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くもりのち、はれ  作者: 夏みかん
第十四章
90/127

あなただけを・・・(8)

夕方とはいえ、かなり暑いのは日中の気温がこの夏の最高を記録したせいだろう。クーラーが快適な温度を提供してくれている部屋から1歩外へ出れば、そこはもはや人が生きていくことが困難だと思えるほどの灼熱地獄が待っている。ドアを開けただけで熱気が全身を襲い、そのまま外へ出てわずか数秒足らずで全身から汗を噴き出させるその暑さは体力と気力を一気に奪い去った。退院してから体力も戻り、まだ少々の気怠さは残るものの元通りの元気を取り戻した恵は2階の階段に出た途端にげんなりした顔を浮かべてまた入院しそうなめまいを覚えてしまった。とは言っても、それはオーバーな話であるのだが。小学生の授業を終えてからしばらく時間が経っている為、すでに送りのバスは、同時に中学生の迎えの便となって出発した後だ。職員室には光二と忍がいるが、まだ夜の授業を受け持たせてくれない康男の配慮によって組まれた変則シフトで今日は由衣も来る事となっていた。中学三年生を由衣が、二年生を忍が担当し、恵の負担を減らすべく光二が雑務を行う為だ。今月いっぱいはあまり仕事をさせないようにと康男はかなり気を遣っていて、その分バイトの経費がかさむがそれも止む無しとした考えの元にこうなったのだった。すでに今期限りで東塾を閉める事を決定している康男にしてみれば、この西塾で経営をもり立てていく事を考えているためにどうしても秋以降恵に負担をかけさせてしまうとして光二にその手伝いを依頼したのだ。光二はそれを快く引き受けてくれ、今ではかなりの実務をこなせるほどに成長している。そんな光二が最近どこか気になってしまう恵は午後6時半を回ってもまだ明るい空を見上げて小さくため息をついた。去年の秋から人が変わったように精神的にも肉体的にもたくましくなり、今では時折その姿に周人を重ねてしまうほどである。入院している時も毎日お見舞いに来てくれたあげくに残してあった仕事をほぼ全部片づけてくれた優しさもそうさせる原因でもあった。いまだに周人を好きでいる自分を、心のどこかで由衣に嫉妬している自分を、恵は嫌っていた。かつて周人が亡き恋人である磯崎恵里自身を求めてその代わりになりたいと言った自分をフったその周人と今の自分が同じである事はわかっている。だが、この気持ちはどうしようもないのだ。今日は忍や由衣がいると思えば気持ちも安らぐが、仕事上光二と一緒にいることが多い恵は今の光二が周人をより鮮明に思い出させることから気まずい空気を作ってしまう事があった。それでもそれを気にしないのか、光二は気さくに声をかけ、コーヒーをいれてくれたりマッサージをしてくれたりして気を配ることを忘れなかった。その優しさを周人のそれと置き換えている自分が歯がゆい恵は再度大きなため息をつくとゆっくりした動作で階段を下り始めた。そんな恵が駅へと続く砂利道から向かってくる青い車に目を留めてそちらを凝視した。一瞬周人の車かと思ったが、色も形も違っている。見慣れないその車に、大通りから外れて間違ってやってきた車だと判断した恵は気にすることなく階段を下りていく。だが、不意にその車が塾の裏手に止まった為、眉をひそめながら階段越しにそちらへと目をやった。こんな場所に止まるのは塾に来る車以外には考えられない。民家からは離れている上に、近くにはここへ止めて向かう娯楽施設もないからだ。あからさまに怪しむ恵をよそに助手席から顔を出したのは、なんと周人であった。そして運転席から出てきたのは由衣。どうやら今日は由衣の車で来たようなのだが、どうして周人がいるかが疑問である。来週から来るはずとなっていた恵が今日から復帰したのは無理矢理康男に頼んだからであり、由衣には知られていない事なのだ。よって来週見舞いを兼ねてここへ来ると言っていた周人がなぜ今来ているのかが不思議でたまらない。しかも小学生の小テストのみを行う授業のみに参加を許された恵はこの後すぐに帰る事になっていた。にもかかわらず、このタイミングで現れた周人を見て、来週ではなく今日に日にちを変更したとしか思えない恵は康男が情報を流したと感じて顔を渋くさせた。そんな恵の心境など露ほども知らない周人は恵の姿を目に留めると微笑みながらゆっくりと近づいてきた。その顔を見た恵はさっきまでの渋い顔はどこへやら、困ったような照れたような顔をして頭を掻いて近寄る周人を凝視できなかった。そんな恵の表情から自分が今日ここにいるという気まずさを表していると思った周人は立ちつくしている恵の目の前に立つとにこやかな顔をしたまま軽い調子で挨拶をした。


