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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第二章『 蓮の糸 』
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「 睡蓮と白夜の夜 」



睡蓮(スイレン)? ――― 何やってんの? 」


夜更けに物音がしたので、目覚めた白夜(ハクヤ)が寝惚けながら角燈(ランタン)を持って自身の部屋の扉を開けると ――― 同じく、角燈(ランタン)を持った睡蓮(スイレン)が廊下に立っていた。

正確には、白夜(ハクヤ)の部屋の扉が開いたので驚いた睡蓮(スイレン)其処(そこ)に立ち尽くした。



「 すみません…! 起こしてしまいましたか……? 」


「 うん、まぁね…――― どうしたの? 」


「 ごめんなさい……! 」


申し訳無さそうに頭を下げた睡蓮(スイレン)を見て、" 俺が目にする睡蓮(スイレン)は、大抵 頭が下に向いてるんだよな…… "と、再び 白夜(ハクヤ)は気になり始めていた。


(いや)睡蓮(スイレン) 怒ってないから…――― 何かあったの? 」


言おうか言うまいか・・・少し考えてから睡蓮(スイレン)は「 眠れなくて…… 」と、正直に告げた。

寝台の中で、今日起きた出来事 ――― 晦冥(カイメイ)の事や花蓮(カレン)の事を考える内に、すっかり 頭と目が冴えてしまい、響き渡る波の音も気になり、なかなか眠りに付けず ――― 次第に、波に呑み込まれてしまいそうな感覚に陥り、部屋に独りで居るのが怖くなって、何処(どこ)かの窓から紅炎(コウエン)の姿でも見えないかと廊下をウロウロしていた所を白夜(ハクヤ)に見つかってしまったのだ。



( さて、どうするか……。 )


" 眠れない " と聞いて、自分はどうすれば良いのか白夜(ハクヤ)は睡魔と闘いながら考え込んだ。

ハッキリ言って眠いが、彼女をそのままにして部屋に戻る事もしたくない ――― 眠れない理由が晦冥(カイメイ)絡みなのも(わか)りきっている。

そして、決して忘れる訳にはいかない桔梗(ききょう)の存在 ――― 。



「 あの、もう部屋に戻りますので……起こしてしまって、すみませんでした! 」


「 ……うん。 ――― いや、待って!睡蓮(スイレン)




――― " お茶 淹れるよ。 "



そう伝えると、白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)を連れて水屋(台所)のほうへ向かった。

二つの角燈(ランタン)の灯りの中、睡蓮(スイレン)はお茶を用意する白夜(ハクヤ)の後ろ姿を見て、()(まで)と同じ様に白夜(ハクヤ)が誰かに似ている様な感覚に(おちい)る ――― 。


( ……誰? 私はどなたの事を思い出そうとしているの? )


「 はい ――― どうぞ。 」


「 ありがとうございます…… 」


食事をする台の椅子に座り、二人は無言でお茶を口に淹れる ――― 実に結構な事ではあるが、男女で有りながら面白味の無い夜の営みではある。

夜の静けさの中、海の波の音だけが室内に鳴り響いていた ――― 。



( ―――……わからない。何も思い出せない……。 )


何も思い出せない事に落胆した睡蓮(スイレン)が また (うつむ)いたのを、白夜(ハクヤ)は眠気と格闘しながら ぼんやりと眺めていた。



「 あの……東雲(シノノメ)さんと初めてお会いした時に、東雲さんは私をどこかで見た覚えがあるような気がすると(おっしゃ)ったのですけど…――― 」


「 ……あいつ、君にそんな事 言ったのか。 」

白夜(ハクヤ)は呆れ顔で東雲(シノノメ)の言葉の意味を素直には受け取らず、良くある使い古された口説き文句だと判断した。


東雲(あいつ)にしては珍しいな ――― 睡蓮(スイレン)に気があるのか……? )


「 私と白夜(ハクヤ)さんはお会いした事はありませんか!? 」


「 え…――― ? 無い……と思うけど……? 」――― 珍しく、真っ直ぐ見つめて来た睡蓮(スイレン)を見て、白夜(ハクヤ)は睡魔との闘いから戻って来た。

東雲(シノノメ)睡蓮(スイレン)も、らしくない(・・・・・) ――― と、彼は二人の新たな一面を新鮮に感じていた。


「 どうして、そんな事 聞くの? 」


「 いえ……何でもありません 」 ――― 再び 睡蓮(スイレン)が俯いてしまったので、遠慮から白夜(ハクヤ)は何も聞く事が出来なくなってしまったのだが、質問の真意が解らずに段々と頭と目が冴え始めていた。


( ――― めちゃくちゃ気になるんだけど……! )




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