求めよ、されば……
さすがアバター。
セルヴァに抱きついた少女は、その男と同じ色合いを有していた。なかなか白い肌に映える金髪碧眼だが、パッと見、似通いすぎている感は否めない。
そして、鋭い恫喝の主もまた――それほど大差のない、少女だった。
水色の髪は一部だけ結い上げられ、同系色の瞳はその色の静けさと打って変わって血走っているようにさえ見えた。身に纏っている上等な革の外套の奥は、明らかにドレスだ。他にどのようにも形容しがたい形のそれを確認し、オレは天を仰ぐか、他人のふりがしたくなった。似合わないのは、その手に握られたものだった。
太く、長い、木製の……それは、どこか見覚えがあるような杖だった。
騎士たちが、合図もなく周囲を取り囲む。抜き身の剣が太陽に煌いた。まともに巻き込まれた形になってしまったが、まだ、オレたちのIDの色合いは変わっていない。そこが唯一の救いだった。
即座に両手を上げ、オレはできるだけ低い声を落ち着いているように出した。
「悪いけど、こっちはただの通りすがりなんだ。助ける気なんてさらさらないから、そのまま連れていってくれないか」
「ひっ、ひどっ……!」
問答無用で贖罪クエストに巻き込むのはひどくないのかよ。
内心のツッコミは届くはずもなく、金髪碧眼の少女は自分が抱きついている男のほうへと矛先を変えた。
「えっ、あ、お兄さんは助けてくれるよね!?」
「お、に……」
動揺が動揺を呼んでしまったようで、セルヴァはもはや使い物にならなさそうだった。赤らんだ頬どころか、その視線が少女の肢体に釘付けである。
フン、と水色の少女が形の良い鼻を鳴らした。
「ほほぅ、兄妹か。なれば、その責を負うてもらわねばなるまい」
「ちょっと待てよ! そんなのことばの綾で……こっちは無関係だからな!」
「我とことばを交わしておきながら、無関係とぬかすか。まあ良い。その方らが楔を引き抜いたわけではないことは存じておる。だが、こちらにも時間がないのだ。今もなお、ジャンヴィエは攻められているのだからな」
目を細め、水色の少女は指先で杖を撫でた。すると、転送門広場の中心、今もふんだんに湯を流している噴水の上部から、同じ水色の魔法陣が広がる。周囲から上がったざわめきからも、それは自分にだけ見えているものではなさそうだった。
少女は、杖を魔法陣へと掲げた。魔法陣の真ん中あたりが、ぼんやりと光を帯びる。そこには異様な空白があった。
「――炎を扱う魔術師、もしくは精霊術師を知っているか?」
水色の少女の問いかけに、目を瞠る。
知っているか、というだけならば、知っている。それも、ふたり。
ひとりは今もなおガディードの大神殿にいるであろう男で、もうひとりは……。
セルヴァを見ると、彼もまたこちらを見ていた。頬の赤みはすっかり失せ、表情は険しい。しかし、少女は満足げに笑んだ。
「あの連中よりは使えそうで結構だ。『命の神の祝福を受けし者』であれば、どのような出来でも構わん。我はこの場を離れられぬ故、すぐに連れてまいれ」
「何だって?」
問い返せば、どでかい叫びはすぐ近くから飛び出した。
「炎使いなんているわけないじゃないー! オーショードじゃあ使い物にならないんだからっ!」
セルヴァからようやく身を離し、金髪碧眼の半裸の少女は怒鳴った。
それを周囲の騎士たちは見逃さなかった。すぐさま彼女の腕を掴み、縄を掛けていく。いや、せめて何か外套とか着せてからにしてほしい。
セルヴァ、大丈夫かよ……と弓手を見ると、もう平常運転に戻ったようだ。安堵したように溜息をつき、水色の少女に向き直る。
「緊急事態ってことはわかりました。あの子とは本当に無関係ですが、協力すること自体は吝かではありません」
「そうか。それほど長くはもたん。太陽が天頂に届くまでに連れてまいれ。急げよ」
掲げ持っていた杖を下ろし、少女は指先で杖の表面を撫でる。何かの文様が彫り込まれているようだ。その視線は空に浮かんだ魔法陣を見上げ、唇は引き結ばれる。
「姫様、こちらの者は如何いたしましょう」
「結界を張り直すまで、そやつらの相手などしておれぬわ。まとめて入牢を申し付ける。ひったてぃ!」
「いやあああああっ!」
江戸時代のお奉行様のようなセリフを、至極真面目にミラほどの少女が口にする。対する騎士たちもまた敬礼なのか、剣を鳴らして一礼して身を翻した。悲鳴は金髪碧眼のセルヴァの自演妹なわけだが、これ以上かかずらってもいられないのはこちらも同様だ。半裸の少女は引きずられるように馬車のほうへと戻っていった。
数名の騎士が、水色の姫様の護衛に残っている。
そのうちのひとりが、こちらを見た。
「急げと、姫様が仰られたはずだが?」
針のように鋭い、そのまま銀色のまなざしがこちらを刺しまくる。
すると、即座に弓手がこちらの腕を掴み、頭を軽く下げた。
「おことば通り、急ぎます」
そして、セルヴァに引っ張られながら転送門広場を――西へと、逆戻りし始めたのだった。