「よぉ!」

「おっす・・・」


伏せ目がちにそう言う恵に苦笑する周人は後ろからやって来た由衣を振り返ると肩をすくめる仕草をしてみせた。


「ういっす!今日はどうしたの?」


何も考えずにストレートに疑問を口にした由衣を由衣らしいと思うのは周人も同じである。そんな由衣には愛想笑いを浮かべることなく素直な笑顔を見せた恵は肩をすくめる仕草をした後、まず自分の疑問を口にすることにした。


「どうしたのって・・・そっちこそ、彼氏連れてくるのは来週じゃなかったっけ?」

「そうですよ、だから今日、周人は別の用で来たの。そしたら恵さんがいるんだもん、ビックリ」


さほど驚いた様子もないのにビックリと言う言葉を出した由衣の言葉に、周人がここへ来たことが偶然であることを知ってますます苦しい立場に置かれた恵だったが、何としてもそこから話題を逸らすべく懸命に頭をフル回転させた。


「木戸クンがここに用って何?」

「塾長に用があるんだ。今日のこの時間ぐらいなら帰ってるからって言われてね。車が整備中なんで電車で来たらたまたま信号待ちしてる由衣に出くわしたんだよ」

「駅の交差点でね」


2人がかりでそう説明を受けた恵はうんうんうなずきながらも心はどこか上の空だった。ついこの間までは2人のこういう会話を聞いても何も感じず、ただ微笑ましい気持ちで一杯だった。だが、今は言いしれない嫉妬のようなものが心の中で渦巻いている。そんな自分を嫌だと思いながらも嫉妬心も嫌悪感も顔には出さずににこやかに相づちを打った。そんな自分を見る周人の目がややきつくなってきている事に気付いた恵は周人とは目を合わせずに由衣だけを見ていた。


「で、たしか来週から出勤の君が何で今日ここにいるのかな?」


腕組みをしてややきつめの口調でそう言う周人の目は鋭さを増していた。そんな視線に耐えきれないのか、恵はうつむくようにして黙り込んでしまった。やましいことではないののだが、周人にそういう目をされて悲しい気分になってしまった自分をますます嫌悪してしまう。


「僕がお願いしたんですよ」


突然男の声でそう言われた周人は小さく口の端を吊り上げるようにしてみせた。ドアは閉じられており、どこから声がしたかわからないといった風な由衣はじっと一点を見つめている恵の視線の先、自分の斜め後ろにある窓の方へと顔を向けた。階段手前の壁にあるその窓にはアルミサッシの格子がされており、普段は滅多に開けることはない窓だった。逆に同じ面にある通りに近い方の窓には格子もないため、生徒たちがバスを待つ様子を見るためによく使用されていた。その格子付きの窓を少し開けて3人を見ていたのは光二である。どうやら玄関先での話し声を聞いてそっと様子をうかがうために目立たない方の窓を開けたようだった。顔も半分くらいしか見えない光二は小さな微笑みを残して窓を閉めると、玄関のドアを開いて外へと出てきた。


「こんばんは」


塾の下履き用のスリッパを履いた光二はそう言うと頭を下げてみせた。そんな光二に片手を挙げて挨拶を返す由衣に続いて表情で何やら挨拶のようなものをした周人は何故か小さく苦笑すると肩をすくめる仕草を取った。


「三宅君が呼んだんだぁ・・・なぁんだ、私はてっきり恵さんのフライングだと思ってた」


ズバリ言い当てつつも光二の話を鵜呑みにした由衣ににんまり笑う恵だったが、周人の表情に変化がないことからすぐにその表情を引き締めた。ややそわそわしつつある恵の後ろ姿を見た光二は周人と由衣を交互に見ながらにこやかな笑みを絶やさない。


「どうしても今日中にこなさなくてはいけない仕事があって・・・でもそれがよくわからなくて電話したんです。そしたら気を利かせて来てくれたって訳です」


そう言ってから恵に同意を求めるようにした光二に合わせて恵もコクリとうなずいた。そんな様子に由衣は納得し、周人は小さく笑うとそうか、とだけ口にした。そんな周人を見やる由衣はふと何気なしに時計を見て、あわてた様子で部屋の中へと入り、皆を苦笑させた。これ以上突っ込まれる事を危惧した恵は周人に見えないようにして光二に表情でお礼を言うとそんな由衣に続いて中に入っていった。そんな女性2人を見ながら苦笑する周人は自分を見て同じく苦笑する光二を見やった。


