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当選


 その一枚のディスクから、オレの旅は始まった――。




 今どき、データは何でもインターネットからダウンロードである。

 にも関わらず、幻界ヴェルト・ラーイのクローズドβテスト当選通知は郵送でディスクが届き、興奮してしまって説明書きもまっとうに読まずにコンピュータに放り込んでしまった。オートランでインストールの警告ウィンドウが開き、「はい」を選ぶ。どうせ「いいえ」を選ぶとインストールされないだけだ。

 その時点でようやく、付属していた紙面に目を通した。「幻界ヴェルト・ラーイクローズドβテスト当選のお知らせ」という下りを読んでいると、もうインストールが終わってしまい、呆気に取られる。

 新しく現れたアイコンをダブルクリックすると、公式サイトへ飛んだ。「まぼろしの中で、生きよう」というキャッチフレーズとイメージCG、クローズドβテストに関する案内がでかでかと載っている。

 幻界ヴェルト・ラーイは始まらない。

 はて、と首を傾げて、紙面に改めて目を通す。



 ――こんにちは、幻界ヴェルト・ラーイサービスチームです。

   この度は幻界ヴェルト・ラーイのクローズドβテストにご応募いただき、ありがとうございます。

   おめでとうございます。

   クローズドβテスト応募者の中から、厳正なる抽選の結果、ご当選されましたことをお知らせいたします……



 幻界ヴェルト・ラーイは、フルダイブ型のVRバーチャル・リアリティユニットを必要とする、VRMMO(Massively Multiplayer Online)RPGロールプレイングゲーム……大規模多人数型オンラインRPGである。紙面には、そのクローズドベータテストの実施期間や必要な手順が記載されていた。

 初期登録は公式サイトで行う。その際に、幾つか生体情報を登録する必要がある。公式サイトへのサインインには虹彩認証、VRユニットで幻界ヴェルト・ラーイへログインする際には更に声紋認証も要求される。

 生体情報は暗号化され、本来の生体情報とは異なる幻界ヴェルト・ラーイ独特のものに変換されて送信されるため、個人情報の流出を防ぐために万全を期しているという注釈もあった。

 必要事項を公式サイトで登録後、VRユニットを装着し、一アカウントに一キャラクターのみ作成可能であると書かれている。なお、ディスクを不正コピーしたり、内部データやシリアルキーを流出させた場合には、当該クローズドβテスト参加資格を剥奪し、幻界ヴェルト・ラーイからの永久追放を行なう旨まで注意が載せられていた。どういう理屈でその対象を把握するのか、なかなか難しい気もするが、幻界ヴェルト・ラーイの運営側の意欲は認めたいと思う。不正ダメ、絶対、である。


 オレはサクサクと公式サイトにログインし、必要事項を登録した。途中、眼鏡を外してカメラ撮影も行なったり、マイクに向けて発声する。これで、生体情報も登録完了である。

 当落通知の届く今日はまだクローズドβテストの開始日ではないが、キャラクターの作成は予め行なうことが可能だ。明日午前十時開始のクローズドβに向けて、自分のキャラクター(アバター)を吟味しなければならない。

 眼鏡はローテーブルに放ったまま、VRユニットを装着し、カウチソファに転がった。完全に意識が飛ぶはずなので、椅子に座ったままでは危険すぎるからだ。アイポートを下ろすと、視界が闇に包まれた。指先で電源を入れる。


「Start?」


 ただ真っ暗な中に、文字が浮かび上がった。


「Start to connect」


 接続開始の音声認証を受け、システムは起動した。

 Startの文字が消え失せ、次いで「幻界ヴェルト・ラーイ」を示すタイトルがひとつだけ、ぽつんと宙に現れる。手を伸ばすと、触れる前に砕けて、世界が光へと塗り替わっていく――。


 映像が流れていく。

 それは、幻界ヴェルト・ラーイのプロモーションでも流れた動画だった。ただ、まるでその場から見下ろしているような光景になって映し出されていく。神殿に明かりが灯り、その町の各所がクローズアップされ、門を出ていく。頬にあたる生暖かい風や、草木の匂いを感じた。と思ったら、角の生えた猪のような魔物が現れ、自分目掛けて襲い掛かってきた。が、当然ただの映像なので、場面が切り替わっていく。草原、森、川、荒野、山地、様々な自然が次々と切り替わっていく様子に目を奪われた。

 最後に「幻界ヴェルト・ラーイ」のロゴが表示され、弾けて消えた。


 次いで、目の前に現れたのは、巨大なスクリーンだった

 そこには、一組の男女が映し出されていた。ごく簡素な生成りの服を着た、男女である。


「キャラクタークリエイトを開始します。

 まず、あなたのキャラクターの性別を選んで下さい。

 男性にしますか? それとも、女性にしますか?

 性別的に細かい設定も可能ですので、その場合はまず、よりどちらに近いかで選んで下さい。

 なお、本来と異なる性別を選んだ場合、精神に影響を及ぼす恐れがありますので、ご注意下さい」


 流暢なアナウンスが流れる。

 オレは男性を見た。すると、女性の姿が消えていく。中央に男性の姿が移動し、宙に無数のタッチパネルが表示された。

 かなり、細かい。

 身長、体重、顔の輪郭、瞳のパターン、顔のパーツ、髪形、体格、全身のパーツ、それらすべての色彩について細かく設定が可能になっていた。形からして自分で描けてしまう。ただ、面倒な場合には「ランダム」ボタンもある。パーツごとでも、全てでも「ランダム」表示させることが可能になっていた。これを押しまくり、そのうち気に入るキャラクターに近いものが表示されてから、再度、細かく設定することもできる。

 「体格によってステータス値も影響を受けるが、スキルマスタリーによって補うことも可能」という注意書きを確認してから、オレはそれらを設定していった。


 髪も瞳も黒でいい。

 開幕から、とっとと戦えるほうがいい。そのためにある程度体格をよくしておきたいので、身長は高めに設定する。ステータス値の筋力と体力が上昇した。その分、敏捷度が犠牲になっているようなので、少し体重を調整した。

 顔つきとか髪形は……面倒なので、ランダムで。あー、何だかちょっとどこかの俳優っぽい? まあいいか。ちょっと童顔なのはもう勘弁してほしいし。「可愛い」はイラナイ。

 キャラクタークリエイトでコンプレックスを刺激されつつ、オレはいろいろいぢった。着目していたのはステータス値だ。少しでも戦闘で有利に働くように選んでいく。


 クローズドβ特典、ということで、服の色合いを選べるようだ。黒一択である。ただの生成りの服が、黒に変わるだけでもなかなかまともに見えるではないか。


 最後に、名前を決める。

 それは、昔からゲームをプレイする時、自分のキャラクター名として決めているものなので、すぐに入力できた。

 シリウス、と日本語で入力したのだが、表示はなんと幻界ヴェルト・ラーイ仕様の文字になっている。見知らぬ文字であるはずなのに、それが何なのか読むことができて驚いた。自動翻訳機能まで備えているとは、幻界ヴェルト・ラーイ、恐るべし、である。


 クローズドベータ開始は、明日午前十時。

 チュートリアルもそこから始めることができるようだ。

 今から、楽しみで仕方なかった。

いよいよ始まりました、「幻界のクロスオーバー」シリウス編!

というわけで、こちらは不定期更新となります♪

仕上がり次第アップしていくつもりなので、応援よろしくお願いいたします。


なお、「幻界のクロスオーバー」本編のほうは現在週一更新ですが、

八月半ばからは毎日更新に戻ります。

ちゃんとストック貯めていますからね! ご安心を!

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