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くもりのち、はれ  作者: 夏みかん
第四章
21/127

心の裏側(2)

とうとう長かった夏休みも終わり、いまだに宿題に追われる者にとって新学期が始まってすぐ2日後の日曜日は天の恵みの日でもあった。この日はあいにくと天気も悪く、あえて出かけようとは思えずに1日中部屋にこもって宿題を仕上げる生徒が多かった。同じく専門学校も新学期を迎えた周人だったが、他の学生と違って宿題がない分、この日曜日は暇つぶしに近所の本屋にでも出かけようとラフな格好でマンションの玄関を出た。空は朝からどんよりと曇っており、雨が降るのも時間の問題のように見えた。ここから歩いてすぐの場所にある雑居ビルの2階には大きめの本屋が入っている。マンガ以外は立ち読みが可能なため、コンピューター雑誌等をよく立ち読みしていた周人はそこへ向かった。だがそのビルに入る寸前、おもむろに後ろから1人の少女に声をかけられた。黒いTシャツからはへそが見え、これまた黒いミニスカートからはすらりとした脚線美を惜しみなく露出している。長めの髪はかなり茶色く、両耳には大きな円状のピアスが見て取れた。ぱっちりした大きめの目といい、かなりの美人であるが年齢は17、8といった風に見えた。それもどこかで見たような顔立ちである。


「どちらさん?」


まるで警戒心を感じさせない表情と口調に、やや調子を崩したのか少女は吹き出すようにしてケラケラと笑った。


「想像以上に面白いわね・・・・私は青山亜佐美。あなたが知ってる青山恵の妹。よろしくね」


ジッと自分を見つめていた周人がその自己紹介を聞いた瞬間、軽い微笑を浮かべたのを見た亜佐美は怪訝な顔をして見せた。それに気付いた周人はその笑みをかき消すとややとぼけた表情で亜佐美を見つめた。


「いや、失礼。あの日レストランでやたら見てきたのはそういう事だったのかって思ってね・・・そうか、青山さんの妹さんか・・・・姉妹でもこう対照的だと面白いな」


そう言われて驚く亜佐美から不敵な笑みが浮かんだ。何度か自分に納得したようにうなずくと、品定めをするかのように周人を舐めるように見やった。


「へぇ、気付いてたんだ・・・さすがは『魔獣』と呼ばれた男ね」

「で、用は?」


『魔獣』と言われても眉一つ動かさない周人はめんどくさそうにそうたずねた。亜佐美は拍子抜けしたような顔をして腕を組むと鼻をフンと鳴らして体を斜めにしながら、周人をねめつけるように見やった。


「いろいろ調べたわ、あなたのこと。なかなか面白い青春時代を過ごしてるじゃない?千早兄弟との抗争、『キング』を倒した事、そして磯崎恵里の死・・・・」


最後の『恵里』の名を出した瞬間、今まで穏やかだった周人から殺気というべき鬼気を感じた亜佐美は蒸し暑い今の気温に反して背筋が冷たくなるのを感じた。冷ややかな目を自分に向けている周人は両手をだらりと力無く下げているのみである。別段何もしていないし、睨んでいるわけでもない。だが、凄まじいまでの殺気は確実に亜佐美に向けられているのだ。


「あまりオレの事を嗅ぎ回ると、後で痛い目を見るのはあんただぜ。青山さんの悲しむ顔は見たくないんでな、忠告だけはしといてやるよ」


凄みをきかせたわけでもないのに知らずにそこから逃げ出したい気持ちに駆られた亜佐美はジッと周人を睨むようにして胸を張り、それを悟られまいと懸命だった。


「それどういう意味?脅迫なわけ?」

「オレに恨みを持つヤツはまだまだ多いってことだ。オレの事を嗅ぎ回ればそういう連中が動き出すかもしれない。あんたを人質にオレを呼び出す可能性だってあるってことさ。利用しようとして逆に利用される・・・・よくある話ってやつだな」


