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貴族の怒り


 戦闘の中心を、何とかジャンヴィエから逸らす。

 その意図が、遠目でもはっきりわかるほど、魔物たちは北へと追いやられていた。おそらく、オレたちのようにオーショードから戻った旅行者プレイヤーのため、そのまま西へ移動させなかったのだろう。

 戦いの渦からできるだけ離れた、やや南側から西門のほうへと向かう。

 ジャンヴィエの西門もだが、その内側はかなり崩壊していた。ガディードで見たような、強力なスキルが発動したのかもしれない。何とかギルド出張所は死守されたようで、その前には人だかりができていた。野戦病院のごとく、その周辺には傷だらけの旅行者プレイヤーが数多く蹲っている。


「シリウス、あの……」

「任せるよ。宿取ったら連絡するから」


 怪我人を見過ごせる神官見習い(ミラ)ではない。そう告げると、ミラは安堵したように頷き、離れていった。早速、回復神術を掛け始めている。


「この調子なら、西のほうの宿は無理だろうなあ。あっちのほうで探そうか」


 西から北にかけては危険だろうが、こんな状況でも宿は開いているだろう。安全にログアウトするために必須なのだ。ふと、その方面の宿でログアウトしている面々の扱いが気になったが、今は確かめようもない。

 セルヴァとふたりで大通りを歩いていくと、数多くの旅行者プレイヤーとすれ違った。これもイベントだからだろう。確かに、経験値は多そうだ。


「いったんログアウト?」

「そうだね」


 歩きながら尋ねると、素直にセルヴァは頷いた。特に刺々しい様子はないが、逆に気疲れしているように見える。


「あ、先にさ、精算しない?」


 転送門広場を抜けるあたりで、商店を指さして提案された。そういえば、あの鉱石もあったと思い出し、ふたりで入った。店内からはごっそりと回復薬ポーション類が消えていて、転送門を使った者か、もしくはもともとジャンヴィエにいた者が買い占めて西に走ったんだろうなと想像がついた。


「ほー」


 老婆は鉱石の塊を見て、感嘆の声を上げた。

 ルーペのようなものを手に、近づけたり、光に翳したりと様々な方法で石を眺めている。

 その他にも戦利品ドロップはあるのだが、実際には同じくらいの量をシエロに持っていかれていた。本人も持ち逃げするつもりはなかったのだろうが、今となっては連絡も取れない上、特段取りたくもない。


「いいねえ。オーショードで見つけたんだね」


 鑑定料として小銅貨一枚、という話で見てもらっているのだが、結果はなかなかよさそうだ。期待して頷くと、ウィンドウが開いた。


 炎属性鉄鉱石の塊(二ペーシェ)

 この鉱石を用いると、炎属性がつく。


 説明書きにかぶせるように、老婆は値をつけてくれた。


「そうさね。これほどのものだから、大銀貨二枚でどうだね」


 初めて聞く『大銀貨』のことばに、オレとセルヴァは顔を見合わせた。互いに頷き合い、景気よく売り払うことに決まった。その他のものと合わせて、今回は半々で分けようと提案する。


「今、ミラいないしさ。いろいろあったから、いいだろ?」


 何よりも、ふたりで分けても大銀貨一枚以上あるのだ。しかし、一歩もセルヴァは引かなかった。三人で分けないなら、鉱石を見つけたミラに大銀貨二枚を渡せとまで言われ、オレは根負けした。

 ここで全部の精算をしたかった理由は、きっとお互い、あのシエロの一件で尾を引きたくなかったのだと思う。しかし、さすがにそれは口にしなかった。


 商店を出ると、噴水が豊富な湯量を吹き出していた。今は、誰もいない。さすがに戦闘イベントの影響で、ここで風呂に入るような輩は消えたのだろう。地図を開き、どのあたりで宿を取るかと相談しようとした時……美貌の弓手は硬い表情で顎をしゃくった。


「――え」


 その視線の先を見て、呆気に取られた。

 転送門の影に、一台の馬車が止まっている。そして、複数の兵が旅行者プレイヤーたちを取り囲んでいた。殆ど素っ裸に近いその姿を見れば、つい先ほどまで泳いでいたのではと簡単に推測できる。


黄色旅行者(イエロー・プレイヤー)だ。何かやらかしたな」

「って、泳いでただけじゃないのかよ」

「さすがにそこまでは見えないなあ」


 セルヴァのスキルは千里眼ではない。

 それでも、これほど距離の離れた別プレイヤーのIDの色合いまで把握できるのだから、大したものだ。


「巻き込まれると厄介かな。行こうか」


 そう言って視線を逸らし、彼は大通りを南へと向かおうとした。

 しかし、一歩遅かった。黄色旅行者(イエロー・プレイヤー)のひとりが包囲網をかいくぐり、逃げ出すのが見えた。

 一瞬、加勢すべきなのかどうなのかが判別がつかず、オレもまた、ただ眺めるしかできなかった。

 南へと駆け出したのは、女の子だった。その子は……まっしぐらに、セルヴァへと抱きつく。


「たす、助けて下さい!」


 半裸の少女に抱きつかれ、セルヴァは顔を真っ赤にして、完全に硬直していた。そうか、耐性ないのかとどこか冷静に見てしまう。


「ふざけるな、何が助けて下さい、だ!」


 その後ろから、怒り狂った恫喝が飛んできた。


「わが結界を歪めた罪は重い。覚悟せよ!」


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