「さて、すみませんが中で待たせてもらえますか?」

「どうぞ、木戸さんなら全然問題なしですから」


道を譲るようにしてそう言う光二とすれ違うその瞬間、周人は意味ありげな微笑を浮かべて誰にも聞こえないようにそっと耳元でささやいた。


「ナイスフォローだよ」


それだけ言って玄関先でスリッパに履き替える周人の背中を見ながら、光二は困ったような顔をしながらも口元をほころばせるのだった。


「あれ、誰なんです?」


空いている席に座り、光二が入れたコーヒーを飲む周人を見ながらその光二に耳打ちをしているのは横山忍だ。帰る準備をした恵と授業の準備を終えた由衣に挟まれる形で会話している周人を見ながらそう問いかけた忍は周人とは全く面識がない。もっぱら自分にしか興味がない忍だったが、美女2人とかなり親しげに話をしている周人には多少の興味を持ったらしい。今日は土曜日とあってTシャツにジーンズといったラフなスタイルな周人に比べ、かなり高そうなシャツにチノパンを履いた忍は自分の容姿と比較して勝ったと思いながらも、自分ではありえないほどべったりな感じを出している由衣を見て機嫌が悪そうな表情を浮かべている。実際、由衣はべたべたしているわけではない。ただ、雰囲気的にそう見えているだけの話である。


「あぁ、あの人は木戸さん。ここのOBだよ。んで、吾妻さんの彼氏でもあるんだ」

「あぁそうなんだ・・・へぇ~、吾妻さんの・・・・・・・彼氏ぃ!?」


思わず立ち上がってそう大声を張り上げる忍を見る周人はコーヒーを飲みながら実に冷静な目をしている。そんな周人の視線を受けて我に返ったのか、いつものように前髪を掻き上げながらさわやかな笑顔を見せつつ挨拶をする忍に周人は小さく頭を下げたのみに留めた。


「あれが、あんなのが・・・・・吾妻さんの?美人の彼女と、ちょっと合わないんじゃ・・・ない?」


目を何度もパチクリする忍を見て苦笑する光二もまた3人の方へと顔を向けた。確かに、モデルをしている由衣と比べれば外見的なものは劣っていると思える。だが、それは問題ではない。あの2人にあるのはそういう釣り合いではないのだ。それに髪型を変え、服装もちゃんとすれば周人は隠れた2枚目であることを光二も恵も知っている。何より、普段の2枚目半的な雰囲気がそう見せているだけにすぎない。それに内面的なもので言えばそんじょそこらの男性などでは足下に及ばない程の器の大きさを持っているのだ。計り知れないその心の大きさ、強さを知っている光二は外見だけで人を判断してそう言う忍に苦笑するしかなかったが、それもまた仕方がないと感じていた。自分も人と違う能力と、昨年の周人を見ていなければ忍と同じ印象をもっていたと思えたからだ。


「彼女にとって、木戸さんが全てなのさ・・・だから、合う合わないを他人が言うことじゃないさ」


その言葉を聞いても納得いかない様子の忍を見やった光二は自分もコーヒーを入れるべく立ち上がった。その時、玄関側の窓に車のライトとわかる光が当てられ、部屋の中を少しばかり明るくした。どうやら送迎のバスが到着したようで、それを見た由衣と忍はほぼ同時に席を立った。外がざわめく様子が部屋の中からでもはっきりわかる。周人はこみ上げてくる懐かしさを微笑で表現すると、頭に浮かぶかつての自分、恵、そして新城の姿を思い浮かべた。


「じゃぁね、いってきます。帰りは予定通りね!」

「あいよ、頑張ってな」

「うん!」


靴を履き終えた由衣のその素直で可愛い返事に忍は憮然とした表情を見せて靴を履く。入り口近くに座る周人をねめつけるようにしてから軽く頭を下げた忍に小さく微笑む周人はコーヒーの残っているコップを手に席を立つと光二のいる方に向かって歩き出した。


「なんだよ・・・カッコつけやがって」


小さくつぶやく忍はそのまま振り返る事無く外へと出ていった。やがて生徒たちの声が遠ざかり、階段を上がる靴音も聞こえなくなった部屋には沈黙が流れていた。


「さぁて、ほんじゃ用事も終わったし、帰りますかぁ!」


そう言いながら背伸びをして立ち上がった恵は光二の隣の席、由衣の席にコーヒーを置く周人を見やった。


「電車?駅まで送っていこうか?」

「ううん、いいよ・・・悪いし、それに寄り道したいし」


周人からのせっかくの申し出をそう断った恵だが、本当は送ってもらいたいと思っていた。第一、寄り道する所などここの近辺にはないのだが、何よりそうでも言わないと強引にでも送って行かれそうで嫌だったのだ。周人に送ってもらうのが嫌なのではない、2人きりになった時に自分の感情を抑えることができそうにない事が嫌だったのだ。そしてそんな自分の本心を知っている光二にも送ってもらいたくないが故にそういう言い訳をしたのだった。見送るように玄関を出て外に立った男2人を振り返ると、恵はバス停のある大通りへと向かって歩き出した。


