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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第二章『 蓮の糸 』
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「 睡蓮花 」(一)


「 ええっ!? じゃあ、あなたが睡蓮(スイレン)さんの……!? 」


――― ()の日、秋陽(しゅうよう)が近所に出来た友人と御茶の約束をしてしまったので睡蓮(スイレン)の医院通いに白夜(ハクヤ)が付き添って来たのだが、葵目(アオメ)は思わず声を上げ、両手で口を覆って驚きを隠せずにいた。


「 ……あの、良かったら最後まで言って頂けませんか? ――― 俺の事、睡蓮(スイレン)の何だと聞いてるんですか? 」


「 いいえ!こっちのお話です!!御気になさらず~! 」葵目(アオメ)は全力で両掌を横に振って、笑って誤魔化した。


「 それよりも!!あなたは怪我とか体調悪いとか無いわけぇ?!! お姉さん、暇だから 無料で診てあげるわよ? ――― ほらっ!来いっ!!!ここに座れっ!! 」


「 !? 」


片手で患者が座る為の椅子をバンバンと叩きまくる飢えた姫鷹(ヒメダカ)(ただ)ならぬ雰囲気に、白夜(ハクヤ)は思わず眉を(ひそ)めて無言で後退り ――― 「 …… 睡蓮(スイレン)、この先生 本当に大丈夫なの? 」と、睡蓮(スイレン)に小声で聞いたのだが「 ? ――― 姫鷹(ヒメダカ)先生は良い方ですよ? 」と、睡蓮(スイレン)は相変わらず、姫鷹(ヒメダカ)の良い面しか見えていなかったので二人の会話が成立する事は無かった。


「 と…とにかく、あなたはあちらへお待ちください…! 睡蓮(スイレン)さんはこちらへ!――― ほらっ!先生、仕事!! 駄々こねないで下さいっ!! 」



――― こうして、今日も 葵目(アオメ)は 一人で喋り続ける羽目になる。






「 暇そうなのに、賑やかな医院だね? 」


「 はい…! 姫鷹(ヒメダカ)先生と葵目(アオメ)さんが いつも朗らかとされていらっしゃいますから。 」


医院からの帰り道 ――― 白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)桔梗(ききょう)の事を何時(いつ)言おうかと考えながら歩いていた。


( でも、唐突に言うのは変だよな…。睡蓮(スイレン)とは、折角 真面(まとも)に会話できるようになったのに、また ぶち壊して ややこしくなったら面倒だ……。 )


(ところ)で、 睡蓮(スイレン) ――― 髪型が変わってるけど、医院で結って貰ったの? 」


「 はい……!葵目(アオメ)さんにして頂きました。 」


――― " 可愛いね " と言おうとしたが、髪を結ったのが男の葵目(アオメ)と聞いて白夜(ハクヤ)の穏やかな表情は()(まま)の状態で固まった。



葵目(アオメ)って、あの 医院長の(そば)にいた男の……――― 」

東雲(シノノメ)さん!! 」


「 は? ――― 東雲(シノノメ)!? 」


「 二人とも何やってんの? あ……久しぶり!睡蓮(スイレン) ――― また会えたね! 」


「 はい!お久しぶりです! 」


睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)の進行方向から東雲(シノノメ)が歩いて現れ、三人は()の場に立ち止まった ――― 。


