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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第三章『 泥中之蓮 』
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「 蓮華の花守 - 女難の相 」(十四)



「 二十五歳の男の人は、女に何をされたら喜ぶの…!? 」

次の予定の為に、再び私室から女官達全員を引き連れて出て来た花蓮(カレン)女王が真剣な瞳で白夜(ハクヤ)に訊ねる ――― 。


「 陛下…それは僕達が真面目にお答えしますと、ここでは言えない内容になり、何らかの罪に成り兼ねないかと思います。 」

白夜(ハクヤ)達と交代する為に訪れていた藍晶(らんしょう)が気品に満ちた笑顔で気を利かせると「 陛下は何もなさる必要はございません!来客の接待でしたら専門の者達に任せれば良いのです。 」と紅魚(ホンユイ)も 自分を含めた五名の女官達が行列に並ぶ様に通路に詰まっているので、先に進む様に女王を促した。


「 お願い!教えて…! ――― 絶対に罰したりしないから! 」と、全ての言葉を流した花蓮(カレン)女王が " お願い " と口にしたので、一同は女王からの命令であると判断し ――― 視線を白夜(ハクヤ)に向ける。



「 ……人によって喜びの内容は違うものです。御本人に同じ御質問をされてみてはいかがでしょうか? そのほうが確実ですし、会話の始まりにもなるかと思います。 」

――― " 我ながら上手く 真実を誤魔化したもんだな…… " と、自分自身に感心しながら白夜(ハクヤ)は花蓮女王に微笑んだ。


「 ………。 」

自身が思っていた様な具体的な答えでは無かったので、女王は納得したフリで前へ進み始めると「 ありがとう……本人に聞いてみる。 」と、小さな声で白夜(ハクヤ)に背を向けた状態でお礼の言葉を掛けた。

紅魚(ホンユイ)も 白夜の返答に納得した表情で彼に微笑むと、女王の後を追い ――― 珠鱗(しゅりん)は 他の女官達に伝達と指示を始める ――― 。



「 お部屋に鍵を掛けました。(わたくし)紅魚(ホンユイ)さんは陛下に付き添いますが、皆さんは休憩なさってから緋鮒(ひぶな)と…――― そうね、睡蓮(スイレン)さんは(わたくし)達と交代をお願いします! 」


「 は~い 」「 はい…! 」


「 女王様の鍵を(わたくし)が持っているので、蝶美(チョウビ)には (わたくし)の鍵を ――― 湯殿や寝台は後回しで良いから装束の準備をお願いね。 」


「 は~い! 」



「 ――― と、言う訳で鍵を持ってるのは(わたくし)蝶美(チョウビ)です。よろしくお願いしますわね? 」と、見張りの藍晶(らんしょう)翡翠(ヒスイ)に軽く頭を下げると珠鱗(しゅりん)も女王達の後を追った ――― 。




「 女王陛下は王子様の事を気に入ったみたいだな? ――― どんな男なんだろ? 」

翡翠(ヒスイ)が手にしてる大鎌を軽く振り回しながら呟いたので、寝起きで機嫌が悪い藍晶(らんしょう)が 女王の目前では無くなった途端に ()の場に居た全員を代表するかの様に「 危ない!!やめろ! 」と半ば本気で彼に怒りを向けた。


「 ああ! 悪いな、明るい時間に仕事するの久し振りだから ――― 」と、悪びれた様子は無く、翡翠(ヒスイ)は近くの鏡に映る ()に照らされる自分の美しい立ち姿を見つめ始める。 

気ままな翡翠ヒスイの様子に、藍晶の機嫌がどんどん悪くなって行く様子に気付いた白夜(ハクヤ)蒼狼(せいろう)は「 行きましょうか? 」と、見張りの二人の姿を見なかった事にして睡蓮(スイレン)と二名の女官を連れて食堂に向かった ――― 。





 

―――――― 未の下刻 ( 十四時過ぎ )


食堂に入るなり、白夜(ハクヤ)は凍り付いた様に固まり ――― 睡蓮(スイレン)も衝撃を受けた表情で立ち尽くす。

「 久し振りね……。」 ――― 二人に先に言葉を掛けたのは桔梗(ききょう)だった。


「 お久しぶりです…! 」


睡蓮(スイレン)が軽く頭を下げると、桔梗(ききょう)は微笑んだ表情で「 花蓮様の女官になられたそうね? 」と声を掛け、睡蓮が身に着けている自分の髪飾りに気が付いた ――― 。


「 あ…!すみません…お借りしたままになっていて ――― 待ってて下さい!外しますから…… 」


「 でも、髪が…―――! 良いわよ、今度で 」



「 もしかして!あなたが この髪飾りの持ち主ですか!? 」

会いたかった桔梗(ききょう)が現れた事に気が付いて高揚状態になった蝶美(チョウビ)が話に飛び込んで来ると、桔梗(ききょう)は「 そうだけど……? 」と、見覚えの無い蝶美の姿を不思議そうな顔で見つめながら答えた。


「 アタシ、蝶美(チョウビ)って言います! 睡蓮の友達です!! ――― うれしい~!!あなたに会ってみたかったの!! 」


「 そ…そうなの? 」



「 ――― (ハク)ちゃん、息してる? 」日葵(ひまり)が白夜に訊ねたが返答が無いので、代わりに蒼狼(せいろう)が「 まぁ、止まっては無いでしょう? 」と適当な様子で答えると、桔梗が座る円卓に近付き「 初めまして、僕は蒼狼(せいろう)と申します。 ――― 桔梗(ききょう)さんですよね? 」と、彼女に微笑んだ表情で声を掛けた。


