「 既視感 」
「 デカい… 」
「 デカいな…… 」
晦冥に仕える、若く麗しい四名の武官の青年達が物珍しそうな顔で白夜を囲んで彼を見上げ、白夜の腕や脚をペタペタと触りまくっている ――― 。
「 あの、触るのはやめてくれる? 」
「 晦冥様と同じ位の高さじゃないかな? 」
「 そうだね…同じ位だね。 」と、四名の内の二名が顔を見合わせて頷きながら納得する。
「 えっと…白夜と蒼狼は、とりあえず見張りから始めるように言われているよ。――― じゃ、よろしく! 」
「 それだけ!?……皆さんの名前くらい教えて頂いても良いですか? 呼ぶ時、困るでしょう? 」
なかなか名乗ろうとしない四名に蒼狼が訊ねると「 ああ……なるほど、名前…… 」と、感心した様子で一人が頷いた。
「 それもそうだね。僕の名は…… " 藍晶 " です。」 ――― と、どちらの名前を言えば良いのか一瞬、考えてから藍晶が名乗る。
「 " 翡翠 " だ! 」
「 " 黒曜 " …… 。」
「 " 桃簾 " でぇ~す! 」
「 何か皆さん、源氏… ――― 綺麗な名前だね? 」と、白夜が率直な感想を述べると自己陶酔の気がある翡翠が得意気に「 まぁね! 」と答え、品は良いのだが気位が高そうな藍晶が「 御二人のお名前も美しいではないですか? 」と笑顔で返した。
「 そうだね、御二人は そのままのお名前でイケるかも? 」 ――― 桃簾 と黒曜 が顔を見合わせて、子供の様に無邪気に笑う。
( ……なんか、皆 顔の雰囲気が似てるな。 )
白夜は同じ様な顔と 少年にも見える身体をした四名の青年達をじっと見つめる ――― ( なんだか、弟が何人も出来たような気分だ ……。 )
「 …… お前は すぐに馴染めそうな気がする。 」
「 どういう意味ですか? 」 ――― 蒼狼は四名に負けない程の美しい顔を顰めっ面にして白夜を見上げた。
「 あら、似合うじゃない!素敵よ!睡蓮 」
睡蓮の女官着姿を見た、女官四名の中で年長者の『 紅魚 』がニコニコと笑顔でそう告げると「 髪はどうしよっか? アタシがやってあげるよ! 」と、結髪 や 化粧、爪の装飾が得意な『 蝶美 』が名乗り出る。
「 あ… 髪飾りを持って来ていますので ――― 」
睡蓮は、返し損ねたままになっている桔梗の髪飾りを取り出した。
現在の睡蓮は他の自分の髪飾りも持っており、桔梗から借りた髪飾りは大切に仕舞っていたのだが、先程 白夜が言っていた様な " お守り " の様な気持ちで知り合いである桔梗の髪飾りを選び持って来ていた。
睡蓮自身は選んだ理由など考えてもいないが、晦冥と会うかもしれない不安から、無意識に何か縋れる物が欲しかったのだと思われる。
( 白夜さんの貝殻と、桔梗さんの髪飾りと一緒に頑張らなくては……! )
「 まあ!素敵な髪飾りですわね…! 」「 本当!どこで買ったの? 」と、女官長の珠鱗 と 紅魚の二人が瞳を輝かせる。
「 すみません……! 知人にお借りした物なので どこで買われたかまでは…… 」
「 アタシも、ホントはこ~んな感じの装飾が好きなんだけど、女王さまは黒が好きだから合わない飾りは使えなくって…! 」 ――― 蝶美は、桔梗の髪飾りに心弾ませながら睡蓮の髪をまとめた。
「 似合うじゃん! さすが、蝶美だね! ――― じゃあ、睡蓮ちゃん 改めてヨロシクね!? 」
" 明るい " を通り越して、陽気な雰囲気の 『 緋鮒 』が睡蓮に笑顔を向ける。