周人はそう言い放つと反転して雑居ビルに向かった。あわてて後を追う亜佐美だが、早足で歩く周人は人ごみに紛れてしまい、すぐに見失ってしまった。舌打ちしながらも仕方なく周人が出てきたマンションの入り口で待つことにした亜佐美の前に、突然3人の男が立ちはだかった。1人はあのレストランの店員であり、亜佐美の彼氏である。いや、今ではもう元彼氏という存在であった。


「何?」


めんどくさそうにそう答えた亜佐美に、元彼氏である男はスタンガンを亜佐美の腹部に押し当てた。その凄まじい電撃を浴びて一瞬にして気を失った亜佐美の両脇を抱えるようにして元彼氏以外の2人の男が周人のマンションの裏手にある駐車場へと運んでいく。人目をはばからず引きずるようにして亜佐美を運ぶ2人の男は自分たちを見ている通行人を威嚇するようにしながら駐車スペースの書かれた白いラインに対して斜めに止めてあるワンボックスカーのドアを開け、後部座席のシート全てを寝かせた所に亜佐美を投げ込むようにして押し込んだ。


「バカが!ナメやがって・・・・」


唾を吐き捨て、いまいましそうにそう言い放った元彼氏は2人の男に乗り込むように告げると自分は運転席側に向かった。だがその時、その足下にコーラの空き缶が飛んできて独特の甲高い音がアスファルトの駐車場に数回こだました。


「あ?」


缶の飛んできた方向から歩み寄るTシャツにジーンズ姿の男に目を留めた元彼氏はそのまま男に向かって大股で進んでいく。そしてその胸ぐらを掴み上げ、顔を引き寄せた。


「何?あんた、ウザイんだけど?」


その言葉を聞いた男は胸ぐらを掴まれたままの状態で口の端を吊り上げた。顔つきも悪い男にすごまれているこの状況下で笑みを浮かべるその男はあの日レストランで亜佐美に監視を命じられた人物である事に気付き、首を揺らしながら下卑た笑みを浮かべた。


「なんだお前、亜佐美のねーちゃんの彼氏か?」

「残念だけど、彼氏じゃない。でも知り合いなもんでね、あの子を解放してもらいに来た」


周人はそう言うと、ワンボックスカーの方を見やった。すでにドアは閉じられ、短く髪を刈り込んだアゴひげのある2人組がドアにもたれかかるようにしてにニヤきながらこっちを見ているのが見える。


「あいつはオレを物みたいに扱ったもんでね、それ相応の使用代金を頂く事になってんの・・・」

「っつーと、さんざん体を楽しんだ後、その行為のビデオを売りさばいてお金儲け、さらにはそれで脅して売春でもさせるわけかな?」


楽しそうにそう言う周人に、元彼氏は怪訝な顔を見せたが、やはり同じように笑みを浮かべた。


「そういうこと・・・だから目障りなんだよ、あんたは」


言いながら空いている手でスタンガンを周人の腹部に押し当てようとした。だが、周人によって掴まれたその手首のせいか、腕はそれ以上前には進まない。それどころか掴まれている手首がギシギシと悲鳴を上げている。そして胸ぐらを掴んでいる手で周人の手を振りほどこうとした瞬間、元彼氏の体が一瞬宙に浮いたかと思うと、白目をむいてその場に倒れ込んでしまった。一体何が起こったか全くわからない2人の男があわてて周人のそばに駆け寄ってきた。その腕にはいつの間にかナイフが握られている。周人は迫る2人の前にゆっくり進むと凄まじい速さの蹴りをまず左側にいる男のこめかみに炸裂させた。ぐらぐらと揺れる頭は思考を失い、その上平衡感覚さえもおかしくなっている。周人はその蹴りを放った足を瞬時に後ろの方向に飛ばした。返す足で同じく残ったもう1人の男のこめかみに後ろ回し蹴りをヒットさせ、2人の男は折り重なるようにその場に崩れ落ちた。黒いアスファルトの上に倒れ込んで気を失っている3人を無視して車に進み、ドアに手をかけて一気に横にスライドさせる。短いスカートから下着を露出させて眠るように倒れている亜佐美の身を起こし、背中におぶると、無造作にドアを閉めた。


