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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第三章『 泥中之蓮 』
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「 蓮華の花守 - 二日目の夜 」(八)

 

――― 酉の中刻 ( 十八時頃 )―――



()(まで)と同じ様に湯浴みを終えた花蓮(カレン)女王の髪を蝶美(チョウビ)が櫛で整える中、睡蓮(スイレン)は王妃・麟鳳(リンホウ)の事を考えていた。


家族の記憶が無い睡蓮(スイレン)は、" 最初から自分には父親も母親も居ないのでは無いか ――― ? "

その様な感覚に襲われる事も少なくは無いが、花蓮(カレン)女王は両親の記憶が有りながら 父親も母親も亡くなってしまっている ―――


家族の記憶が何も無いのは辛い事ではあるが、家族が何処(どこ)かに生きているかもしれない希望がある自分よりも 記憶が有って家族が居ない事のほうが辛い事では無いか ――― と、睡蓮(スイレン) は 花蓮女王の姿を見つめた。


( 私と一緒にしてはいけないのかもしれないけど、女王様もお辛いのかもしれない……――― )


相変わらず、女王は言葉数が少なく ――― 感情が見えない・・・見えても解り辛い所もあるが、自分の周りで唯一、同じ年頃でもある花蓮(カレン)女王に 睡蓮(スイレン)は再び親近感を覚え始めていた。


( 女王様の為に私ができる事って何だろう……――― ? )






睡蓮(スイレン)は何を考えているのか解り辛い所があるんだよな…――― )


食事も湯浴みも済ませ、部屋で香を焚きながら白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)のほうに顔を向けた ――― 。

今宵の彼女は 寝台の上には居るが、まだ起きており ――― 何か会話をしたい所だが、宮中で悲鳴を上げて逃げられたら探すのが困難になる事が予想されるので 彼は何時(いつ)もに増して慎重になっていた。



「 ねぇ、睡蓮(スイレン) ――― 女官の仕事はどう?慣れた? 」と、声を掛けながら自分の寝台の上に白夜(ハクヤ)が座ると「 は…はい! 」と、返事をしながら 睡蓮(スイレン)が持っていた枕を盾にする様に顔を隠したので白夜(ハクヤ)は " また、顔が隠れたな…… " と思いながら話を続けた――― 。


晦冥(カイメイ)様とは? ――― 視察の時以外で会った? 」


「 いいえ……でも、(アメ)を頂きました。 」


(アメ)!? それ、食べない方が…――― !! 」


「 はい ――― もちろん、口にはしておりません……。そこに置いている物なのですが…――― 」


睡蓮(スイレン)は枕を顔から離すと、部屋の端に置いてある椅子付きの台の上を指差した。

晦冥からといえ、人から貰った物であり食べる物でもあるので、捨てるに捨てれなかったのだと思われる。


白夜(ハクヤ)は立ち上がって台の方へ足を運び、置いてある(アメ)を手に取ると「 これ、父さんか医院長で成分の分析が出来ないかな……? 」と、呟き「 睡蓮(スイレン)、これ俺が預かっても良い? 」と睡蓮に了承を得ると、また同じ台の上に(アメ)を置いた ――― 。



彼が再び寝台の上に戻ると、再び睡蓮(スイレン)が ――― 今度は俯いて顔を見せようとしない。

睡蓮(スイレン)が俯いたり、顔を隠す瞬間は、美しい月を見ている時に 急に雲が掛かってしまった時の気分に似ている ――― と、白夜(ハクヤ)は想っていた。


( この睡蓮(スイレン)は解り易い…――― 女官の娘も言ってたけど、確かに睡蓮は恥ずかしがり屋のようだな……? )



「 ――― もう寝ようか? 」


寝台の上で恥ずかしがってる睡蓮(スイレン)を眺め続けるのは危うい様な気がして ―――

他にも確認したい事はあったのだが、白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)が頷いたのを確認すると桔梗(ききょう)の髪飾りが目に入る様に角燈(ランタン)の明かりを灯したまま眠る事にした。



()れからどの位の時間が経過したのかは分からないが、睡蓮(スイレン)は真夜中に目が覚めた ――― 。


角燈(ランタン)の中の蝋燭は溶け切ってしまった様で、室内は小窓から差し込む蒼白い月の光に包まれていた。


( ? ――― どうして目が覚めたのかしら……? )


隣の寝台を見ると、眠っている様子の白夜(ハクヤ)の姿が()る ――― 。



再び 眠り付こうと体勢を整えて横たわり ――― 宮中に響く海の音を聞いていると、周期的な波の音に混ざって 何か違う音が響いている様な気がして睡蓮(スイレン)は再び目を見開いた。

音はひたひたと水滴が(したた)り落ちる様に響き ――― 部屋の外から聴こえて来る。


( ? ――― 誰か廊下を歩いてる……? 蒼狼(せいろう)さん……? )



" この棟の他の部屋は誰も使っていない " ――― と、藍晶(らんしょう)が言っていたのを思い出し、睡蓮(スイレン)は他の可能性も考え始めるが ――― ()の音が 段々と大きくなっている様な気がして、珠鱗(しゅりん)藍晶(らんしょう)が 自分か白夜(ハクヤ)を呼びに来たのでは無いかと思い、上半身だけ起き上がらせて白夜(ハクヤ)を起こしたほうが良いのか迷いながら隣に目をやると、彼が既に体を起こしていたので白夜の想定外の姿に思わず驚愕して叫んだ。


「 ――― きゃあぁっ!! 」


「 !? ――― 君も聞こえた? 」


白夜(ハクヤ)は自分が睡蓮(スイレン)を驚かせたとは露程にも思わず、(かたわ)らに置いていた自身の(つるぎ)を手に取ると、立ち上がって扉の方に歩き始めた ――― が、足音の様な音は止んでいる。


( !? ――― 藍晶(らんしょう)や女官じゃ無いのか……? 今の睡蓮(スイレン)の悲鳴に気付いた…? )


睡蓮(スイレン)、扉を開けるから 浴室か厠に隠れて ――― 鍵も掛けるんだよ? 」


「 は…はい…! 」



睡蓮(スイレン)が隠れたのを確認すると、白夜(ハクヤ)はそっと部屋の扉を開いて通路を見た ――― 。

部屋の中よりも闇に包まれているが、窓から差し込む蒼白い光も輝いている。

人影は見えない ―――


( 気配は…――― あるような気もするんだけどな……? 警備の者か? )


不審に思いながらも扉を閉めて、再び鍵を掛けると白夜は睡蓮を呼びに浴室に向かった ――― 。





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