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あの世界でも、きみは輝く


 クリスマスツリーが役目を終え、瞬く間にその年は終わった。

 そして、「新年あけましておめでとう」のあいさつがまだ使用可能な時期に、破滅の竜グラッシェンドが実装された。MMORPGプロトポロス・オンラインにおけるエンドコンテンツのひとつである。そのエンドコンテンツに相応しい強さは、初日討伐を目指す廃人……もとい、トッププレイヤーたちを震撼させた。


 オレも震撼した。

 何がって、何でいるんだ? 従妹殿。


 私学の高校入試まであと一ヶ月ほど。

 この時期に、初日討伐を狙うPTパーティーに名を連ねているのは如何なものか。


 過去を振り返れば、常にけじめということばを律儀に守り続ける、頭の固い従妹である。今日もまた、受験勉強を時間通りに済ませ、日に二時間という硬い約束を念頭に置いているのだろうが。

 まさか、日課ではなく、このエンドコンテンツのクリアを狙ってくるとは思わない。

 ギルドマスターが組み上げた十二人のPTリストに、従妹(ユナ)の名を見出し……オレはPCパソコンの前で頭を抱えた。

 今朝十時のバージョンアップからこちら、かれこれ十二時間ほど戦い続けて未だに倒せない相手である。明らかに初見のユナを入れたところで、どう考えても勝ち目は薄い。というよりも、少し練習してから来いよ!とメンバー内には悪態をついている者もいるのではなかろうかと心配するレベルである。

 能力を増幅するレア・アイテムの効果は四十五分。その区切りで、だいたいのPTは解散する。今回もその例に洩れず、レア・アイテムの効果消失までを条件として、グラッシェンドに挑んだ。


 幻界(ヴェルト・ラーイ)とは異なり、プロトポリス・オンラインはキー操作、コマンド入力の世界だ。タイミングと、コマンド入力の速さが命の、旧来のゲームである。

 よって、グラッシェンドの行動パターンを把握し、それへの対処を個々に行なう形で戦闘は続く。言わば、じゃんけんのようなものだ。ドラゴンブレスの前兆を見出せば、回避行動を選んだり、盾を構えたり、ダメージを想定した回復術を詠唱したりと、それぞれの役目に応じて対応は違う。だが、ひとつでも間違えば、あっさりとPTは全滅する。それほどの大きなダメージが一ターン内で襲い掛かってくるのである。


 瞬く間に時は過ぎた。

 全滅に全滅を重ね、四十五分という区切りはあっさり終わる。ただ、理由付けはユナの立ち回りだけではなく、誰かのほんの少しのミスが引き金となった。それだけのことだった。一秒だけでもタイミングがズレれば、死に直結する。

 解散、が告げられ、PTリストが白紙に戻る。

 野良で行くか?と性懲りもなく次のチャレンジを考えていた時、フレンドチャットの音色がオレを呼んだ。


 ユナだ。


『ねえ、まだ行く?』

『当然』


 そのメッセージに、即座に返事を打つ。

 そして、思い出した。うちの従妹は、誘いをかける側、なのだ。


 オンラインゲームでは、PT募集をかける側と、PT募集を待つ側の人間がいる。オレはPT内の揉め事や調和といった段取りが面倒なので、たいていはひとのPT募集に乗るタイプだ。

 だが、ユナは率先してフレンドを中心にPTに入らないかと声を掛け、枠が余れば野良……一般募集をかける、というタイプだった。

 オレの返事に満足したのか、即、PT要請が飛んでくる。どうやら、まだあきらめていないのは同様のようだ。

 この一時間で、ユナもだいぶ敵の動きに馴れた。同じように動きに馴れたメンバーが集まれば、ひょっとしたら。


 次々と、PTリストが埋まっていく。ユナの交友関係は、エンドコンテンツを制してきた面々が多い。その中には先ほどのギルドメンバーも含まれている。


『準備できましたら、OK下さいねー』


 既に準備完了していたオレは、躊躇いなくショートカットキーで「OK」を叩き出した。十一のOKが並ぶと、ユナは号令を掛ける。


『では、まいります。みなさん、よろしくお願いします!』


 画面が切り替わる。

 十二人のキャラクターの顔のアップ、それを中心から破滅をいざなう竜の咆哮が打ち破る。

 ――戦闘、開始だ。





 年末年始、そしてバージョンアップと続き、ぱったりと彼女とは連絡をしなくなった。もともと、こちらから何らかのアプローチをすることは少なく、相手からSS(シューティングスター)を受け、電話したり、待ち合わせたりすることが多かったためだ。連絡がなくとも、こちらも忙しい。メインとしては、ゲームで。

 大学のほうも共通テストの会場になったり、一般入試や大学自体の試験の時期も近いということもあり、足が遠くなっていた。さすがにまだ入学していないにもかかわらず、先輩方の試験を邪魔するわけにもいかない。

 あの神官の姿も見かけることはなく、入学まではおとなしくしているつもりだった。悪い意味でおぼえられたくもない。もっとも、新学期とクローズドベータのどちらが先に始まるかと考えれば、できれば後者で先に再会したいというのが本音だった。

 なお、高校三年生はこの時期、完全に自由登校である。次の登校日は卒業式の予行の日というとんでもなさだ。その分、ゲームに勤しめるというものである。

 バージョンアップの日に誘いをかけられていたのだが、さすがにこの日ばかりはと断った。思い返せば、それが音沙汰のなくなった始まりのような気がする。


 そんなゲーム漬けの日々に、一通の封書が届いた。

 それは、幻界(ヴェルト・ラーイ)のクローズドベータテスト2の案内、だった。


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