「全く・・・お前自身がトラブル抱えてるとは夢にも思わなかったぜ・・・」


そうつぶやくと亜佐美をおぶったまま元来た道を戻り、男たちが倒れている脇を歩きながら完全に意識を失っている3人の男に向かって深いため息をついた。


「車ぐらいちゃんと駐車しろよなぁ・・・」


疲れたようにそう言い放つと、周人は気を失っている亜佐美をおぶったままの状態で自宅マンションへと消えていくのだった。


新城はやや緊張した面もちで繁華街の中心地である桜ノ宮でも一番人の多いセンター街を歩いていた。その緊張の原因といえる恵は薄い青色のシャツに白いスカートを履いて緊張からぎこちない動きをしている新城の横を並んで歩いている。この間、夕立の際にこぎつけたデートの日が今日であり、2人で映画を見ることになっていたのだ。グレーのシャツに黒いパンツを履いた新城はとりあえず昼過ぎという事もあって昼食を取るべく、いつも友達とよく行くお気に入りのパスタの店へと向かっていた。センター街の中心付近にあるその店はまだ比較的客は少ないようで、いくつかの空席が見て取れた。とりあえず店員に案内された席についた矢先、隣に座っている少女たちを何気なく見た新城の表情は引きつったまま固まってしまった。


「あら?吾妻さんに小川さんじゃない・・・こんにちは~」


隣のテーブルに座る由衣と美佐に気付いた恵は小さく手を振ってそう挨拶をした。驚きつつも美佐は軽く頭を下げて挨拶をし、由衣は怪訝な顔をしながら2人を交互に見てから挨拶をした。だがその目は新城を見て固まっている。


「先生、デート・・・ですか?」


美佐がそうたずね、由衣はその返答を待っているのか、ジッと2人を見つめたまま動かなかった。


「う~ん、まぁそうなるかなぁ?はっきり言ってお互い暇だしね」


笑みを浮かべてそう答えた恵は新城に同意をうながすような目を向けた。新城は軽くうなずいたのみであり、そんな新城を見てそうなんだと美佐も笑顔を返した。だが上目遣いにジッと新城を見たまま何も言わない由衣に気付いた恵は1つ大きな咳払いをしてみせた。どこか気まずい雰囲気の中、オーダーを取りに来た店員にランチのセットを注文する。その隣の席ではすでに頼んであったグラタンとパスタが並べられていった。


「小川さんたちは、これからどこへ行くの?」

「映画です。2時からのを見ようと思って、ね?由衣ちゃん?」


可愛い仕草でそう言う美佐に対し、由衣は黙ってうなずくと2人から視線を外して黙々とパスタを食べ始めた。


「ひょっとして、今人気のヤツ?」

「そうです!」


そのまま意気投合したのか、美佐と恵は映画の話を弾ませたが由衣は相変わらず黙々とパスタを頬張るのみだった。新城は2人の会話を聞きながら水を一口飲んだ。


「この間も1つ観たんだけど、これも面白そうだなぁって思ってたのよ」

「じゃぁ、先生よく映画観るんだ?」

「そうでもないけど・・・この間はたまたま木戸クンと遊ぶことになったから、それで」


その思いもかけない言葉に新城と由衣は驚きの表情を浮かべた。そして美佐もまた驚いた表情をしてみせる。美佐と新城に関しては恵と周人が2人で映画を見に行ったという事実に驚くのは当たり前と言えるが、由衣までもが過剰な反応を見せたのはどういう事か。