自分より年上の四名の女官達を見ながら、睡蓮は( なんだか、お姉さんが四人できたような気分……! )――― と、思わずにはいられなかった。
リエン国の王が女性になったのは数十年ぶりの事であり、しかも、まだ十五の若い少女が王位に就くのは初めての事である為に、女王付きの女官の仕事に関しては睡蓮以外の四名も まだ手探りの状態である。
現在は主に、女王の私室等の掃除や備品の管理、着替えや結髪の手伝い、そして、晦冥も関わる事になる女王が印を押さなければ成らない文書など書類の整理と女王の予定管理等を中心に行っている。
睡蓮は一先ず、女王の私室の掃除と常時 必要な備品を覚える事から始める事になった。
――― まだ初日と云う事もあり、紅魚 と 蝶美が一緒だ。
女王の部屋の鍵は、女官長の珠鱗から紅魚が責任持って預かっている。
女王の部屋に向かう途中 ――― 睡蓮は、出入り口で見張りを行っている白夜と蒼狼の姿を見つけた。
白夜 と 蒼狼も 睡蓮の姿を見つけると、白夜は彼女の無事な姿を見て安心する ――― 。
「 やあ、睡蓮さん! 」――― 新顔と思われる麗しい蒼狼が片手を上げて睡蓮に挨拶したので、先頭の紅魚は立ち止まって「 知り合いなの!? 」と驚いた顔で睡蓮に確認する。
「 はい ――― お二人にはお世話になっております! 」
「 ええっ!? こっちも知り合いなのっ? 」紅魚は更に驚きながら白夜の姿を見上げると「 今日は新顔ばっかりね! ――― 紅魚よ、よろしく! 私達は女王陛下の女官だから名前は忘れても良いけど、顔は覚えてね。ここよく通るから、立ち止まらせないでよ? 」と白夜と蒼狼に上品な笑顔で挨拶した。
「 アタシ、蝶美! ――― 背が高いね!晦冥さま みたい! 」
明るい笑顔で晦冥の名を口にした蝶美に、睡蓮 と 白夜 と 蒼狼の表情は笑顔のまま固まったのだが、蝶美は気にせず(気が付かず)無邪気な笑顔を浮かべていた。
「 睡蓮 ――― 終わったら迎えに行くからね。 」
「 はい! 」
白夜に返事をして、女王の部屋へ通じる廊下に足を踏み入れた瞬間、睡蓮は 其の廊下 ――― 部屋への通路の造りを知っている様な気がした。
( ……!? ――― 通った事がある……ような……? )
先ず、一つ目の扉が在り、
其の扉を開けると、少し離れた所に二つ目の扉が在り、
其の二つ目の扉の向こうに、ようやく部屋と呼べるような場所が現れる ――― 。
自分が想像した通りの造りだった事に、睡蓮は 何とも言い難い気持ち悪さを覚える。
「 ……ここが花… ――― 女王陛下のお部屋なのですか? 」
「 そうよ? 以前は 女王様のお母様 ――― 王妃様が使われていたんですって。 」
「 こないだまでは王妃さまが亡くなられた時のまんまだったけど、女王さまのお部屋として このお部屋を使うようになったんだよ! 」
( 王妃様のお部屋……!? そんな場所に私が行くはずは無い……わよね? )
「 ねぇねぇ、さっきの迎えに…ってやつ なぁに? あの人 睡蓮のカレシなの? 」蝶美がニコニコと楽しそうに睡蓮に訊ねる。
( ――― 枯れ死? ……辛子? …軽石かしら? 蝶美さんの言葉は まるで、日葵さん や 姫鷹先生みたい……。 )
「 それは私も気になってる所だけど、まずは仕事よ! ――― 睡蓮、こっちに来て! 」
「 はい…!! 」
女王の部屋の中を見渡してみたが、部屋の中には 当然 見覚えが無く ――― 睡蓮は、どうして部屋に入室する迄の通路に既視感を覚えるのだろうかと考えながら紅魚の説明を聞いていた ――― 。




