「 蓮華の花守 - 青睡蓮の花束 」(十一)
―――――― 巳の上刻 ( 九時 )
朝の女王の湯浴みを終え、睡蓮達 女官は花蓮女王を両脚と両肩を露出させた黒い装束に着替えさせた。
露出部分が多いせいか、此れ迄よりも着せやすく ――― 余り、女官達の手が必要になる衣では無い。
リエン国的には " 結婚してくれ " と言わんばかりの装束である。
「 これって良いの…? 肌晒し過ぎじゃ ――― !? 」緋鮒の口を片手で塞ぐと紅魚 は 和やかに「 それでは、陛下 参りましょうか? 」と花蓮女王を謁見の間に向かわせる。
昨日の紅魚と女王の会話は幻だったかの様に、花蓮は此れ迄と同じ様に無言で頷くと素直に紅魚に連れられて行った ――― 。
「 女王さまは 珠鱗さまと紅魚さまに任せて、アタシ達は掃除と次の装束の準備だねっ! 」
「 はい…! 」
「 湯殿どうする? ――― やっぱ、いちいちお湯 変えた方がいいのかなぁ? 」
睡蓮は、このまま暫く 蝶美 と 緋鮒と過ごす事になる ――― 。
花蓮女王と紅魚、珠鱗が謁見の間に向かったのを見届けると、蒼狼は通路を眺めながら「 花蓮様は暫く戻らないし… ――― 晦冥様って、今日は花蓮様か王子殿下に付きっきりっぽいですよね……? 」と、白夜に楽し気な声色で呟くと「 ちょっと、この棟 回ってみよっと♪ 」と、頃合いを見計らう。
「 確かに、 ――― 今日は偵察するのに持って来いの日だ。 」
「 白夜さんは見張りやってて下さいよ? 誰か来たら厠に行ったか、叔父が危篤とでも言っといて下さい。 」
「 はいはい、心配しなくとも俺は 睡蓮との約束があるから行かないよ。 」
結局、晦冥と女王は睡蓮以外の新しい女官を入れなかった ――― と、真剣な瞳で考えながら白夜 は 蒼狼に返事をした。
―――――― 謁見の間にて、
お互いの姿を目にした花蓮女王とライル王子は " 悪くは無い・・・ " とお互いの第一印象 ――― 『 外見 』を評価した。
――― と、言ってもライルのほうは顔よりも 完全に肌の露出具合を見て判断している。
ライル王子とは別の船でリエン国に訪れた彼の父親 ――― ロータス国の王・アスワドはご機嫌な様子で誰も聞いていないロータス語交じりの贈答品の説明を続けている。
アスワド王は挨拶と会食を終えたら直ぐにリエン国を発つ予定だが、国王である彼が他国に長居が出来ているのはロータス国は王と次期王による共同統治制だからである。
アスワド王の贈答品の解説が一段落すると、「 続きは宮中を回りながらお話されては如何でしょうか? ――― 殿下のお部屋も御案内致しますので…――― 」と、晦冥が次の予定を進め始めたが、アスワド王は、彼にしては珍しく欲も企みも何も無く「 その前に 蓮 王 に我が国の花と酒を手向けたい ――― 女王陛下、何故 葬儀式に我々や他国を呼んで下さらなかった? 否、勿論 全ての国が駆け付ける事など出来ぬのは解ってはいるが…… 」と、 蓮 先王の墓前への案内を所望した。
「 ああ……なるほど、そうですね ――― 少々お待ち頂けますか? 直ぐに御案内させて頂きますので 」と、アスワド王の注文は想定外だったのか晦冥 は 何処かに姿を消す ――― 。
「 宜しければ、女王陛下にも花束を…――― ライル!お前から渡せ!! 」
ライルは、内心 " めんどくせぇ " と思いながらも、普段、民の前に佇む時の様な紳士的な振る舞いで贈答品の中に混ぜて置いてあった青色の花束を女王に差し出した。
「 ブルー・ロータス ――― リエン国の言葉で言うと " 青睡蓮 " の花って所ですね? 」
「 " 睡蓮 " ……? 」 ――― そう呟いた女王の表情が眉を大きく顰めた険しい表情だったのをライルは見逃さず、同時に自分の目を疑った。
( !? ――― 何だ? 今の顔は…… )
一方、アスワド王とライル王子の 臣下であるナジュムは、女王に粗相の無い様に着いて早々に宮中の医院に送り込まれていた。
「 まさか、医院の出番があるとは思ってなかったわ……! 」
「 酔い止めのお薬って、酔った後に飲んでも良かったかしら? 」
医院の片隅で姫鷹 と 葵目が見守る中、ナジュムは担当の医官に介抱されながら海の波が押し寄せる様に吐き気の波に襲われていた。
彼以外のロータスの臣下達も何名か医院に流れ込んで来て倒れ込んだり、嘔吐を繰り返しており ――― 葵目を始め、医官達は臭いと掃除をどうするかで頭を悩ませ始めていたが「 必要なのは薬よりも水と氷よ! ――― 王子様と縁が出来るかもしれないから恩を売っときましょう! 」と、姫鷹医院長のみは 足取り軽やかにノリノリの様子で自ら氷を取りに向かうのだった。