「木戸とも映画に行ったの?」


こみ上げてくる感情を抑えきれずに少し震える声でそう問いかける新城にあっさり首を縦に振りながら水を飲む恵はあっけらかんとしていた。


「しょっちゅう?」

「たまたま・・・ディナーの半額チケットを貰ったから、それのついでに」


素直にそう言うと、運ばれてきたパスタやサラダを並べる店員を手伝った。新城は顔を伏せがちにその作業を見ていたが、心は全く別の所にあった。そしてそんな新城を見やった由衣は新城が恵を好いていることに気付き、少なからずショックを受けていた。だがそのショック自体には新城が恵を好きだというものに対してだけではなく、周人が恵とデートをしたということも含まれていた。周人からはあまりそういう雰囲気を感じないというか、女っ気すら微塵も感じられないからだ。つい先日の話からも、今でも昔亡くした恋人『恵里』の事を引きずっているような感じを受けた由衣にしてみれば理由はよくわからなかったが心の中で何かが痛むのだ。そして、ディナーのチケットを貰ったからとその相手に自分ではなく周人を選んだという事がかなりショックだった新城は、合宿の夜に聞いた片想いの相手が周人ではないかという疑念が渦巻き、徐々にそれが大きくなっていくのだった。その後、どこか気まずい雰囲気を打破しようと、美佐は恵と今から見る映画の話で盛り上げ、柔らかい空気になってきたのか自然と新城もそれに加わった。だが由衣だけは相づちを打ちながらもどこか上の空であった。由衣の目から見ても美人で聡明な恵に新城が惹かれるのはわかる。そしてそれは予想の範囲でもあったのだが、認めたくなかったというのも実際にある。だが恵が周人を好いているのを知った時から新城に対しての安心感を持ってしまっていたこともまた事実であった。だからこそ、新城が恵に惹かれ、恵が周人を好いているという関係を知ってしまった今、動揺が大きいのだ。だが、肝心の周人の気持ちがわからない以上、恵の想いが進展するかどうかは未知数である。由衣は自分の新城への想いをうち明ける時期が来たことを悟り、そして告白を決心するのであった。


昼食を終えて映画館のあるビルに着いた4人はそのまますぐにチケットを購入した。だが、まだ上映まで1時間ほどあるということで、時間潰しを兼ねてすぐ下の階にある大きなゲームセンターに向かうことになった。そこで由衣は思い切って新城をプリクラに誘った。意外にあっさりOKを出した新城は恵や美佐も連れだって比較的空いているプリクラコーナーへと向かう。まず先に新城と恵が撮ることになり、別のマシンで由衣と美佐が撮ることになった。新城たちと別れ、美佐が選んだマシンの前に立った由衣は新城たちの姿がないのを確認した後で大きなため息をついてみせた。


「まさかこういう展開になるなんてなぁ・・・」


お金を入れながらそうつぶやく暗い顔の由衣を見やる美佐の表情も曇っていった。


「そうだね・・・・なんかショックだね」


美佐も新城を好いているのか、そうつぶやきを漏らすのを聞いた由衣はとりあえず今の気分を吹き飛ばすためにバカみたいにはしゃぐ姿で撮ろうと提案した。2人はふざけ合いながらスタイルを決め、かなり派手目にスタンプやら落書きをしていった。そしてシールが出来上がるのを待つ間、由衣はいまだにカーテンの向こう側にいる2人の方を見やった。


「新城先生、青山先生が好きだったんだね・・・でも、かわいそう・・・それって絶対実らないのに・・・」


その言葉に美佐は小首を傾げて見せた。それを見た由衣はやや俯き加減でその理由を説明した。


「だって・・・青山先生は木戸先生が好きなんだもん」


予想もしなかったのか、その言葉に出てきたシールも取らずに呆気に取られた表情を浮かべる美佐の顔色がどこか悪くなったような気がした由衣はシールを取り出しながら上目遣いに美佐を見やった。


「青山先生・・・・木戸先生とデートしたって・・・それって好きだから?じゃぁ、木戸先生も青山先生を?」


まるでうわごとのようにそうつぶやく美佐の言葉から、美佐が周人を好いている事を知った由衣はただ呆然と立ちつくすしかなかった。自分が新城に夢中になるあまり、親友であり幼なじみである美佐の恋にまったく気付かなかったのも無理はない。


