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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第三章『 泥中之蓮 』
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「 蓮華の花守 - 一日目の夜 」(六)

 

――― 戌の上刻( 十九時 )―――



「 一緒の部屋になった?!! 」


食堂で姫鷹(ヒメダカ)東天光(トウテンコウ)蒼狼(せいろう)から経緯(いきさつ)を聞き、それが当然の様に ――― 彼女らしく、姫鷹(ヒメダカ)睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)が同じ部屋になった所だけに食い付いた。


「 じゃあ、二人が離れて座ってる様に見えたのは あたしの視力のせいじゃ無かったんだ~! 」

東天光(トウテンコウ)も、料理の湯気で曇った自身の眼鏡を手持ちの布で拭きながら安心して食事を続ける。


( あれ? ――― 俺、晦冥(カイメイ)様 と 花蓮(カレン)様の視察の話もしたよな……? )

蒼狼(せいろう)は 女性医師達との間に若干の溝を感じながらも会話を続けた。



「 分っかり易いわねぇ……! ――― 何なの?あの初々しさは?!一緒に暮らしてるんじゃ無かったの? 」


「 俺、先程から付きっきりなんで 残業してる気分ですよ。 ――― ちょっと面白いけど。 」


姫鷹(ヒメダカ)蒼狼(せいろう) が眺めている 睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)の様子は、白夜には睡蓮の姿を見る程度の余裕は見られるが、睡蓮(スイレン)は決して彼のほうに顔を向けようとせず、明らかに動揺しまくっていた。



( そうだ! ――― (ざる)! 厨房で大きな笊かお鍋の蓋か何か借りられないかしら……!? )

睡蓮(スイレン)は、今の自分に最も必要な物は赤く染まった顔を覆い隠す物だと考えていた。

海で助けて貰った話も頭の中に蘇えり、()(かく)、彼女は白夜と目を合わせたくない。



( どう見ても動揺してるな…――― また、面倒な事になるぞ…… )

やはり、知人が揃う日は(ろく)な事が起きない ――― 白夜(ハクヤ)は確信しながらも、自身も動揺して睡蓮(スイレン)の髪にある桔梗(ききょう)の髪飾りを何度も眺めた。



「 仕方無いわねぇ~!白夜(ハクヤ)君だから無料(タダ)であげるわよ。――― あたしのお手製だから安心して? 」

姫鷹(ヒメダカ)が差し出した小瓶を見て、嫌な予感がしながら白夜と蒼狼が「 何ですか?これ…… 」と口を揃えると

「 媚薬! ――― 先生、昔から持ち歩いてるよね? 」と、東天光(トウテンコウ)(にこ)やかに告げた。



( ビヤク? ――― 常備薬……? )

睡蓮(スイレン)は泥めいた言葉に塗れる事無く、小瓶を見て不思議そうに首を傾けた。





姫鷹(ヒメダカ)先生って、ある意味 期待を裏切りませんよね。 ――― 他の話は全部流しましたよ?あの(かた)…… 」


「 ――― まあ、医院長に言って解決する問題でも無いし、幸せそうだから良いんじゃないかな……? 」


白夜(ハクヤ)蒼狼(せいろう)は自分達の部屋がある棟まで歩く中、宮中の色んな壁や通路に飾ってある鏡が気になっていた。

灯りは有るが、夜の薄暗い中では鏡に映る自分の影に 一瞬、気を取られる事も少なくは無い。




「 鏡って、夜は 何か怖いですよねぇ? 」蒼狼(せいろう)が自身の美しい顔を鏡で見ながら呟く。


「 まぁね…… 」


「 で、俺は何時(いつ)まで御二人に付き添えば良いんです? ――― 睡蓮(スイレン)さん、何だったら俺と部屋を交代しますか? 」


蒼狼(せいろう)の提案に睡蓮(スイレン)(うつむ)いていた顔を上げて、(ワラ)にも(すが)るかの様な表情で彼に返答しようとしたのだが白夜(ハクヤ)が却下した。


「 お前が俺達の部屋に来るのはどうかな? ――― 寝台を運び出してさ 」


「 はぁ!? ――― それ、睡蓮(スイレン)さんは嫌でしょう? 只でさえ、白夜(ハクヤ)さんが一緒なのに! 」


「 いえ、二人になるよりは……! 」と、睡蓮(スイレン)まで白夜(ハクヤ)と一緒になって自分を引き留めるので、結局、蒼狼(せいろう)は 就寝する迄は付き添う事になった ――― 。