「彼女・・・今、何考えてる?」


寂しそうに歩く背中を見ながら、周人は光二を見ることなくそう言った。突然のその言葉に光二はどうしたものかと思案したが、とりあえず言われるままに思考を読もうとして一瞬その力を止めた。入院する前も、退院してからも、恵の思考を読めた事は一度もない。最初は恵の体調が悪いせいかとも思っていたのだが、退院して元気になってもそれは変わらなかったのだ。恵以外の人の思考が読める事は実証済みであり、能力自体が無くなったわけではない。光二は徐々に小さくなっていく恵の背中に全神経を集中させた。だが、やはり何も聞こえてこなかった。


「わかりません・・・・どうしてか、彼女の思考だけが読めなくて・・・」

「・・・彼女だけ?」

「ええ・・・」


光二の言葉に険しい顔をした周人だったが、鼻でため息をつくようにしたのみでそれ以上は何も言わなかった。


「不思議ですよね・・・・近づいてくる塾長の意識というか気配というか、そういうのははっきりわかるのに・・・」

「え?」


大通りに消えた恵から視線を外し、砂利道の方へと顔を向けてそう言う光二の視線の先には豆粒のような大きさの車が砂煙を上げて近づいてくるのが見えていた。もちろん音も聞こえない為、全くそれに気付かなかった周人は苦笑しながら首筋を掻くような仕草をしてみせる。


「いつか君と、本気で仕合ってみたいよ」


何を思って周人がそう言ったかはわからない。あえてその思考を読もうとも思わない光二だったが、その言葉の真意は気になって仕方がなかった。


「十年先でも、ありえないですよ・・・勝負にならないから」

「そうでもないさ」

「その根拠は何なんですか?」


勝てる気どころか、まともな勝負すらもできないと思っている光二の視線をまっすぐに受け止めた周人はさっきまで感じなかった鋭い、まるで触れれば切られるような気を全身から発していた。その気を受けて暑さ以外の汗を流す光二は露出した腕にぽつぽつと鳥肌がたつのを感じながら周人の回答を待った。


「君が強いから、だよ」


さっきまでの緊張はどこへやら、殺気を消すとにんまり笑ってそう言う周人に拍子抜けしてしまった光二はがっくりうなだれるようにして乾いた笑いをするしかなかった。果たしてどこまで本気かわからないその言葉の真意を探ろうと周人に意識を集中したが、浮かんできたの何と由衣の裸体であった。豊かな胸の形も、くびれたウェストラインもはっきりわかるそのイメージに思わず赤面して顔を引きつらせる光二を横目でニヤッとした顔で見る周人はすぐ近くまで来たワンボックスカーに片手を挙げてみせる。


「君の考えぐらいは能力がなくても読めるさ」

「う・・・木戸さん、結構ヤな性格ですね」


そう嫌味を言う光二はいまだに耳まで真っ赤にしてうつむくように周人を見るのが精一杯だった。


「でもラッキーだったろ?由衣の裸が見られてさ」


さらにニヤリとする周人の言葉にますます顔を赤くする光二ははっきりと頭に浮かんだ由衣の裸体をかき消すのに必死になって頭をブンブン振っている。何も知らずにそんな光二を見ている康男は明らかに変なものを見る顔つきになりながら言葉を発せずに指をさしてあれは何だと表現した。周人は苦笑気味な表情で肩をすくめるだけで何も言わない。小首を傾げる康男は小さく笑うとギュッと目を閉じて険しい顔をする光二に近づいた。


「どうした?ヤラしい事でも考えていたのかい?」

「ちち、ち、違いますよぉ!もう!」


明らかに動揺しながらそう言う光二の真っ赤な顔を見てますます不思議そうな表情を浮かべる康男を見やる周人は堪えきれずに噴き出すと、自分を睨む光二もお構いなしにお腹を抱えながら声を出して笑うのだった。


職員室へと戻った3人だったが、光二は経理関係の打ち込み作業に入り、そこから離れた場所に座る周人と康男はなにやらひそひそ話を始めた。周人が康男に用があることは聞いていた光二だが、その内容が何かまではわかっていない。打ち込みをしながらもそれが気になって仕方がないせいか、何度もエラーを起こすパソコンにイライラしながら、光二はチラッと背後に座る2人の様子を探るような姿勢を取った。だが、顔を寄せ合ってかなり小さな声で話をしているせいか何を話しているかは全くわからない。とりあえず打ち込み作業に戻るが、やはりキーボードを叩く指は思った箇所とは違う部分を押してばかりだった。こうなったら能力を使って2人の思考を読むことに決めた光二は、ここ最近この力をろくな事に使ってないなと思いつつも背後にいる2人に意識を集中していった。だが、その時、不意にさっきの周人の思考、由衣の裸イメージが鮮明に思い出されてしまい、光二はまたも顔を真っ赤にして頭をぶんぶん振りまくった。周人がイメージするだけあって、その裸身は間違いなく由衣本人のものだろうと思われる。だからこそ、光二にしてみればかなり刺激的であるそのイメージは消すことの出来ない鮮明さを保って脳に残っているのだ。これでは意識を集中する事もできないと思い、イメージを完全に消滅させるために瞑想するようにしながら頭の中を空っぽにしようとした。だが、空にしようとすればするほどそれを思い出してしまう光二は頭を抱えるようにしながら上半身ごと頭を激しく揺すった。


