「 睡蓮花 - 長い一日 」(二)
「 え…!? 晦冥様……? ――― 晦冥様って、あの晦冥様?!」
医院の三名は、全員 意外な人物の名に驚きを隠せずにいた。
特に、ついさっき加わったばかりの東天光は何が何だか解からず ――― 取り敢えず、睡蓮 の事は 姫鷹が何時も言っている記憶喪失の少女と云う事だけには気が付いていた。
晦冥に対して、特に何も思ってはいなかった蒼狼も半信半疑で居る。
「 いつか、あの無駄に巻いてる自分の布生地で派手に蹴躓いて、怪我でもして、ここに運ばれて来ないかしら♪―――って思ってたのに!!マジで?! 」
「 あたしも!あたしも おんなじ事 思ってましたよ姫鷹先生!! 」
「 先生方、こんな時は心の声は閉まったままにしておいたほうが…… 」
――― そう言う葵目も " 最近、自分は よく喋るようになったなぁ " と、薄っすら考えていた。
其の、何時もと変わらない様子の姫鷹と葵目の姿を見て、睡蓮は安心した表情で微笑んだ。
( 宮中の方々は晦冥と云う方を慕っていらっしゃると思っていたから不快にさせるかと思っていたけど……信じてお話してみて良かった…! ――― 東天光さんも楽し気な方のようね。 )
「 非現実的な考え方は好きじゃないんだけど、その奇妙な黒い矢も あいつなら作り出せるかもねぇ…… 」
自分好みじゃ無いと判断した途端に、晦冥をあいつ呼ばわりし始めた姫鷹の言葉に睡蓮と白夜、東雲、蒼狼は同時に彼女のほうに顔を向けた。
蒼狼は " あいつ "発言が気になったからだが、他の三名は黒い矢の話に関心を持ったからだ。
四人のその様子を見て、" この中でなら、やっぱり白夜くんがあたしの好みかな…… " と 男性陣の中で誰が一番か迷いながら姫鷹は話を続けた ――― 。
「 あいつ、最初は占い師だったのよ。 」
「 占い……!? 」――― 東雲と白夜は呪術の話を頭に浮かべて顔を見合わせる。
「 正確には、呪い師 ――― " 呪術師 " ね。蓮 様はそういう類の物は 信じてないし、厄払いとか縁担ぎとかも あまり 拘らない方だったんだけど、一人くらいは置いておこうかと思われたらしくて、 晦冥を宮廷呪術師として迎え入れたのよ。 」
「 呪術師…… 」 ――― 東雲にとって、姫鷹の言葉は 自身の想像と 晦冥が繋がった瞬間であった。
白夜も、晦冥 が 花蓮女王の居場所を解っていた様子だった事への答えを見つけた様な気がしていた。
「 それじゃあ、 晦冥様は 何か不思議な力を持っていると云う事ですか……? 」
「 " 非現実的な力 " って意味なら、さすがに無いと思うけど……? ――― 呪術医療もあるにはあるから何年か前までは この医院にも 晦冥は何度も顔を出してて ――― その時に、あたしも参考程度に話を聞いてはみたけど……医術と一緒で呪術にも限界はあるし、現実に不可能な事はできないはずよ。」
葵目も穏やかに微笑みながら姫鷹の言葉に続く ――― 。
「 私達 医療に携わる者達も 大昔は呪術師で一括りにされてたみたいなものですよね。 」
「 星に願いをかけるのも呪術! 鏡を見て、お化粧やお洒落するのも呪術……! ――― 呪術の力は、人間に潜在的に備わっているとも言いますね。み~んな、無意識に何かしら呪術を使ってんの。 」
――― 締めにそう言った東天光は、話が長引きそうなので 段々 帰りたくなって来ていた。