部屋に戻り、睡蓮(スイレン)が入浴中なので白夜と蒼狼は部屋の外の通路に腰掛けて会話を続けている。


白夜(ハクヤ)さん、七日間ずっとは勘弁して下さい……! 貴方が彼女に何もしなきゃ何も起きないんですから…… 」


「 何かする訳 無いだろ!? ――― (ただ)、二人きりで あそこ(まで) 照れられてしまうと……こっちまで照れる。 」


「 良い機会だから、本当の妹みたいに何でも話せる仲になれば良いじゃないですか? ――― あなた(がた)のモジモジする姿を見せられる俺の身にもなって下さいよ……。 」


( 妹みたいに話せる仲か…――― )白夜(ハクヤ)は、桔梗(ききょう)睡蓮(スイレン)に嫉妬して泣いていた顔を思い浮かべながら腕を組んで俯いた ――― 。






 

( ――― どうして、こんな事になってしまったの……!? )


着替え終わった睡蓮(スイレン)は、部屋の中を見渡して目眩(めまい)を起こしそうな気分だった。

綺麗で広々としてはいるが、寝台は二つ()る ――― 。


( 女王様はお礼って仰られてたけど、何故これがお礼に…―――!? )


何名かの人間が自分と白夜(ハクヤ)を兄妹と思っている事も腑に落ちないでいた。

睡蓮(スイレン)は、何となく 桔梗(ききょう)の髪飾りを寝台と寝台の真ん中にある小さな台の上に置いて、白夜と蒼狼を呼びに扉のほうへと向かった ――― 。




「 じゃあ、浴室は使うね ――― 蒼狼(せいろう)も湯浴みを終えたら また来るそうだから… 」――― 白夜(ハクヤ)は誤魔化した様に笑うと、そそくさと浴室に消える。


睡蓮(スイレン)は二人を待つ間、枕を抱きしめて寝台の上に座ると、今日の出来事を思い返しながら宮中に響く海の音を静かに聞いていた ――― 。


不思議と白夜(ハクヤ)(いえ)よりも、今いる部屋のほうが安心できる様な気がして彼女は少しずつ落ち着きを取り戻しつつある。


( あ… 勝手にこちらに座ってしまったけれど、良かったのかしら……? )






睡蓮(スイレン)? ――― 寝てるの? 」


湯浴みを済ませた白夜(ハクヤ)が寝間着姿で浴室から部屋に戻ると、睡蓮(スイレン)は枕を抱きしめたまま眠ってしまっていた。


( ――― 何か 久し振りだな、この光景……。 )


もう一台の寝台に座り、眠る睡蓮(スイレン)と 台の上に置いてある桔梗(ききょう)の髪飾りを交互に見つめると、白夜(ハクヤ) は 桔梗の髪飾りを手に取った ――― 。


( ――― 桔梗(ききょう)… 元気にしてるだろうか……? )



―――――― と、其処(そこ)に扉を叩く音が ――― 蒼狼(せいろう)である。



「 ごめん、蒼狼(せいろう) ――― 睡蓮(スイレン)がもう寝ちゃって…… 」


「 はぁ? もぉ~!! 全然 どおって事 無いじゃないですか!? ――― それじゃあ、御二人でゆっくり休んで下さいよ?おやすみなさい! 」


「 お休み。 」



白夜(ハクヤ)は蒼狼の後ろ姿を見送ると、睡蓮(スイレン)に布団を掛け ――― 置いてあった香を焚くと、角燈(ランタン)の蝋燭を消して自身も眠りに就いた ――― 。



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