「どうしたんだい、彼は?」


もだえる光二の後ろ姿を見ながら心配そうにそう言う康男に対し、もはや笑いを我慢できない周人はだらしなく緩んだ表情を見せながら噴き出すようにして笑い声を上げると机に突っ伏してしまった。


「・・・・何だよ・・・・この2人」


物凄く鋭い目で笑い転げる周人を見やる光二を見ながらそうつぶやく康男は訳がわからないといった風に疲れた表情を見せた。


「はぁ~・・・・ま、簡単に言うと・・・ププッ・・・・由衣の・・・ククク・・・裸を・・・・クク・・・イメージ・・・・した・・アハハハハ!」


説明しようとしてるのか、はたまた笑いたいのかわからない康男はもうダメだこりゃとばかりに肩をすくめるしかなかった。


「僕が思考を読むのを防ぐために、木戸さんは吾妻さんの・・・・その・・・裸を・・・イメージしたんですよ」


裸という言葉だけやや小さめに、光二はそう説明した。そこでようやく全てを理解した康男はさっきの周人同様かなりにんまりした顔を光二に向けながらお腹を抱えて笑い続ける周人を横目に見やった。


「いいなぁ、君は・・・イメージとはいえ裸を見られてさ」

「もう!」


怒った顔をする光二に苦笑する康男は涙をいっぱいに溜めた目をしながら顔を上げた周人を肘で突っついてみせた。


「彼だけにいいもの見せて・・・羨ましいよ」

「でも、胸とか結構大きいサイズでイメージしましたからね・・・・正確ではないですよ」


まだ表情を緩ませる周人は目に溜まった涙を拭きながらそう言った。


「それでも羨ましい・・・」


康男は心から羨ましそうにそうつぶやくと、ようやく落ち着きを取り戻した周人を無視して光二の方へと歩み寄った。光二は憮然とした態度をしながら真横に立った康男を見上げると片眉を上げて何かしらの意思表示をするのだった。そんな光二を見つめる康男はかなり真剣な表情をしているため、光二もまたその表情を引き締めて康男を見やった。


「三宅君・・・」


声もいつになく真剣な為、光二はやや緊張した様子で次の言葉を待つ。


「君のそのイメージ、僕に送る事は出来ないのかい?」

「・・・・・はい?」


もはや言葉をなくす光二の様子を見るまでもなく噴き出した周人は息苦しさとお腹の痛さに悶絶しながら涙を流して笑い転げるのだった。


ドアを開いた由衣はあまりに静かなその様子に何とも言えない違和感を感じていた。入り口近くの席に腰掛ける周人はコーヒーを片手にし、自分の席に座る光二の横に立って何かを指示していた康男も首を傾げる由衣にお疲れの言葉を投げた。だが、光二だけは全く振り返ろうとはせずに背中を向けたままだ。すぐに自分のスリッパに履き替えた由衣は自分の席へと向かい、その後から入ってきた忍を先に行かせてから周人は台所へ紙コップを捨てに向かった。


「疲れたぁ・・・」


教材を机の上に置いて首を回しながら疲れたを連呼する由衣をチラッと横目で見やった光二は由衣と目が合った瞬間、すぐにパソコンへと向き直ったが耳まで真っ赤にして身を固まらせるようにして動かなくなってしまった。そんな光二を見てますます不思議そうにする由衣を後目に、康男と周人は必死で笑いを堪えていた。


「さて、ほんじゃバスを出してきます」


そう言うと意味ありげにニヤニヤしながら何度か光二の肩を叩いた康男は周人と目を合わせると、思わず噴き出しそうになりながら外へと出ていった。台所で同じように口を手で押さえながら必死で笑いを我慢する周人は何とか自分を落ち着かせると、タバコを吸いに外へと向かった。由衣はそんな周人の背中を見送りながら帰る準備を整え始めた。


「ねぇ、なんかあったの?」


光二にそうたずねても首を横に振るだけで決して自分を見ようとはしない。顔はゆでたタコのように赤さを保ったままずっとパソコンを睨むようにしているのみだ。


「変なの・・・」


そう言った由衣はジッと自分を見ている忍を無視して周人を追うように外へと向かった。靴を履いて玄関を出たすぐ横、2階3階へ続く階段に腰掛けてタバコに火を点けようとしている周人に目を留めた由衣は小さく微笑みながらその前を通り過ぎて手すりの方へと回ってそこにもたれるようにした。そんな由衣の背中を見る周人の口元も心なしか緩み始めていた。


