「 蓮華の花守 - 晦冥と睡蓮 」(三)
「 睡蓮、何処の部屋に泊まるか聞いた? 」
蒼狼 や 蝶美と共に 王族の居住棟に戻りながら、白夜が睡蓮に訊いたのだが、睡蓮はまだ部屋の事を聞かされていなかった。
「 わかりません……。 」と、睡蓮が不安気な表情をするのを見て、蝶美には彼女が何故そんな顔をしたのか理由が解らなかったが「 たぶん、珠鱗さまや紅魚さまのお部屋があるトコと一緒だよ? 戻ったら、聞いてみよっ?」と、睡蓮を励ます様に優しく微笑む。
「 俺達は王族の居住棟の隣の棟に居るから…――― と、言っても、女性は立ち入り禁止なんだけど…… 」
離れた場所で、睡蓮の危機をどうやって察知すれば良いのか ――― 白夜は、まだ解決策が見出せていなかった。
「 そう!寄宿所だって近いのに、俺も今日から其処なんですよ! 忙しいのは四日目からなのに ――― 」と、少々 不満気に言いながらも 蒼狼 は 晦冥や行方不明者について何か探れないかなと考える。
「 ふ~ん。。。蒼狼くんがそうなら、アタシも近くにいなきゃダメなのかなぁ? 」
「 何にしても、君等の部屋って男子禁制で 晦冥様は入れないよね……? 」と、白夜が問うと「 うん!――― と、思うよ? 」と蝶美は元気良く頷いた。
( ――― それなら大丈夫かな……? )
白夜は考えながら「 判ったら教えてね? 」と睡蓮に念を押し、睡蓮も「 はい! 」と頷いた。
――― 未の上刻( 十三時過ぎ )―――
睡蓮 と 蝶美が女王の私室に戻ると、其処には ――― ・・・・
「 ああ、君か 睡蓮さん ――― どうかな? 女官の仕事は 」
「 !!! 」
女王の部屋には晦冥が訪れており、睡蓮は言葉を失った。
「 こんにちは~ ! 晦冥さまぁ 」と、無邪気な様子で 彼の近くに蝶美が駆け寄って行くと「 フフ……こんにちは、 蝶美 ――― 相変わらず元気だね。 」と微笑みながら「 糖を食べるかい? 」と晦冥は桃色の包み紙で包まれた 糖 を 蝶美に手渡した。
「 わぁ~!! ありがとうございます! 」
「 睡蓮さん…… " 睡蓮 " と呼んでも良いかな? ――― 君は何色がお好きかな? 」
「 !? 」 ――― 睡蓮は、立っているのがやっとの状態だったが、優し気な様子の晦冥 に戸惑ってもいた。
( ――― この方は 黒い矢とは関係無いの……!? )
晦冥 の 傍らには花蓮女王が紅魚に髪を櫛で梳かさせながら、睡蓮から見て横向きの状態で椅子に座っており ――― 顔だけを此方に向けて睡蓮を眺めているので、性分のせいもあって何も告げないまま部屋を飛び出して行く事も出来ず ――― 必死で、どうやって此の部屋から離れるかを考えていた。
「 白!睡蓮は白が好きです! ――― ね?睡蓮 」と、代わりに答えた蝶美 は 睡蓮の様子がおかしい事に気付く ―――
「 睡蓮? なんか、お顔が。。。真っ青だけど ――― え? もしかして、風邪!? 」
「 えぇっ!? ――― やだ!そうなの!?睡蓮 」と紅魚も 女王と自分達の身体を心配して真っ青になる。
「 ” 白 ” ですか ――― 残念ながら白色は無いので、貴女にはこちらを…… 」と、晦冥 は 自身よりも身長が低い 睡蓮と目線を合わせる様に身を屈ませて彼女に黒色の包みの 糖を差し出した。
「 ――― い…要りません……!! 」 後退さりしながら睡蓮は小さな声で呟いた。
片手は、衣に忍ばせている白夜から貰った白い貝殻を衣の上から握り緊しめている。
彼女の其の様子を、花蓮は静かに じっと見つめていた。
「 ――― 甘い物はお嫌いかな? 」
「 遠慮しないでもらいなよ~睡蓮! ――― はい! 」と、蝶美が代わりに晦冥の手から受け取り、睡蓮に手渡して会話を続けた。
「 さっき、ちょうど糖のお話をしてたんですよぉ ――― 蓮さまがよく配ってたお話! 」
「 そうでしたね。私も糖を手に入れると配りたくなるのは 蓮先王の影響かもしれないな? 」
晦冥 は、蝶美と 和やかな表情で微笑み合うと「 では、そろそろ参りましょうか? 陛下 ――― 」と、花蓮女王の手を取って彼女を立ち上がらせた。
二人が何処か行く様子に、睡蓮は思わず ほっとして胸を撫で下ろしたのだが、彼女を見つめ続けていた花蓮女王は、歩みを進める事無く 微笑みを浮かべた ――― 。
「 睡蓮、付いて来てくれる……? 」
女王は頼む様に睡蓮に言葉を掛けたが、女王からの申し出とは " 付いて来い " と同じ意味である。
晦冥の手を取って、微笑みを浮かべて佇む彼女の申し出に睡蓮は戸惑いを隠せずにいたが、選択権は無い ――― 。
「 あの。。。でも、睡蓮 風邪っぽいから女王さまにうつっちゃったら ――― 」
「 そ…そうですよ!陛下、付き添いなら私 か 蝶美が ――― 」
見合い前の女王の身体を心配した蝶美 と 紅魚が口を挟んだのだが、「 睡蓮が良いの!! 」――― と、珍しく声を荒げた様に女王が大きな声で自分達を睨みつけたので、蝶美 と 紅魚は一瞬、瞳に驚きの色を浮かべて 黙り込むしか無かった。
「 ねっ?良いでしょ?睡蓮 ――― 行きましょ! 」と、花蓮は右手を晦冥の手に預け、左手で睡蓮の手を引きながら睡蓮の返答を確認しないまま 悦びを浮かべた表情で部屋を後にした ――― 。




