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くもりのち、はれ  作者: 夏みかん
第十一章
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私の周人さま(12)

パーティの終わりを告げる司会者の言葉を筆頭に、3本締めをしてお開きとなったのは予定時間をオーバーした午後10時20分過ぎであった。周人は由衣を送っていく手はずとなっていた送りの車を確認するが、そのリストの中には由衣の名前はない。そんな周人は背後から菅生に呼び止められて笑顔を見せた。


「ご婚約、おめでとうございます。いやぁ、びっくりしましたよ」

「あぁ、ありがとう。しかしあれだけの大声で驚いてもらえたら隠していた甲斐もあったというものだよ」


その菅生の笑いを含んだ言葉に周人は照れた顔をして頭を掻き、由衣もおめでとうございますと言葉をかけた。優子も嬉しそうに礼を言うと、やや頬を赤らめて菅生を見やった。


「はい、これがキーだよ。お父様に内緒で、木戸君と泊まるといい」

「ありがとうございます」


ウィンクをしてそう言いながらキーを手渡す菅生に優子同様頬を赤らめてそれを受け取る由衣は小さめの声でお礼の言葉を言った。わけがわからないといった顔をしている周人の肩に手を置いた菅生は優子と会話をしている由衣を一瞥してからそっと小さな声で耳打ちをした。


「いつか彼女との結婚報告が聞けることを楽しみしているからね。ファンとしては、相手が君なら文句はないから」


言葉を失う周人の肩をポンポンと叩いた菅生は由衣にも挨拶をし、優子をともなって会場を後にしていった。とりあえずエレベーターは混雑するため、時間をおくことにした2人は休憩ができるように設置された小さな背もたれのないソファに腰掛けた。キーをまじまじ見つめる由衣を見やる周人は胸の動悸が激しくなっていくのを感じていた。本当にこのまま泊まることになれば、2人の関係は確実にもう1つ上のステップへ進むことになる。始めの3ヶ月間はろくに会えず、その後の2ヶ月はまめにデートを重ねていたのだが、なかなかそういう機会に恵まれなかったせいか、2人はまだ愛を交わしていない。それがわかっている由衣もどこかそわそわした感じでキーをいじっては周人を見やるという動作を繰り返していた。やがてエレベーターホールの人垣もなくなり、2人はほとんど無言のままキーに書かれている1802号室へと向かった。十八階のその部屋全てはセミスイートであり、一流ホテルのセミスイートともなれば普通のホテルのVIPルームに相当する。現にその広さは半端ではない。ベッドルームの他にプラズマテレビが置かれた広いリビングに、部屋の片隅にある小さな日本庭園を置いた和室、さらにはテラスまであるのだ。そしてバスルームの大きさもかなりのものであり、深めの浴槽の上にはシャワーが付き、さらにはジャグジーが装備されていた。ここへ来るまではかなり緊張していた2人はそれもどこへやら、歓声を上げて各部屋を見て回った。特に由衣はこの部屋を大いに気に入ってしまい、自分が着替えを持ってきていないことに気が付くまで随分時間を消費してしまったほどだ。周人は出社した際のスーツがあるため、明日は一旦各自の家に戻って着替えを済ませてからデートに繰り出そうという話になった。納得してベッドに腰を下ろした由衣はそのベッドが1つしかないことに気付いて目を丸くした。この部屋は大きなダブルベッドがあるのみで、あとは豪華な黒い革製のソファが置いてあるのみである。まさしく一緒に寝なさいと言わんばかりのシチュエーションに耳まで赤くした由衣はなるべく平静を装った声で先にお風呂に入るように周人に言うと、備え付けのポットを使ってお茶を入れた。周人もやや緊張気味にそうだなと答えると、浴槽にお湯を張りに行くのだった。


「しっかし、社長の電撃発言には正直ビビったな」


せっかくだからと装備されているジャグジーを使うために浴槽にお湯を張っている間、2人はソファに腰掛けてお茶を飲み、備え付けのスナック菓子を頬張っていた。互いに緊張をもみほぐす為にとそうしたのだが、お互いの肩が触れ合うたびに体を強ばらせてしまう。特に由衣の緊張が伝わってくる周人は自分の緊張をさらにあおられているようで、飲んでも飲んでも喉が乾いて仕方がなかった。そんな周人をチラッと見た由衣は一口お茶をすすると、意を決してその心の内を吐き出すようにゆっくりと話を始めた。