「懐かしいな」

「そうね・・・やっぱりそこがお気に入り?」

「・・・落ち着く」


その返事にくすくす笑う由衣を生徒たちは不思議そうな顔をしてみていた。ただでさえ見ない顔の周人がいるだけで俄然注目を集めるのだが、そこにごく自然に由衣が寄り添えばさらに注目度は高くなる。2人の雰囲気が同じ色の空気のようにとけ込んでいる事から、ただならぬ関係であることは誰の目にも明らかだ。だからこそ、この男が黙っていられるはずもない。


「ユイ・・・そいつ、誰?」


缶コーラを飲みながらゆっくり近づく純一郎に、由衣は体をすくめるようにしてみせた。合宿以来、恵の入院などでシフトが変則的になった為、純一郎と顔をまともに合わせるのは今日が初めてだ。コーラを飲み干した純一郎は小さく小馬鹿にしたような笑いをしてから階段で紫煙を揺らす周人の方へと目をやった。『吾妻先生』とは呼ばすに名前を呼び捨てにした時こそ純一郎を見た周人だったが、今は自分にとって正面、つまりは純一郎からすれば横顔を見せている状態となっている。左頬の傷を見て、周人の世代的に『なりきり魔獣』という言葉を思い出したせいか、周人という人間を勝手に『弱いヤツ』と認識した純一郎は不適な笑みを浮かべながら完全に空になった缶を真上へと放り投げた。皆がその行為の続きを想像した通り、純一郎はまず右足で落ちてきた缶を再度真上へと蹴り上げる。次に左足で蹴り上げると、周人を睨むようにしながら宙を舞う缶を見ることなく左右交互に全く同じ位置へと缶を蹴りで舞い上げていった。いつしか職員室から光二と忍も顔を出している。康男はやや離れた位置にある駐車場内のバスの運転席から嬉しそうな顔をしてその様子を静観していた。


「あんた、誰さ」


そう言われてようやく純一郎の方を見た周人はさもめんどくさそうに立ち上がると階段を下り、由衣を背中にするようにして純一郎の前に立つ。そんな由衣の横にやってきた光二は地面から何かを拾い上げる周人を見て不思議そうな顔をしたが、2人の動向から目を逸らすことがないようにやや遠くを見るようにしてみせた。缶は毎回ほぼ同じ位置に舞い上がり、器用に左右の足で交互に蹴り上げてくるくると回転している。そんな缶を見やる周人は灰が多くなってきたタバコをくわえたまま右手に持った小さな何かを指でもてあそぶようにして動かしているだけだ。


「あんた、耳聞こえないの?」


苛立つ様子もなく余裕の笑みを見せる純一郎を取り巻くようにして生徒全員がその動向に注目している。


「ここのOBだよ」

「ユイとの関係は?」

「彼氏」


タバコをくわえたまま平然とそう言いきる周人の言葉に周囲はざわめいたが、自分の予想の通りだった純一郎は吐き捨てるような笑いをしてからやや強めに缶を空中へ蹴り上げた。そして次の瞬間、くるっと体を回転させた純一郎は落ちてきた缶に対し、見事なまでのタイミングで回し蹴りを喰らわせた。かかとで蹴り出された缶はその底を蹴られて猛スピードで周人目がけて飛来する。由衣と光二はそんな缶など蹴り返すか、あるいは避けるかと想像していた。だが、実際は全くその場から動かなかった周人の左肩に当たったのか、缶は周人の頭の上を物凄い速さで回転しながら舞い上がり、やがて地面に当たって自らをアピールするがごとく金属音を響かせてかなり遠くの方まで転がっていった。驚く由衣の顔を見てから周人を鼻で笑うと、純一郎は地面に置いていた自分の鞄を肩からかけて小馬鹿にした目つきをしながら円を描くようにして事の成り行きを見ていた生徒たちの方へと歩いていった。周人はポケットから取り出した携帯の灰皿にタバコの灰を指でトントンと落としてからまた階段へと戻ってそこに腰掛けた。周人がくわえるタバコが発するポツッと灯る赤い点が暗闇に目立つ。揺れる煙をぼんやり見ている周人は自分を睨むように見ている由衣をすました顔をしながら見返すが、その表情はやや困ったような感じとなっていった。てっきり反撃すると思っていた由衣にとって、これは明らかに期待はずれというか、裏切り行為のように思えてしまったのだ。付き合い始めてから今まで周人を情けないと思った事はない。だが、今は失望が胸を埋めていき、ひどく裏切られた気持ちになってしまった。あまりに腹立たしい気持ちを抑えきれなくなった由衣はさっさと職員室へと戻ると、開いていたドアを力任せに閉じて轟音を立てて姿を消してしまった。


