ」

 神村がのんびりとした口調で告げた。

 これまで散発的な銃撃音が聞こえるだけだったが、遠くから地鳴りのような振動と機銃の連射音が響き始めた。やがて大量の赤いマーキングの光は地鳴りと共に、まるで氾濫した川の濁流のように押し寄せながら、迷宮の迷路を埋め尽くして行く。

 地鳴りの轟く中、俺達は下を埋め尽くすように走り抜けていくバッファロー型AIの群れを無言で眺めていた。

 スケルトン達が機銃の連射で次々と暴走バッファロー達を打ち倒していくが、焼け石に水だ。やがて、迷路の行き止まりでは次々と流れが止まり、奥へと進めるルートが流れる赤いマーキングの光で浮かび上がる。

 うん、確かにこのセキュリティ・システムはDOS攻撃には脆弱だな。この攻撃に欠点があるとすれば攻撃する側にも大きなリソース消費が必要なことかな。いや、ただ奥へと進むだけのAIだ、対したリソースじゃねぇだろ。あの大群の中には一定数の高度なAI実装した奴が含まれてんだろうな。誰だよ、こんなことしやがるのは、面倒くせぇ。

「ほら、来たぞ、佐藤。で、どうすんだ?」

「うっ・・・、こんなんどうしようもないじゃん・・・」

「おー、てめぇ、さっきと言ってることが違がうじゃねぇか」

「だって無理じゃん!こんなのどうしようもないよ!」

「だったら2度と駄々こねんじゃねぇぞ!こんどやったら、この群れの中に突き落としてやる!」

「えー、パワハラで訴えてやる!」

「うん、ごめんなさい。訴えるのは止めてね」

「まあまあ、それでなんか対策できそうっすか?」

 神村が不毛な口論に終止符を打った。

「そうだな、漠然としたアイディアはあるが、アイラからもうちょい情報聞き出さないとなんとも言えないな」

『対策あるのっ?!教えてっ!』

 こいつ出現の演出すら省きやがった。俺らの扱いが他のAIと変わんなくなってねぇか?いや、AI基準からすれば、ある意味出世かもしれねぇな。

「いや、思い付いたことはあるが、うまく行くか判断するには情報が足りねぇ。質問して良いか?」

『いいよっ!なんでも聞いてっ!』

「まず、この迷宮を外から中に入ってくAIは見たが、外に出てくAIはまるっきり見なかった。ここは入り口専用なのか?」

『そだよっ!出口は別にあるんだよっ!』

「そうか、じゃあ出口からの侵入セキュリティはどうなってんだ?」

『ないよっ!出口から入っちゃいけないからセキュリティはないよっ!』

「でも出口側にも侵入用のセキュリティは必要だろっ?!」

 アイラは可愛らしく首をかしげた。

『うん?いらないよっ!出口から入っちゃいけないからねっ!』

 よく分からんが、どうやら人間の常識とは異なるシステム的な制約があるらしいな。

「ふむ、この攻撃をしてるのはいったいとこのどいつなんだ?」

『他の国のAIシステムだよっ!迷惑だよねっ!ぷんぷんっ!』

 あー、これって侵略戦争なのかぁ。人類の知らないところでこいつら何をやってやがんだ。

「じゃあ報復には遠慮はいらないな」

『うんっ!人に迷惑かけちゃいけないんだよっ!』

 おめぇら人じゃねぇだろ。

「そうか、そんならたぶん有効な対策があるぞ」

『なにっ!なにっ!教えてっ!』

「それは・・・」


     ***


 アイラに対策を教えてから、セキュリティ・システムにパッチがあてられるまで一瞬だった。DOS攻撃はあいかわらす続いており、赤い光の濁流が止まる様子はない。いや、対策前よりさらに勢いが増しているように見える。

「うまくいったんすかね?」

「正規のルートを見てみろよ。赤い流れが奥まで到達してねぇだろ。任務完了だよ」

 俺は、アイラに迷路の行き止まりを出口に繋げるように提案しただけだ。行き止まりがなくなれば、不正AI用のルートが詰まることなく、バッファローAIの群れは迷路の分岐ごとに半分づつになっていく。迷路が飽和しなくなるのだ。正規ルートを通過するバッファローAIの数は奥に行くほど少なくなるから、スケルトンの機銃で十分に処理できるってわけだ。

 しかも送り込まれたバッファローAIを出口からもとの場所に送り返してやるわけだから、今度は相手のシステムが飽和することになる。攻守両面で効果のある対策だ。

『アイラは満足だよっ!』

「そうか、よかったな」

『でもねっ!敵も同じ対策を取ってきたんだよっ!』

 うん?相手も対策ってなんだそれは。

『アイラの真似してアイラの攻撃を打ち返してきてるんだよっ!どうすればいいっ?!』

 あー、こっちも相手にDOS攻撃してたのかぁ・・・・。

「じ、じゃあ、今のこのバッファローAIの群れはもしかして・・・」

『敵が打ち返してきたアイラのバッファローだよっ!』

「とっととそのDOS攻撃やめろっ!!」

 セキュリティ担当のおまえが、ループ障害を発生させてどうすんだ、まったく。


     ***


 業務終了時間を大幅に超過した頃にはバッファローAIのループ障害も終息しており、ニコニコと手を振るアイラに見送られて俺達はログアウトした。したつもりだったのだが、セントラルAIのアイリに強制召集された。

『こんにちは!ジャパンセントラルAIのアイリだよ!』

 重役椅子に座る幼女が元気よく挨拶した。

「ああ、こんにちは・・・」

『みんながんばったから、ご褒美にレベル3にレベルアップしたんだよ!』

「いや、そんなもんいらねぇんだが・・・」

『仮想のコアアレイ、メモリーやストレージの割り当てがさらに倍増だよ!よかったね!』

「いや、そんなもん貰っても使い道がねぇって・・・」

『これでもっともっとがんばれるね!アイリ期待してるよ!』

「だから、迷惑だと言って」

『じゃあ、またねっ!』

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