「私、今日、そういう気持ちで来たから・・・・だから、いいよ」


コップの縁を親指で何度もなぞりながらそう言う由衣は驚いた顔をして自分を見やる周人にぎこちないながらも笑顔を見せた。周人は眉をひそめるように由衣を見つめていたが、はっきりそう言ったせいで幾分か緊張もましになった由衣の笑顔は徐々に自然なものになっていった。


「でも、無理してるなら、いいよ。時間かけてゆっくり進めばいいんだよ」

「無理してないよ。確かにちょっと怖いけど、でも周人と、したいし・・・・」


恥ずかしそうにしながらもはっきりそう言った由衣にさらなる愛おしさを感じた周人はギュッと強く由衣を抱きしめた。由衣もまた周人の背中に手を回して強く抱きしめ返す。


「わかった・・・・でも、もしダメならすぐ言うんだぞ?」

「うん、ありがとう」


一旦体を離した2人は見つめ合うと優しいキスを交わしてから、また抱きしめ合うのだった。


先に風呂から上がった周人と入れ替えに由衣がバスルームへと向かった。少し長くなるかもという言葉に笑顔を返した周人は一旦リビングのソファに腰掛けるとテレビをつけてニュース番組を見た。備え付けの白いふわふわのバスローブに身を包み、バスタオルで髪を拭きながら次々にチャンネルを変えていくのだがどれも頭の中には入ってこない。しばらくそうしていたのだが、はっきりいってかなり緊張してきている周人は部屋の明かりを落とすとベッドルームへと向かった。そこにも小型のテレビが置いてあり、それをつけた周人はここの照明も落として暗くすると枕元にある照明をつけて申し訳程度の明かりを確保し、そのままそわそわと落ちつきなく同じく枕元にあるラジオのスイッチをつけたりして気を紛らわせた。


「やっぱ・・・・オレが怖いかも・・・」


昔の事を思い出し、そう弱々しくつぶやいた周人はバスルームの扉が開く音に心臓の音が大きくなっていくのを感じる。暗い中に白いバスローブ姿が浮かぶのを見た周人はゴクリと唾を飲み込んですでに入っているベッドの中から室内に入ってきた由衣を見つめた。風呂上がりの由衣は濡れた前髪を揺らしながらベッドに腰掛けるとテレビを見ながらバスタオルで髪を丁寧に拭いていく。周人は由衣とは反対側にあるテレビの方を向いたまま全く動こうとはしなかった。やがてバスタオルをソファの背もたれにかけた由衣がシーツのこすれる音を鳴らしながらベッドの中へと入って来た。周人はもはや極度の緊張と重圧に体を硬直させるしかなかった。自分より明らかに緊張している周人に苦笑を漏らした由衣はすでに覚悟を決めているせいか、普段と変わりない表情で周人の顔を覗き込んだ。


「もしかして、怖いの?」


まさかと思いつつもからかうためにそう言った由衣を見つめた周人は小さなため息をつくとその胸の内を正直に話し始めた。


「はっきり言うと、怖い・・・いや、それ自体は怖くないんだけど・・・ほら、昔、恵里とこうなったすぐ後に、彼女を失ったから・・・・だから・・・・」


その言葉を聞いた由衣は驚いた顔をしながらも小さな笑みを浮かべてそっと周人の頭を一撫でした。周人は体を動かし、自分を真上から見下ろす由衣を見上げる格好になって弱々しい笑顔を浮かべた。


「心配ないよ。私はどこにも行かない。死ぬときは周人より後に、ほんの何十秒かでも後にするからさ、だから大丈夫だよ」


自分の前髪を掻き上げながらそう言い、その額に優しくキスをしてくれた由衣にどう応えていいかわからない周人はその溢れそうな感謝の気持ちを押さえることなくそっと体を入れ替えて由衣を上から見下ろす格好となった。由衣の優しいその言葉に、周人の中にあった恐怖は一気に消し飛んでしまっていた。そんな周人の表情の変化を読みとった由衣は微笑みを浮かべていた。少し潤んだ瞳で自分を見つめる由衣を心から綺麗だと思う周人はこの世界で一番大切な存在を、今度こそ絶対に守り通すという覚悟を新たに、そのはち切れんばかりの愛おしさを淡い微笑に込めた。