「美佐、もしかして木戸先生の事・・・・」


そう言った時、恵と新城が出てきたのが見えた由衣はとりあえず青白い顔をしたままの美佐の手を引き、新城のそばに駆け寄った。放心状態に近い美佐を心配しながらも適当なマシンを選んでカーテンを閉める。2人きりで念願だったプリクラを撮れるというのに由衣の心は素直に喜べない気持ちでいっぱいだった。それでも終始明るい顔で新城に寄り添うようにしてプリクラを撮った由衣はあえて落書きはせずに星の形のスタンプを押すだけに留めた。本当はLOVEという文字を入れたかったのだが、あえて入れなかったのだった。そして由衣が出てくるまでの間、美佐は無意識的に由衣と新城がいる場所を隠すカーテンと自分の横に立つ恵とを何度も交互に見た。そんな美佐を見て不思議そうな顔をする恵は、美佐が周人を好いているという事実に全く気付く様子はないのだった。


4人は横並びに席を取っていたために、ジュースを並べ、新城のおごりのお菓子やポップコーンを回しながら上映を待った。やがて上映時間が近くなった頃に携帯電話を取り出し、その電源を落とす恵を見た由衣も同じように鞄から携帯電話を取り出した。そして電源を切りながら何気なしに恵の携帯を見やった由衣は、その携帯の裏に貼られたプリクラにふと目が留まった。その時ブザーが鳴り、すぐさま劇場が薄暗くなっていったためにはっきりとは見えなかったが、確かにそれは恵と周人が並んで写っていたものだった。何故かズキンと心が痛むのを感じた由衣は今は映画に集中しようと広告の流れるスクリーンを凝視した。それは美佐と新城にとっても同じ事で、恵だけが素直に映画に集中できる状態となっていた。結局映画に集中できたかどうかよくわからない由衣たちだったが、映画を終えた劇場で解散ということになった。新城と恵はそのまま下の階にある喫茶店に向かい、由衣と美佐は雑誌で紹介されていたこの建物を出てすぐの場所にあるオープンテラスのカフェに向かった。だがそこへと向かう2人の足取りはかなり重く、店に着いて席についてからもあまり会話らしい会話はなかった。あまりに落ち込む美佐を見かねた由衣は出てきたパフェを頬張りながら今からは元気を出そうと心に決め、いつもの調子で美佐に話しかけた。


「青山先生、木戸先生を好きみたいだけどぉ、ありゃきっとダメだね、残念だけどさ」


パフェを食べながらすました顔でそう言う由衣を見やる美佐はまだスプーンすら手に持っていなかった。運ばれてきたパフェから由衣に視線を移しながら今言われた言葉を噛みしめる。


「だって・・・」


そこまで言いかけて、由衣は周人との約束を思い出して不意に口ごもった。夏休み最後の日に聞かされた周人の過去。おそらくは今でも死んだその彼女の事を想っているのだろうということは由衣にもよくわかった。そして誰にも言わないと約束した自分の言葉も思い出したのだ。


「なんか今は誰も好いていないみたいだからさ・・・前にちょこっと話した時に、今は彼女は欲しくないんだって言ってたしねぇ」


由衣はそうごまかすように言ったが、まんざら間違いでもないその表現に美佐がどう反応するか様子を見た。その美佐はジッと由衣を見つめたまま、何かを考えるようにしていた。


「きっと木戸先生は・・・子供な私なんか相手にしないとわかってる。でも・・・・・思い切って告白しようと思うの」


美佐ははっきりとそう言ってのけた。いつも内気で、特にこういった事には弱い美佐がはっきりそう言った事には由衣も驚かされた。昔の由衣ならば、周人を好いていると知った瞬間に美佐の想いを全否定していただろう。だが、周人の優しさや内面を知っている今、それを受け止めることができる反面、美佐の想いを知って動揺する自分がいることにも戸惑っていた。


「負けたくないから・・・青山先生には。それに、後悔したくないから・・・・」


真剣な目をする美佐はその瞳の輝きを強くして由衣にそうはっきり宣言した。


「私も新城先生に告白する・・・・・」


由衣はそんな美佐の目を受け止めながら笑顔でそう言うと、照れたようにパフェを頬張った。そんな由衣を見て小さな笑みをこぼした美佐はスプーンを手に取り、同じようにパフェを食べる。2人はしばらく会話もなくパフェを食べ続け、お互いに顔を合わせて笑い合うのだった。


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