「 睡蓮と白夜の夜 」
「 睡蓮? ――― 何やってんの? 」
夜更けに物音がしたので、目覚めた白夜が寝惚けながら角燈を持って自身の部屋の扉を開けると ――― 同じく、角燈を持った睡蓮が廊下に立っていた。
正確には、白夜の部屋の扉が開いたので驚いた睡蓮 は 其処に立ち尽くした。
「 すみません…! 起こしてしまいましたか……? 」
「 うん、まぁね…――― どうしたの? 」
「 ごめんなさい……! 」
申し訳無さそうに頭を下げた睡蓮を見て、" 俺が目にする睡蓮は、大抵 頭が下に向いてるんだよな…… "と、再び 白夜は気になり始めていた。
「 否、 睡蓮 怒ってないから…――― 何かあったの? 」
言おうか言うまいか・・・少し考えてから睡蓮は「 眠れなくて…… 」と、正直に告げた。
寝台の中で、今日起きた出来事 ――― 晦冥の事や花蓮の事を考える内に、すっかり 頭と目が冴えてしまい、響き渡る波の音も気になり、なかなか眠りに付けず ――― 次第に、波に呑み込まれてしまいそうな感覚に陥り、部屋に独りで居るのが怖くなって、何処かの窓から紅炎の姿でも見えないかと廊下をウロウロしていた所を白夜に見つかってしまったのだ。
( さて、どうするか……。 )
" 眠れない " と聞いて、自分はどうすれば良いのか白夜は睡魔と闘いながら考え込んだ。
ハッキリ言って眠いが、彼女をそのままにして部屋に戻る事もしたくない ――― 眠れない理由が晦冥絡みなのも解りきっている。
そして、決して忘れる訳にはいかない桔梗の存在 ――― 。
「 あの、もう部屋に戻りますので……起こしてしまって、すみませんでした! 」
「 ……うん。 ――― いや、待って!睡蓮 」
――― " お茶 淹れるよ。 "
そう伝えると、白夜は睡蓮を連れて水屋(台所)のほうへ向かった。
二つの角燈の灯りの中、睡蓮はお茶を用意する白夜の後ろ姿を見て、此れ迄と同じ様に白夜が誰かに似ている様な感覚に陥る ――― 。
( ……誰? 私はどなたの事を思い出そうとしているの? )
「 はい ――― どうぞ。 」
「 ありがとうございます…… 」
食事をする台の椅子に座り、二人は無言でお茶を口に淹れる ――― 実に結構な事ではあるが、男女で有りながら面白味の無い夜の営みではある。
夜の静けさの中、海の波の音だけが室内に鳴り響いていた ――― 。
( ―――……わからない。何も思い出せない……。 )
何も思い出せない事に落胆した睡蓮が また 俯いたのを、白夜は眠気と格闘しながら ぼんやりと眺めていた。
「 あの……東雲さんと初めてお会いした時に、東雲さんは私をどこかで見た覚えがあるような気がすると仰ったのですけど…――― 」
「 ……あいつ、君にそんな事 言ったのか。 」
白夜は呆れ顔で東雲の言葉の意味を素直には受け取らず、良くある使い古された口説き文句だと判断した。
( 東雲にしては珍しいな ――― 睡蓮に気があるのか……? )
「 私と白夜さんはお会いした事はありませんか!? 」
「 え…――― ? 無い……と思うけど……? 」――― 珍しく、真っ直ぐ見つめて来た睡蓮を見て、白夜は睡魔との闘いから戻って来た。
東雲も睡蓮も、らしくない ――― と、彼は二人の新たな一面を新鮮に感じていた。
「 どうして、そんな事 聞くの? 」
「 いえ……何でもありません 」 ――― 再び 睡蓮が俯いてしまったので、遠慮から白夜は何も聞く事が出来なくなってしまったのだが、質問の真意が解らずに段々と頭と目が冴え始めていた。
( ――― めちゃくちゃ気になるんだけど……! )