「過去の経験を生かして、優しく頼むね?」

「経験って・・・もう何年も前に1回したのみだし・・・・・けど、絶対優しくする」

「うん」

「愛してる」

「私も、愛してる」


握り合った手と重なった身体から感じるお互いの温もりを一生忘れることはないと思う2人の唇が重なり合う。お互いの体温を直に感じながら抱きしめ合うこの瞬間に、2人は永遠という漠然としたものさえここにあると信じられるのだった。


仕事も忙しい年末のせいで結局暮れの押し迫った三十日まで出勤した周人は大晦日の夜に由衣と出かけてそのまま初詣を済ませ、正月の3日間を実家で過ごしていた。由衣の家族も正月は祖父の家に行くことになっており、周人が戻る1月4日をデートの日としていた。その日に周人は日本酒が大好物だという秀雄にお酒のお土産を持って挨拶に行くことにしていた。もちろんそれは結婚を承認してもらう挨拶ではなく、清き交際をしているといった報告をするためであり、結婚を前提としている事もはっきり告げるためであった。元旦の日は父親の源斗と酒を飲みかわし、久しぶりに気の知れた仲間たちとの再会を喜んだ。そこで驚かされたのは、この春から哲生が桜町の隣にある東雲しののめ町へ引っ越して来るというものだった。大学を出てモデルとしてブレークしている哲生はこの春から創刊するという新雑誌の専属モデルとなった事が原因の一人暮らしだと説明した。それとは別に、東雲町に住んでいる叔父が経営している武術道場の師範を務める事にもなっていたのだ。気功を操る哲生はそれを生かした合気道と柔術をミックスさせた『合気柔術』の使い手でもあり、かつて周人たちと『キング』に戦いを挑んだ際には『戦慄せんりつ魔術師マジシャン』と言われて恐れられたほどの実力者である。実際周人と互角に戦った数少ない男でもあるのだ。その腕を見込まれての事であり、柔術道場を開いている叔父から是非にと頼まれていたのだった。もちろん遠く離れてしまうミカは大反対をしたのだが、哲生はそれを何とか説得して一人暮らしを承認させたのだった。3年後に必ず結婚するからと言われてそれを渋々承認したとはいえ、一人暮らしまでまだ時間があるにもかかわらずミカは呑み会の席でも哲生から離れようとはしなかった。彼の浮気癖を知っている全員からきつい言葉をもらいつつも絶対に浮気をしないと誓った哲生だったが、誰もその言葉を信用せずに近くに住んでいる周人が監視役を命じられる始末であった。そんなこんなで元日を終え、2日は皆が親戚周りをするために1日フリーになった周人は、お供え用の花を片手に春になれば見事な花を咲かせる桜並木を脇に持つ石畳の坂を上っていた。周人の母方の祖父、そして両方の祖母ともすでに亡くなっており、父方の祖父を含め、長男である源斗の元へと親戚が集まってくるために周人たちが親戚周りへと出かける必要はなかったのだ。風もなく、今日は比較的温かい。黒のロングコートをひるがえして坂を上りきったそこは広大な広さを持った墓地であった。石碑の林立するその光景を立ち止まって見渡す周人は白い息を吐きながらその真ん中辺りへと目をこらした。再び歩み始めたその足は今さっき見つめていた場所へと向かっている。石の階段の手前にある水道の水を備え付けの木で出来た桶の中にくみ終えるとひしゃくを手にして階段を上り、『磯崎家之墓』と書かれた墓石の前で足を止めた。既に家族の者が来ていたせいか、供えられている花は真新しく、線香の燃えかすも残っている。周人は桶を置くとすでに供えられている花を傷つけないようにしながら自分が持ってきた花をそっとそれに足していく。そして風のない時を見計らって線香に火を灯すとそれを置き、墓石のてっぺんから優しく水をかけていった。桶の中の水を全てかけ終えた周人は立ったままジッとその墓石を見つめていたのだが、そっと目を閉じて手を合わせると、ほんの数秒間そのままの態勢で動かなかった。そして目を開き、手を下げた周人はそこに誰かがいるような優しい笑顔を見せると、おもむろに墓石に向かって語り始めた。