「おたく、前途多難ですね」


忍も周人を馬鹿にしたようにそう言うと鼻であざ笑うようにして職員室へと戻っていく。そんな忍に小さく笑う周人は手に持っていた携帯の灰皿にタバコをもみ消して満足そうな顔をするのだった。


「なるほど・・・そう来たか・・・」


一部始終をバスの中から見ていた康男は満足げに微笑むと、人だかりに向けてライトを照らし、2度クラクションを鳴らしながらバスを駐車場から進めてくる。海がわれるかのように人のかたまりが2つに分かれるのを見ながら、光二は周人が座る階段の手すりに手を置くと、自分を見た周人に小さく笑顔を見せた。


「まさか、って感じの結末でしたね」


手すりにもたれてバスに乗り込む生徒たちを見渡す。そんな光二を見上げる周人はごく普通の表情をし、何の反応もみせなかった。


「まさか、あの速度に合わせて小石を飛ばすなんて・・・・僕には出来ません」


その言葉に、周人の顔に感心したような笑みが浮かぶ。


「拾った小さな小石で飛んできた缶を、しかもそれを真上に打ち上げるほどタイミング良く正確に打ち込めるなんて・・・想像も出来ませんでしたよ」


缶が周人の肩口に当たる瞬間、真上に上がった現象をそう説明した光二に満面の笑顔を向けた周人は階段の上に立つと同じようにバスに乗る生徒の方へと視線を向けた。その中には自分に対して小馬鹿にした笑いを見せながらバスに乗り込む純一郎の姿も見える。


「何も知らないって事がいかに幸せか・・・・って事ですか」


バスの中に姿を消した純一郎を見る光二はため息混じりにそうつぶやいた。


「木戸無明流、『飛燕ひえん』・・・・本当は相手の目を潰すために石や針なんかを飛ばすんだ。指の力のみでね」


何故かそう技の説明をする周人を振り返れば、夜空を見上げているその顔からはどんな感情も読みとれないほどの無表情が見て取れた。そんな光二は2度鳴らされたクラクションが告げるバスの出発に顔を向け、運転席から手を挙げる康男に、そして自分に手を振る生徒たちに手を振って見せた。


「よく気付いたな」


階段を下りて光二の横に立った周人は自分も片手を挙げながらそう質問を投げた。


「小石を拾ったから・・・何に使うんだろうって注目してたんです。そしたら・・・」

「やっぱり君は・・・とんでもない」


意外な言葉を投げかけられた光二は不思議そうな顔を周人に向けたが、すでに玄関のドアに手をかけていた周人の背中しか見えない。何かを拾った行動に注目していれば誰にでもわかったであろうと思う自分が、どう『とんでもない』かが全くわからないのだ。そんな疑問を口にしようとした矢先、急に周人が振り返る。その顔には何かしらの疑問がありありと浮かんでいる。疑問があるのはこっちだと怪訝な顔をする光二はやや緊張しながらその言葉を待つことにした。


「ところでさ、さっきの子、サッカー部?」


もはや天然としか思えないその発言にがっくりうなだれる光二を不思議そうに見る周人は首を傾げながら肩をすくめるのだった。


さっきの件がいまだに尾を引きずる由衣は自分の運転で周人を家まで送るという当初の約束を反故にし、さっさと助手席に乗り込んでしまった。以前から純一郎に関しては危機感を覚えており、現に合宿では不意をつかれたとはキスまでされてしまっているせいか顔を合わせる事すら嫌になるほどであった。その嫌いな純一郎が彼氏の前で自分を呼び捨てにした上に周人自身を馬鹿にするような言動を取った。ここでそのうっぷんを晴らすかのようにギャフンと言わせてくれるものだと信じていた由衣は、結果周人にその期待を裏切られてしまったのだ。その怒りが収まらない由衣を見ながら苦笑する周人は手を振る光二に手を振り返すと運転席に乗り込んだ。カムイ製のオーソドックスファミリカーであるハミングバードは周人の乗るジェネシックと基本的な内装自体は同じであった。由衣から手渡されているキーをスリットに差し込むとそれを回してエンジンをかける。オートマチック車の為にギアをドライブへと入れてブレーキを踏み込むとサイドブレーキを倒した。憮然としながらも手を挙げて別れの挨拶をする由衣を見ながら苦笑する光二の横には忍も立っている。早々と大通りに出た車はめっきり少なくなった交通量のおかげですぐに左折して見送る2人の視線から姿を消した。


