「 蓮華の花守 - 白夜とライル 」(十七)
白夜の訊き込みによって、帰る場所が判明したライルは落ち着きを取り戻し「 あの女王は何時も ああなのか? 」と、自分の前を歩く白夜に話し掛けた。
「 と ――― 仰いますと? 」
「 ハッキリ言って、他所の国に招待されて濡れたまま放置されたのは初めてだぞ!? 」
「 花蓮様は お若いですからね ――― やはり、何か身体を拭く物を……? 」
「 いや、要らない。若いなら若いなりに教育係とかいないのか!? 」
教育係と聞いて、白夜の脳裏に晦冥の姿が浮かんだが「 否…いないですね、そう言えば…… 確かに変だな。 」呟くと、白夜は王子達に用意された棟の通路で立ち止まった ――― 。
「 あ! 良かったぁ~ 王子!! 探してたんですよ!? 」
「 ―――…お前、今 そこの椅子に座って 優雅に菓子 食ってたろ? 」
「 だからぁ、俺以外の奴等が必死で探してるんですよぉ!? ――― お風呂はバッチリですんで!! 」
ナジュムが両手で浴室を指し示すと、「 ありがとう ――― 世話になったな。 」とロータスの言葉で白夜に告げてライルは浴室に入って行った ――― 。
ライル王子の部屋では、ロータス国で日没に焚かれる魔除けの意味も持つ香の香りが広がっており、診療所や東雲の仕事場 ――― 宮中の医院の香りにも どこか似ている 其の香りに白夜は興味を持ったが、ゆっくりしている時間は無いので取り敢えず 再び ダラダラと寛ぎ始めたナジュムに声を掛けた。
「 王子殿下達が散策を終えて戻られる筈だった場所を知ってます? 」
「 知ってるよ? えっと……説明すんの面倒くせぇな ――― 連れて行こうか? 王子を探してる奴等にも戻ったの教えてやんないといけないし。 」
「 助かりますけど、王子のお世話は!? 」
「 大丈夫!! 王子も他の奴も 俺がいなくても勝手にやるよ! 」
白夜を見て、自分より背は高いが 自分より若そうだと判断したナジュムは、兄貴風を吹かせて弾んだ足取りで部屋を飛び出すと、名を名乗り、白夜の名前を訊き ――― 睡蓮との会話で既に聞いている事を思い付かず、妙に聞き覚えのある彼の名前に既視感の様なものを覚えた。
「 ところで、この後の予定はそのまんまなんだよね? 君 知ってる? 」
「 否、自分は王子殿下を御案内しただけなので…――― そう言えば、部屋のあれは何の香りですか? 」
白夜とナジュムが香の話で盛り上がる中 ――― 睡蓮は薄暗い空を見上げて( ここには戻って来られないのでは無いのかしら……? ) と、思い始めていたが、勝手に離れる事も出来ずに困り果てた表情で待ち続けていた。
辛うじて、通路の灯りは 先程 灯されたが、雨風で消えてしまって意味が無い蝋燭もある ――― 。
( この雨の中、まだ外にいらっしゃるのなら 女王様とライル様は大丈夫なのかしら……!? )
「 ――― 睡蓮? 貴女 御一人ですか? 」
聞き覚えがある声のほうに顔を向けると、其処には睡蓮が最も遇いたく無い人物 ――― 晦冥の姿が在った。
雨風の音で足音が聞こえなかったのか、彼は角燈になる物を何も持たずに何時の間にか扉の所に佇んでおり、睡蓮は先程まで何も感じなかった雷鳴が途端に彼の事を恐ろしく想う 自分の心に突き刺さる様に鳴り響いてる様に感じた。
自身の息が止まったかの様な衝撃と、布を持つ両手が震えたのを感じると同時に、椅子から立ち上がって後退りするが部屋の壁に突き当たり ――― 睡蓮に逃げ場は無い 。
其の様な彼女の様子を見たからか、晦冥は 睡蓮に微笑むと「 花蓮様とライル様は御部屋に戻られたから、君も戻りなさい。 」と、優しい声で睡蓮に告げたのだが 其の儘、扉の前に立ち止まって彼女を見つめ続けた。