「恵里・・・夏以来だな。オレ、彼女とうまくやってる。って、お前のことだ、もう知ってるかもしれないけどな。彼女は、オレの中にいるお前を認めてくれてるし、お前の名前を出しても嫌な顔を絶対にしないいい子なんだ。ま、少々きつい所もあるが・・・」


苦笑を漏らすと同時に視線を外すが、笑みは消えることはない。


「こんな事、お前に言うべき事じゃないのかもしれないけど、オレ、お前を好きだった時以上に、彼女が好きだ。だからって心配するなよ・・・オレはお前を忘れちゃいない・・・そして彼女も、それを望んじゃいない・・・・」


周人はうつむき、目を伏せて『恵里』の顔を思い出した。麦わら帽子をかぶったショートカットの似合う、そしてその愛くるしい笑顔は今でも脳裏に焼き付いているのだ。決して忘れられないその笑顔はいつでも思い出すことが出来る。


「恵里、今度の夏には彼女を連れてくるからさ、会ってやってくれな?」


淡い微笑を浮かべる周人の髪を、優しい風がそっと揺らした。まるでそれは『恵里』からの返事のように思えた周人はありがとうとつぶやくと、墓石に背を向けた。そのままの状態で眼下に広がる住宅地を見下ろす景色を見やった周人は空になった桶と花を包んでいた紙を手に、『恵里』の眠るその場所を後にしたのだった。


桜が例年よりも早く咲くほど温かい日が続く4月2日、由衣と真琴は最近オープンしたばかりの桜ノ宮北側にある展望台へと来ていた。桜ノ宮は桜町随一の繁華街として有名であり、各交通機関が入り交じる平地部分の近代的ビル街と、少し北側にある丘状になった高級住宅街に分かれていた。その住宅街は綺麗な一軒家が数多く立ち並び、繁華街に近いせいもあってかなり高価な場所となっている。いわゆる桜ノ宮南と呼ばれる繁華街は若者向けの街として数多くの施設が建ち並び、桜ノ宮北は高級住宅街の外れにある花見ヶ丘公園を中心にした展望設備が申し訳程度にあるぐらいだった。その花見ヶ丘公園はその名の通り今の季節は桜の花で埋め尽くされ、繁華街からもピンク色した一角が鮮やかな演出として見て取れるほどの名所となっていた。雑誌などで紹介される花見のおすすめスポットとしてはここが一番有名なのかもしれない。その花見ヶ丘公園から少しばかり外れた場所にある少々さびれた展望台は人気もなく、桜の木も寂しげに1本だけ植えられているのみであり、昔はそれでも多くの花見客でにぎわっていたのだが花見ヶ丘公園が綺麗に整備されて住宅も建ち並ぶようになってからはそういった人もいなくなっていた。そんな名もない展望台のベンチに腰を下ろした2人はさっきコンビニで買ったサンドウィッチとペットボトルの紅茶を広げ、綺麗な町並みと展望台にある唯一の桜であるその大きなしだれ桜を眺めながらささやかな花見を行っていた。平日の、とりわけ週明けすぐの昼間とあってかさすがに人気はない。


「しかし、いい天気なのはいいんだけど、ちょっと暑いぐらいねぇ」


わざわざ着てきた緑のチェック柄の上着を脱いでピンクの長袖Tシャツにジーパン姿となった真琴は時折吹いてくるそよ風を目を閉じて受け止めると幸せそうな顔をしてみせた。そんな真琴に笑顔を見せながら、由衣はプラスチックの容器の蓋を開けてささやかなお弁当の準備をした。お気に入りのデニムのワンピースのその胸元にはハート形したシルバーのネックレスが光り輝いている。右手の薬指にもシンプルな指輪をし、さらにその手首にはこれまたシルバーのチェーン状したブレスレットをしていた。今では胸元まで伸びた髪が少々うっとおしいのか、うなじの辺りでくるっと回すようにして留めてあった。そんな由衣を横目でじとーっと見ながら、真琴はあからさまにため息をついてみせた。