「 ええ、そうです。 ――― どうして、名前を? 」


白夜(ハクヤ)さんには何時(いつ)もお世話になっているので、お噂は かねがね伺っております。」


「 わかった!!白夜(ハクヤ)さんの恋人だ!! 」桔梗が何者か(ようや)く気がついた緋鮒は大きめの声を上げると「 アタシは緋鮒(ひぶな)って言います~! 睡蓮ちゃんと蝶美と同じ女官で~す! 」と陽気な笑顔を見せながら桔梗に握手を求めた。


知らない顔触れが自分の事を知ってる様子に桔梗(ききょう)は戸惑ったが、自分が " 白夜の恋人 " と認識されてる事は意外であった為 ――― 思わず、白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)を 交互に見つめた。

白夜は放心状態に見えるが、睡蓮は ――――――



「 この髪飾り ――― お返ししようと思って大切に仕舞っていたのですけど、女官に選ばれた時に怖かったので御守りのような物が欲しくて…… お借りさせて頂いておりました。…ごめんなさい、勝手に…… 」


「 そう……。お役に立てたなら良かったわ、気にせず使ってちょうだい。 」


桔梗(ききょう)に頭を下げた睡蓮(スイレン)は、自分の言葉に白夜の姿を脳裏に浮かべ ――― 桔梗は睡蓮に髪飾りを持たせた経緯を思い出して、気まずそうな瞳で微笑んだ。


(きぃ)ちゃんには睡蓮(スイレン)と同じ部屋な事は伝えて無いから 後は頑張りな! 」

小声で白夜(ハクヤ)に告げると、日葵(ひまり)は彼の背中を片手で軽く叩いて ご機嫌な様子で食事を再開し始める ――― 。






「 さあ!睡蓮(スイレン)ちゃん、アタシ達は交代しに行こうか!? 珠鱗(しゅりん)様 と 紅魚(ホンユイ)様にもご飯を食べてもらわなきゃ! 」


「 はい! 」


睡蓮(スイレン)が食べ終わったのを確認すると、緋鮒(ひぶな)は立ち上がり「 それじゃあ、皆さん ご縁があったら またお会いしましょう~! ――― 蝶美達はまた後でね~ 」と笑顔で食堂の出入り口に歩いて行った。


「 あの…!髪飾りは必ずお返ししますから…! 」

桔梗(ききょう)に軽く頭を下げると、手を振った日葵(ひまり)蝶美(チョウビ)に手を振り返して睡蓮(スイレン)も食堂を後にした ――― 。



「 ねぇ、秋陽(しゅうよう)先生はいないの? 」密かに秋陽(しゅうよう)がお気に入りだった蝶美(チョウビ)が素朴な疑問を口にすると「 先生が戻って来たんで診療所に常連さんが相次いだらしくてさ、 帰るに帰れなくなっちまったんだよ! 」と、日葵(ひまり)は笑って答え「 だから、(きぃ)ちゃんが こっちに来たんだよね? ――― 王子様も見たいもんね! 」と揶揄(からか)う様に桔梗に微笑みかけた。

桔梗(ききょう)は照れ臭そうに「 王子様が見たいは余計よ…――― 」と、蓮の花で作られたお茶を飲む。


「 アタシ達も まだ見てないんですよぉー!? 睡蓮と緋鮒は いまから会えるんだろうなぁ~!いいなぁ~ 」


「 で、どうなんだい? 花蓮(カレン)様は王子様の事 気に入ったの? 」


日葵と蝶美が女王の見合いの話で盛り上がる中、蒼狼(せいろう)白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう) の様子を 若干 余興感覚で眺めながら箸を進めていた ――― 。


「 暫く (ウチ)に居るの? 」


「 ええ、そのつもり。 」


「 じゃあ、日葵(ひまり)と二人だけ? ――― 王子殿下が滞在してる間は夜間も武官が回ってるとは思うけど…… 」


春光(しゅんこう)さんが日葵(ひまり)の為に鍵を二重…三重だったかしら? ――― とにかく、増やして帰ったから大丈夫よ? ――― 秋陽(しゅうよう)様と仲の良い ご近所の方々も気にかけて下さるし。 」



「 そういや、どこで聞きつけたのか 光昭(こうしょう)が さっきまで食堂にいたよ? 空いた時間には見回りに来てくれるってさ! 」と、何時(いつ)も通り明るい調子で日葵(ひまり)は告げたが「 早速、信用ならない奴が現れてるじゃないか!! 」と、睡蓮に続いて桔梗の心配をする羽目になった白夜(ハクヤ)は頭を痛め始めた。





「 陛下が戻られるまで ここで待機しているだけで良いから ――― 戻られるのは夕刻になると思うから、それまでには私か珠鱗(しゅりん)が戻るわ。 」


「 それでは、よろしくお願いしますわね! 」


珠鱗と紅魚が 持ち場を緋鮒と睡蓮に任せて食事に向かうと、緋鮒は即座に退屈な任務に飽き始めた ――― 。


「 何して時間潰す? 」


「 時間を潰す…――― どのような方法があるのでしょうか? 」


「 そうねぇ~… ちょっと、部屋の周りを偵察して見よっか!? 」


扉が開いたままの状態にされている部屋の出入り口から緋鮒(ひぶな)睡蓮(スイレン)が顔だけ出して、周辺の通路の様子を確認すると、通路を隔てた向こう側には 室外 ――― どんよりした曇り空と石畳が広がっていた。


「 ありゃりゃ… お天気が あまりよろしく無いよねぇ……? 」


「 雨になったら 今日と明日の女王様達の予定はどうなるのでしょう? 」


睡蓮(スイレン)が心配そうに緋鮒(ひぶな)に訊ねると、緋鮒も「 変わるだろうねぇ… 」と心配そうに曇り空を見つめた ――― 。


 

 

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