「 翡翠と藍晶 」
「 ――― と、言う訳で 宜しいかしら? 睡蓮さん 」
其の日の夕刻、女官長の珠鱗が明日から女王の最初の見合いが無事終了する迄の七日間、宮中に泊まり込みで女王に仕えて欲しいと睡蓮に申し出る。
此れは、珠鱗の考えと言うより女王の考え ――― 側近である晦冥の考えと言ったほうが正しい。
つまり、睡蓮には選択権は無い ――― 。
「 は…はい!分かりました。 」
「 必要な物は全て支給されるから何も心配いらないわよ? ――― 身一つで来なさい。 」と、紅魚が睡蓮に微笑み、「 睡蓮ちゃんの部屋は明日 ――― たぶん、この中の誰かが案内するんじゃないかな? 」と、緋鮒も陽気に笑うが睡蓮はとても笑える心境では無かった。
( 七日間、ずっと宮中 ――― 晦冥と云う方の近くに……… )
――― 独りになってしまう時間など、幾らでもありそうで睡蓮の顔色に蒼が増して行く。
蝶美は、そんな睡蓮の心中を察した訳では無く ――― 彼女らしく屈託の無いの笑顔で「 たぶん、白夜さんも泊まりこみだね! 」と睡蓮に微笑んだ。
( 白夜さんも……―――? )
蝶美の予想通り、同じ頃 ――― 白夜にも同様の内容が晦冥の口から告げられていた。
「 ――― と、言う訳で 宜しくお願いしますね? 」
「 承知致しました。 」
表面上は何時も通りだったが、白夜 と 晦冥を取り囲む空気は氷の様な冷たさを醸し出している。
「 部屋は明日 ――― この中の誰かが案内させて頂きますね。 」と、藍晶が微笑むが、瞳は笑っていない。
( 七日間、ずっと宮中 ――― たぶん、睡蓮もだな……… )
――― 彼女が独りになってしまう時間など、幾らでもありそうで白夜はどうやって切り抜けるか考え始めていた。
睡蓮に情が移りつつあるのが気掛かりではあるが、彼女を守る約束は別問題であり、決して忘れてはいない ――― 。
「 ああ!わかった! ――― 君が白夜の妹だね? 」
女王の部屋の夜間の見張りを務める翡翠が、家路を急ぐ睡蓮を見るなり彼女に声を掛けた。
彼自身には何も思わなかったのだが、彼の手にする鎖の付いた大鎌の鋭い刃に睡蓮は物恐ろしさを感じる。
彼女の其の様子に気付いたのか、もう片方の見張りの 藍晶が「 君の事はちゃんと気付いていたのだけど、挨拶はまだだったね? 僕は 藍晶 ――― こちらは 翡翠だよ? 」と優し気に声を掛けるが、此方の青年もまた、手には大鎌を持っており、今にも振り翳しそうな雰囲気を漂わせている。
「 はじめまして、睡蓮と申します……。 」
「 兄妹で陛下に仕えるなんて凄いね ――― 滅多に無いと思うよ? 」
「 白夜の妹なら僕達の妹でもあるな! でも、僕の事を呼ぶ時は " お兄様 " と呼ぶようにな! 」
( ? ――― 兄妹と思われてる? )
「 睡蓮! 」 ――― と、睡蓮を迎えに来た白夜が現れると、「 来た来た!またね、睡蓮 」「 お疲れ様 」と 翡翠 と 藍晶 は二人の事を双子の様によく似た笑顔で見送った。




