「 蓮華の花守 - 一日目の食堂 」(二)
―――――― 午の下刻 ( 十ニ時過ぎ )
食堂の円卓を睡蓮 と 白夜達一行が 二台程 独占している。
「 ちょっと、日葵ちゃん! こんな良い男と どこで出会ったのよ!? 」
「 あたしも知りたい! 」 ――― と、酒は無いが夜の飲み屋のノリで姫鷹 と 東天光 が何処から如何見ても、美青年で愛妻家の春光の姿を見て日葵に問うと、葵目も少し頬を染めながら無言で頷く。
「 それは、話せば長くなるねぇ! 」と、日葵が思い出の日々を脳裏に浮かべて幸せそうな笑顔で医院の三名へ告げると、春光も「 まぁ、そうだね。」と、日葵と見つめ合い、仲睦まじげに微笑んだ。
「 なかなか良い食堂じゃの ――― 儂も今度から此処に食べに来るかのう? 」
「 でもね!秋陽先生 ――― 前はもっと美味しかったんだよ? 」と、蝶美 が 秋陽に告げると「 だよねぇ!? アタシも前のほうが好きだった! 」と緋鮒が同意する。
「 ――― なんで、こんなに人が……? 」
白夜が知り合いだらけの円卓を訳が分からないと言った表情で眺めていると「 良いじゃないですか? 賑やかで楽しいですよ。 」と 蒼狼 が 特に気にせず麺を啜る ――― 。
( 最近、知り合いが揃った時は碌な事が無いんだが…… )と、考えながら白夜は周囲を警戒した。
秋陽、日葵、春光 ――― 姫鷹、葵目、東天光 の 六名は、睡蓮達が来るであろう時間に合わせて食堂に張り込んで世間話をしており、女王の御見合いに医院は余り関係無いだろうと言う事で、医院の三名も出来る限りで睡蓮達を見守る事を秋陽と約束していた。
――― 睡蓮は、余り 会話に参加する事は無かったが、皆が居る光景を楽しそうに眺めながら食事をしている。
「 さ~てと、アタシは先に戻ろっかな ――― 皆さん、サヨナラ! 蝶美、睡蓮ちゃん また後で~! 」
緋鮒は席を立ち上がり食器を手に持つと、皆に手を振って仕事に戻って行った ――― 。
一行は色々と話したい事が有るのだが、睡蓮の事情に無関係で女王や 晦冥に近い 蝶美が居るので 口を閉ざしている。
「 あの、葵目さん…――― こないだは、お手紙を有難うございました。 」
睡蓮がお礼を言うと、日葵 や 春光には自分の事情を説明済みだが、蝶美の前なので葵目は優し気な笑顔で無言で頷いた。
「 今度、お返事しますね。 」――― と、睡蓮 が 葵目に微笑んだのを決して、白夜は見逃がしてはいない ――― 。
「 葵目さんって、女王さまみたいだね! 」
寡黙 な 葵目の様子を見て、蝶美が無邪気に笑うと、姫鷹は「 あ~…確かに。 」と苦虫を噛み潰したような顔をしながら( " 女王様 "と聞くと何だか……――― )と彼女らしい妄想を頭の中で繰り拡げ始めた。
「 ? ――― 花蓮様も寡黙な御方なんですか? 」と 蒼狼が訊くと、「 うん、そうだよ ――― ねっ?睡蓮 」と 蝶美が相槌を求めたので睡蓮も彼女に続く「 はい…!花…――― 女王様はお静かな方です。 」
「 なんだい? 白ちゃんと 蒼ちゃんは会ったんじゃないの? 」
「 ――― あの、 蒼ちゃんって俺の事ですか? 」と、蒼狼が口を挟んだが白夜 と 日葵は気にせず会話を続けた。
「 部屋の出入りをされる時のお姿は何度か見たけど、喋ってはいないから…――― 」
「 蓮 様 は そんな事は無かったのよぉー! 」と姫鷹が蓮に想いを馳せると、葵目も淋しげな表情で同意する様に頷き、東天光も温かい緑色のお茶を飲みながら、しみじみと「 なんか、友達みたいな王様だったよねぇ…――― 」と蓮の姿を思い返す――― 。
「 あ!それ解ります ――― その辺に居そうで居ない御方って言うか 」と蒼狼も笑い「 蓮さまは、よく糖をくれたよ! ――― 女官のみんなに配ってたの! 」と蝶美も笑うと「 俺も糖 貰ったな……持ち歩いてるのかな? 」と 白夜も笑う。
睡蓮は、リエン国の人々は 蓮先王の話をする時は何時も楽しそうだなと考えながら、皆のその様子を見て自身も微笑んだ。
残念ながら蓮先王の記憶は無いが『 糖 』と云う言葉には覚えがあった ――― ( 糖…… たぶん、食べた事あるような気がする…―――? )
「 処で ――― 蓮 様と言えば、蝶美さんは山兎恵さんと南海沼さんには会った事ある? 」と、蒼狼が切り出すと「 あるよ~!――― あれ!? そう言えば、最近 見てないかも?……アタシが女王さまに付きっきりだからかなぁ? 」と、蝶美は愛らしく小首を傾げた。
「 ――― 晦冥様が側近になられた理由って知ってる? 」と、 白夜も蝶美に訊ねると、医院の三名や秋陽達三名も 皆、彼女の言葉に注目したが「 ん~ん!知らな~い! 」と、嘘か誠か ――― 本当なのだが、彼女は首を横に振った。
「 君は、女王になる前の花蓮様にも仕えていたの? 」 白夜は続ける ――― まるで、尋問の様だ。
「 ううん!違うよ? ――― アタシ達は皆、女王になった女王さまから仕えてるよ? 」
「 女王になる前の花蓮様に仕えてた女官の人達って誰だったか知ってる? 」
「 え~っと……ゴメンなさい、わかんないや…! ――― そう言えば、引き継ぎ(?)みたいなのは無かったかも? あれ? あったっけ? 」と、普段は笑顔を絶やさない蝶美が真顔で考え込み始めると「 医院と同じね……。 」と、姫鷹が 葵目 と 東天光のほうを見ながら呟いた。
葵目 も 東天光も真顔で頷く。
「 ――― 知り合いの中で 最近、見かけない人って居る? 」蒼狼の質問に蝶美は不信感と退屈を覚え「 ちょっとぉ~!さっきから何なの?意味わかんないんだけどぉ! 」と眉を顰めながらも「 見かけない人……いっぱいいるよ? ――― だって、アタシ達は女王さまに付きっきりだもん! 」と頬を膨らませた。
「 だから、こ~んなに たくさんの人と ご飯 食べたの久しぶり! ――― 緋鮒もそうだよ! 睡蓮、友達いっぱいなんだね! 楽しかったぁ~ アリガトっ! 」
「 え? 」
睡蓮は、蝶美の明るく愛らしい笑顔を見て、思わず微笑み返したが( どちらかと言うと、 白夜さんのおかげよね……? )と、円卓に座る顔ぶれを改めて眺めた ――― 。
良く見ると、日葵だけは まだ何かを美味しそうに黙々と食べ続けていたので、思わず睡蓮は微笑んだ。
一行は、取り敢えず明日のお昼も合流する事にして此の日は解散する。
「 まっ 、時間が合ったら あたし達とは夜も会いましょう ――― ねっ? 白夜くん 、夜よ?夜。」と、別れ際に姫鷹が妖しげな笑顔で " 夜 " を強調して来たので、白夜は( ――― 絶対に会ってはいけない気がする…… )と危機感を募らせた。




