「 春光と日葵 」
「 睡蓮、あいつ等は晦冥様に近い ――― あの二人の所に長居はしちゃ駄目だ! 」
「 は…はい! 」
何時もは並んで歩いてくれる白夜が、自分より少し前を歩いている事に睡蓮は気が付いていた。
( ――― 何かお急ぎになられているのかしら…? )
「 あの……白夜さん、私 明日から七日間は宮中に泊まり込みで仕える様に云われて……――― 」
「 俺 や 蒼狼もそうだよ ――― 大丈夫、必ず守るよ。 」
「 は…はい…! ごめ ――― ありがとうございます…。 」と、理由は自分では解ってはいないので " 何となく " 睡蓮は頬を紅く染めて俯いた。
( 今、" ごめんなさい " と言おうとして、" ありがとう " と言ったよな……? )
白夜は、睡蓮がどんな表情をしているのか見たいのを桔梗を想って我慢したのだが、心の中で睡蓮 と 睡蓮の花を見た日の事を思い返す ――― 。
( ――― 嬉しいと言う意味なのだろうか……? )
二人が白夜 の 邸に戻ると、中には懐かしい顔 ――― 日葵の夫 の 春光の姿があった。
「 やあ、二人とも御帰り! 久し振りだね。 」
「 春光さん!? 何で? 」と、最近、眉間にしわを寄せがちな白夜の顔が綻ぶと、睡蓮も「 お久しぶりです…! 」と彼に頭を下げた。
「 宮中の鍵を増やしたり、作り直すとかで 今日は鍵師の何人かで下見に来たんだ。 ――― で、僕は此処に帰りに寄らせてもらったと言うか……何日か泊まらせてくれるかな? 」
「 勿論ですよ! 空いてる部屋はあるんで好きに使って下さい。」と白夜は笑顔で答えたが「でも、日葵は……家に独りなんですか? 」と日葵の心配を始める。
「 日葵ならホレ、畳の上に倒れておるぞ? 」と、秋陽が 偶然 手に持っていた扇を指した方向を白夜と睡蓮が見ると、相変わらず、ふっくらとした膨よかな体型の日葵が、王宮までの階段疲れで水分を含んだ濡れた布を額や脚などに乗せて寝込んでいた。
「 日葵さん!! 」睡蓮 は 幼子の様に日葵の所に駆けて行く ――― 。
「 僕が日葵を置いて来れる訳が無いじゃないか? ――― でも、連れて来るのは正直 苦労したかな? 」と春光は持参した異国の紅いお茶を飲みながら笑った。
「 睡蓮~…! 聞いたよ!? 花蓮様の女官になったんだって? 」と、日葵にしては珍しく弱々しい声で睡蓮に話しかけた。
「 はい…! まだ数日しか仕えておりませんが、日葵さんや桔梗さん、東雲さんに教わった事が役に立っています。 」
「 なんか、しばらく見ない間にしっかりしてるじゃないのさ……! 手紙も読んだよ?アレ自分で書いたのかい? 」
「 はい! 」
五名は宴の様な食事を繰り広げながら、久しぶりの再会を楽しんだ。
話は次第に、晦冥や 呪術、宮中で消えた者達の話題にも及んで行く ――― 。
「 東ちゃんからも聞いたけど、呪術とか行方不明って…… ――― 春ちゃんも気を付けてよ!? 」
「 うん…。 」 ――― 鍵も何か関係あるのだろうかと春光は考え込み始めた。
「 あー…そうだ、父さん ――― 俺と睡蓮は明日から七日間は宮殿の中に寝泊まりしなきゃいけないんだ ――― だから、家の事はよろしく? 」
「 それは良いが……睡蓮もか!? 」と秋陽が驚いた様子に、未だに晦冥の名を覚えていない日葵も目を見開いて続く「 ちょっ…大丈夫なのかい!? " 何とか様 " って奴もいるんだろ!? 」
「 花蓮様の見合いの為にだから…――― 晦冥様も忙しいと思うし、何処かの王子様と御付きの人や、他の女官の人達も居るし、人は多いから ――― 」
「 人は多いかもしれないけど、それ 皆が忙しくしてるんだよね? ――― 白夜くん、睡蓮さんが矢に襲われたのも花蓮様の即位式の行進の最中だったんだよ? 」
春光の言葉に、四名は静まり返る ――― 特に、睡蓮は蒼褪めてしまっている。
「 あ……怖がらせてごめんね、睡蓮さん ――― でも、二人共 油断はするな。 」
穏やかな春光にしては珍しく、語尾を強めて白夜と睡蓮の顔を真っ直ぐ見つめた。
「 明日、医院長達にも目を光らせてくれる様、またお願いしておくかのう…… 」秋陽も腕を組んで深刻な表情で呟く。
「 先生、あたしも行くよ! 話聞いてたら、その姫鷹先生って人に会ってみたくてさ! 」
「 医院か…――― 医院の鍵も作り直すなら、僕も日葵や先生と一緒に行けるんだけどなぁ…… 」
酒が入ってるせいなのか、三名の大人達は直ぐに別の話題へと移って行ったが、春光の言葉で酔いが醒めつつある白夜と、まだ酒を飲む年齢に達していない白面 の 睡蓮は蒼白の表情で沈黙したままだった。