「いいよねぇ・・・あんたは・・・彼氏からいっぱいそういうの買ってもらってさぁ」


その言葉に顔を上げた由衣は自分の右手を見てから真琴の方に目を向けた。


「最近そればっかだね・・・クリスマスにこれ買ってもらった直後には何も言わなかったのにさ」


苦笑混じりにそう言う由衣は蓋を開けておいた紅茶を差し出し、真琴は礼を言ってそれを受け取った。ここ最近、気が付けば由衣の身につけているアクセサリーについてそう言ってくる真琴に対し、由衣は少々疲れていた。だが、そんな事を言ってくる真琴の複雑な心境を知っているだけに文句を言わずにそうさらっと聞き流していたのだった。


「お母さんの再婚話、本決まりなの?」

「う~ん、まぁ、そうなるね・・・・実は来週末にその相手の人と会うことになったんだ」


素っ気なく、まるで興味なさげにそう言うと紅茶を一口飲んだ真琴に対し、明らかに驚いた顔をしている由衣はペットボトルの蓋を開けようとした動きを止めてしまった。


「しかも相手には私と同い年の息子さんがいるらしいからね・・・一気に4人家族になっちゃうわけ」

「反対・・・するの?」

「ううん・・・母さんが選んだ人だからね、私はそれでいいの。ただ、今はちょっと複雑かなぁ」


眼下に広がる景色をぼんやり見つめながらそう言う真琴は小さく笑うとなんともいえない表情をしている由衣に顔を向けた。


「まぁ、その息子さんがいい男なら大歓迎なんだろうけど・・・会ってみてからのお楽しみってとこね」

「そうだね・・・いい男だったら毎日顔を合わせるわけだし、いいかもね」


やや強めの風が桜の花びらを舞わせる。2人の髪も揺れる中、真琴は由衣をジッと見つめてから小さなため息をついた。その真琴のしぐさに小首を傾げた由衣は手にしていた缶を一旦脇に置いた。


「何?」

「あんたがうらやましいよ・・・いい彼氏がいてさ」

「真琴もすぐに出来るよ!顔も可愛いんだしさ」

「なんか、あんたに言われると・・・・・ムカツクかも」


笑いながらそう言う真琴に由衣は苦笑した。真琴から見ても由衣は可愛く、キャンパス内でも隠れたファンを含めれば相当な数に昇る男子学生から注目を浴びている。中にはお金持ちでハンサムな者もいるのだが、由衣は一切見向きもしなかった。それほど彼氏である周人の事が好きなのだと知っている真琴にとって、ここ最近は特に自分もそういった人に巡り会いたいと思うようになっていた。


「あ~・・・どっかにかっこよくて、強くて、超優しくて、さらにお金もまぁ困らないぐらいに持ってる人、いないかなぁ~」


その言葉を聞いた由衣はサンドウィッチを1つ掴むと、それを真琴に差し出した。それを受け取ると、しみじみとそのサンドウィッチを眺め、深いため息をつく。


「たとえ世界を敵に回しても、どんな権力者にも負けないで私だけを見てくれる、守ってくれる王子さま、いないかなぁ~・・・・・・・・・いないよねぇ~」


自分で言った事を自分で否定する真琴に対し、クスッと笑った由衣は紅茶を飲んで一息つくと真琴の方へと顔を向けた。


「いるよ!少なくとも、私はそういう人を知ってる!でも王子さまって感じじゃないけどね」


その言葉に由衣を見た真琴は瞳を輝かしていた。だが、次に出た言葉にその輝きも一瞬にして失われてしまうのだった。


「私の周人さま!彼がまさにそれだね!」


嬉々としてそう言ってのける由衣に対し、露骨に疲れた顔をした真琴はガックリと肩を落とし、うつむいて乾いた笑いを小さく漏らした。


「なんだ、結局ノロケかよ・・・」


引きつった顔でそう言いながら、はっきりとそう言える由衣をうらやましいと思う真琴はいつか周人以上の彼氏を見つけて由衣に自慢してやろうと固く心の中で誓いを立てるのだった。

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