東雲(シノノメ)こそ、宮中で何やってるんだよ!? 」


「 仕事だよ!ついでに帰りにお前ん家 寄ろうと思ってた所 ――― そういえば、睡蓮(スイレン) こないだは手紙ありがとう!ちゃんと読んだよ。 」


「 はい…! 」


東雲(シノノメ)何時(いつ)も通り笑顔を向けたので、睡蓮(スイレン)も笑顔になった。

()の様子に白夜(ハクヤ)の独占欲が 彼に何も思わせ無かった訳では無いが、白夜(ハクヤ)は会話を続けた ――― 。


「 仕事って……――― (ハチス) 様の…? 」


「 いや、今日は医院に用があって来たんだ。 」


「 そうなのですか!? ――― 私達は医院からの帰りなのですよ! 」


「 そうなんだ? それで二人でここを歩いてたんだね。 」


「 あそこの医院長には気を付けろ……! 」――― 白夜(ハクヤ)は本気の眼で東雲(シノノメ)に忠告した。


「 ああ、姫鷹(ヒメダカ)先生でしょ? 慣れてるよ。 」


姫鷹(ヒメダカ)先生をご存じなのですか!? 」


「 うん、真鯉(マゴイ)先生や、東天光(トウテンコウ)先生とかも ――― 皆さんにお世話になってるよ? 宮中でも亡くなる人はいるからね。 」


「 その医院長が睡蓮(スイレン)の主治医なんだよ! 」


「 えっ!? マジで! 」


三人は、まさかの共通の知人で盛り上がると、再び 白夜(ハクヤ)の家で合流する約束をして()の場は解散した ――― 。


( あとで、東雲(シノノメ)さんに お手紙のお返事をお聞きしなければ……! )


睡蓮(スイレン)、どこか寄りたい場所はある? 」


「 いいえ、無いです! 」


即答した睡蓮(スイレン)に、相変わらず自分には余所余所(よそよそ)しいなと白夜(ハクヤ)は思う。

今まで一緒に居た東雲(シノノメ)に対する態度や、髪まで触らせている葵目(アオメ)とは雲泥(うんでい)の差である事に、彼等と自分の何が違うのか白夜(ハクヤ)は僅かに気になり始めていた。


「 ………じゃあ、真っ直ぐ帰ろう? 」


「 はい…! ――― あ… でも…… 」


「 " でも " ? 」


「 少し お花が見たいです…! ――― 睡蓮(すいれん)の花を…… 」


そう言うと、睡蓮(スイレン)は 宮中の建物や道の水場に溢れている睡蓮と蓮の花のほうを見た。

花達は 水の上に葉が青々とびっしり茂り、蕾よりも花開いた姿のほうが多くなっている ――― 。



日葵(ひまり)さんから株分けして頂いた睡蓮も育っているのでしょうか……? 」


診療所(うち)の? ――― こないだ見たけど、育ってたと思うよ。 」



睡蓮(スイレン)は水面に映る自分の顔を見つめた ――― 以前よりも顔色は良い。


( 相変わらず、何も思い出せないわね…… " 睡蓮(スイレン) " ? )


睡蓮(スイレン)は 少しだけ気を落とすと、水面に映った自分の姿の後ろに白夜(ハクヤ)の姿が映り込んでいるのを目にする ――― 。


睡蓮(スイレン)? 」


「 あ… ごめんなさい! ぼーっとしておりました!! 」


(いや)、気分が悪くないなら良いんだ。 ゆっくり見なよ? 」


「 は…はい! 」


周囲を見渡した白夜(ハクヤ)は、遠くで 警備中の蒼狼(せいろう)の姿を見つけ出し、暫く彼を観察してみようと視線を向けた ―――( 今日は知り合いが続くな……。 )

間も無くして、視線に気が付いた蒼狼(せいろう)は、(にこ)やかな笑顔で白夜(ハクヤ)達のほうに顔を向けた。


" こないだと相手が違いますね? " ――― 何か言ってる様子の蒼狼(せいろう)が そう口にしたような気がして、白夜(ハクヤ)は " 違う!そういうのじゃない " と 首と手を横に振ったが、蒼狼(せいろう)は微笑んだ(まま)、否定する白夜(ハクヤ)の姿を見て見ぬふりをした。


「 あ… ! 」


知人が続けて現れる偶然を不思議に思い始めていた白夜(ハクヤ)と、真面目に周囲を監視していた蒼狼(せいろう)は、次に現れた()の人物を見て、離れた場所にいながらも同時に声を出す事となった。



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