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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第三章『 泥中之蓮 』
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「 " 女王陛下 " 」



――― 翌日、白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)を連れて謁見(えっけん)の間に向かっていた。


「 そうだ、睡蓮(スイレン)これを ――― 」白夜(ハクヤ)は立ち止まって、真っ白な貝殻を睡蓮(スイレン)に手渡す。


「 今朝、海で拾って来たんだ。貰ってくれる? 」


「 はい…!もちろんです!ありがとうございます……!」


「 昔は、白い貝殻は魔除けだったって話を思い出してさ。本当に効くのか判らないけど、お守りに。」


「 お守り…… 」


「 今日はそのままだけど、今度、身に着けやすいように どこかで加工してもらおう。 」


「 はい…!大切にしますね! 」睡蓮(スイレン)が嬉しそうに微笑んで自分のほうを見上げたので白夜(ハクヤ)も微笑む。

(うつむ)きがちな睡蓮(スイレン)の顔を、できれば笑顔で ――― どうやって上向きにさせるか探究中の白夜(ハクヤ)は、()の様子に満足した。



( 白い貝殻……そういえば、夢の中の男性も白の(ころも)だった……。 )

夢の記憶を思い出した睡蓮(スイレン) は、何となく 白夜(ハクヤ)の腕を見たのだが、夢の中の男性の腕と長さや太さが違う様な気がして小首を傾げた。


「 ? ――― 何?どうしたの? 」


「 いいえ、何でもありません…! ――― 今朝も、海にお散歩に行かれたのですか? 」


「 うん。昨日の雨で 海水はちょっと濁ってたけどね。 」


彼女は、また直ぐに貝殻のほうを見つめ始めてしまったが、嬉しそうな様子なのは明らかなので白夜(ハクヤ)は 彼女の其の様子を暫く眺めていた。




「 新しい女官の方ですね? どうぞ中でお待ちください。 」 ――― 謁見の間の扉の前に立つ、若く麗しい男の武官が睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)に美しい笑顔を向ける。


「 それじゃあ、睡蓮(スイレン) 、終わるまで俺もここに居るけど…――― また後でね。 」


「 はい……! 案内してくださって、ありがとうございます。 」


「 何かあったら大声を上げて逃げるんだよ? 」 ――― " 俺が救命処置の話をした時みたいに "・・・と、言いかけて彼は言うのを止めた。


「 はい…! 」



――― ()の後、睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)に貰った貝殻を(ころも)の中に仕舞い持ち、独りで謁見の間に入って行った。


()が差し込んでいて明るいが、他に誰もいない事が 少しだけ睡蓮(スイレン)の不安を煽る ――― 。

白夜(ハクヤ)秋陽(しゅうよう)に、独りになるなと 耳にタコが出来そうな程に何度も言われていたのに、早速、独りなってしまっている・・・・。


( どうか、晦冥(カイメイ)と云う方が 真っ先にいらっしゃいませんように……! )



暫く待つと、睡蓮(スイレン)が入って来た扉とは別の扉から四名の女性達が現れ、()の中に店屋(みせや)で出会った珠鱗(しゅりん)の姿を見つけ ――― 睡蓮(スイレン)(ようや)く心を落ち着かせる事が出来た。


「 あら…? 睡蓮(スイレン)さん!? ――― ひょっとして、新しい女官の方ってあなたですの!?」


「 はい…! ――― 珠鱗(しゅりん)さん、お久しぶりです。 」


「 まあ! これは嬉しいご縁ですわ! お元気でしたか? 睡蓮(スイレン)さん 」


珠鱗(しゅりん)さまぁ、この方とお知り合いなの? 」 ――― 女官の一人『 蝶美(チョウビ) 』が 不思議そうな顔で珠鱗(しゅりん)に訊ねる。


「 ウフフ…♪ 先日ちょっとね! でも、そのお話は後程 お話しますわ。 ――― さあ、皆さん まずは 女王陛下をお待ちしましょうね! 」



――― また 暫く待つと、女王の入室を知らせる鈴や鉄琴の音の様な高音が鳴り響き、入り口に居た者とは別の二名の若く麗しい男の武官を引き連れて花蓮(カレン)女王が現れた ――― 。

女王は人前に出るのが嫌いではあるが、人前に出ると分かっている時には必ず彼女の自慢の脚が見える衣に身を包んでいる。

そして、今日も女王の装束の色は黒である。



睡蓮(スイレン)さん、先日は悲鳴をあげてごめんなさい……! ――― 晦冥(カイメイ)の言う通り、驚いてしまって…… 」


晦冥(カイメイ)の名が睡蓮(スイレン)の心の中を僅かに刺激したが、先日とは打って変わり、俯きがちで か細い声ながらも、(にこ)やかに話しかけて来た花蓮(カレン)の姿に彼女に膝まづいている睡蓮(スイレン)の緊張も少しずつ和らいで行く ――― 。


「 いいえ……私のほうこそ、驚かせてしまって申し訳ございませんでした。 」


「 分からない事は、何でも そこに居る珠鱗(しゅりん)に聞いて!女官の仕事は 彼女の真似をすればいいから。 」


「 はい…! 」


「 あなたの事を 今から " 睡蓮(スイレン) " って 呼ぶね? 」


「 はい…! 」


「 私の事は " 女王陛下 " と 呼んでね? ――― 皆、 花蓮(カレン)って呼ぶけど、嫌いなのアレ。 」


「 ……はい…! 」 ――― 先日、名前で呼んでしまった事を思い出し、花蓮(カレン)女王に不快な想いをさせてしまったのだなと睡蓮(スイレン)は思わず反省した。

出会った人達や、即位式で見かけた人達は「 花蓮(カレン)様 」と呼んでいたので、女王自身が()の事を好ましく思っていなかったのは意外でもあった。


「 じゃあ、睡蓮(スイレン) ――― 呼んで? 」


「 え…? 女…女王陛下。 」


膝まづいたまま自分の事を女王陛下と呼ぶ睡蓮(スイレン)の姿を見終えると、花蓮(カレン)は満面の笑みを浮かべたが何も言わず ――― 勝ち誇った様な勇ましい表情で足早に謁見の間から出て行った ――― 。




( ? ――― 今の最後のは何だったの……? 呼び方の確認…??? )


「 さあ、睡蓮(スイレン)さん!まずはお着替えですわよ! 」


睡蓮(スイレン)は、珠鱗(しゅりん)と他の女官達に連れられて、彼女達がやって来たほうの扉の向こう ――― 王族の居住棟とへ足を踏み入れた。





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