「修羅場ですね、あの車内は・・・・これで佐藤はますます増長しますよ」


同情ではない小馬鹿にしたようなその言い方に、光二は小さく笑うと横目であざ笑うような表情をしている忍を見やった。


「増長したら・・・今度は小石で弾く程度じゃすまないだろうけどね」


つぶやくようにそう言う光二を不思議そうに見る忍だが、その真意を探れずにそのまますぐに職員室へと戻っていくのだった。


外を流れる景色は幹線道路を照らすオレンジがかった黄色いランプによって明るく見えた。遠くをマンションのものだと思われる光が集合体となって見えている。住宅地から漏れる明かりも気持ち暗めであり、夜の闇を演出するかのようにひっそりとしていた。カーステレオから聞こえてくるラジオが赤瀬未来の新曲をいち早く流しており、スローバラードのその曲が暗い車内とぴったりマッチしていてますます2人から会話を交わす雰囲気を奪い取っていた。そんな中、不機嫌な由衣に苦笑しつつもこの場の空気だけは何とかしたいと思う周人はいつもと変わらぬ様子を保ちつつ、ゆっくりと言葉を発した。


「そんなに不満か?あいつを無視した事がさ・・・」


赤信号に車を停止させる周人を全く見ることなく、窓の方へと顔を向けている由衣はうっすら反射して窓に映る周人を睨むようにしてみせた。


「はっきり言って不満だね!」


まさしくはっきりそう言う由衣を由衣らしいと思う周人は再度苦笑を漏らしながらも目の前の横断歩道を歩いている携帯電話で笑いながら会話している若い男を目で追った。


「・・・・そうか」


さすがに今の言葉にはカチンときたのか、由衣は睨むというレベルを超えた目つきで直に周人を見た。その視線を受けても平然としている周人の顔がさらなる苛立ちを増幅させていく。


「そうかじゃないでしょ?腹立つなぁ!」

「じゃぁ、あそこであいつをぶっとばせば納得したわけか?」

「そうよ!」


声を張り上げる由衣に対し、周人の口調は極めて冷静だ。やがて信号が青へと変わり、周人はゆっくりと車を前に進めた。後続車もそれに習って次々と発進していくのをルームミラーで確認した周人は上り坂となっているトンネルを見て、やや強めにアクセルを踏みながら勢いをつけるようにして加速させた。


「それって、弱い者いじめになるだけだし・・・」

「どこがよ!」

「あいつはお前に何かしたか?」


そう問われて、由衣は合宿でのキス事件を周人に告げた。不意をつかれたとはいえキスされた事。危機一髪の場面で駆けつけた光二に救われた事。だがそれを聞いても周人は片眉を上げたのみであまり反応を示さない。この態度にはもはや由衣の怒りは頂点を超えた。


「私が怖い思いをしたのに、その反応は何?」

「それでアイツが調子に乗った行動に出たら、そん時はぶっとばしてやる。ま、正直むかっ腹は立ってるけどな」


言葉とは裏腹にむかついているように見えないその顔に耐えきれなくなった由衣はプイッと窓の方に怒りに燃えた顔を向けた。そんな由衣に小さくため息を漏らした周人は由衣の家へと続く交差点を左折した。


「あそこでアイツをぶっとばしたら・・・それじゃオレは何の進歩もない、昔のオレと一緒になっちまうんだぜ?」


その言葉の意味すらもう考える気がない由衣は苛立ちを隠すことなく窓の外の見慣れた景色を見ているのみである。


「誰彼構わず、理由もなくただ暴力を振るっていた頃とな。さっきあいつがお前に何かしてたら、オレはあの缶を蹴り返して顔面にぶつけてやったさ・・・でも、あいつがしたのはオレを馬鹿にしただけであって、その他には何もしてない」

「だからって・・・・」

「キスの事でも知ってたら・・・多少は違った結果になったろうけどな」


そう付け加えてから周人は由衣の家の前に車を止めた。重苦しい空気もお構いなしに、周人はサイドブレーキを引くと財布と携帯電話を持っていることを確認してから由衣の方を見た。相変わらず窓の方へ顔を向けている由衣だが、その表情に浮かぶものは怒りか、はたまた悩みか。周人はそんな由衣に小さく笑みを浮かべるとシートベルトを外してドアロックを解除した。


「車庫入れ、頼んだぜ。じゃぁ、帰るわ」


そう言っても全く顔を向けようとしない由衣に困ったような苦笑じみたものを口元に浮かべた周人はおやすみと声をかけて車を降りようとした。


「おやすみ」


口調は怒っているがそう言う由衣に嬉しそうな顔をする周人はそのまま低いアイドリング音を残すハミングバードを降りてドアを閉めた。車の後部に背中を向けながら交差点近くのバス停を目指す周人のその背中をドアミラー越しに見ている由衣の表情は怒っているようであり、そして泣いているようでもあった。そして約三十分後、さくら谷駅のホームで電車を待つ周人の携帯に由衣から入ったメッセージは『ごめんなさい』であった。たった一言のメールであったが、周人はそれを見て小さな微笑みを浮かべると『こっちもな、おやすみ』とだけ返事を返すのだった。

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