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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第二章『 蓮の糸 』
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「 木の芽時 」

 

 

――― ()の日、宮中の水場から香る 新しい芽や、花と水の香りが交わった空気の中で黒い衣装に身を包み、花蓮(カレン)女王は 何をするでも無く、何を眺めるでも無く ――― まるで、人形の様に感情の無い表情で 只 ()の場に(たたず)んでいた。

女王の務めにも慣れ、数多くいる下臣(かしん)達の顔も覚えて来た彼女は、皆が自分には甘く優しいと言う事も熟知していた ―――――― 。



「 こちらにいらっしゃいましたか…… 」

「 ! 」


晦冥(カイメイ)が姿を見せると、花蓮は頬を紅く染めて愛らしく微笑んだ。

彼女は、彼に対して絶対の信頼を寄せており ――― 晦冥とは、彼女にとって数少ない心許せる存在でもあった。






銀龍(ぎんりゅう)殿は人を斬った事は あるのですか? 」

稽古場で蒼狼(せいろう)が素朴な疑問を投げかける ――― 何時(いつ)もの雑談の始まりだ。


「 ……あるよ? ――― 槍で突き刺した事もあった。 」


「 どのような感じなのですか……!? 」


蒼狼(せいろう)の質問への銀龍(ぎんりゅう)の回答を聞こうと、白夜(ハクヤ)も含めた若い武官達は一斉に耳を研ぎ澄まさせた。


「 まあ、あんま良い気はしないな……――― 救いなのは相手が悪人だったって所だ。 」


(ハチス) 様の時代になってから、徐々にではあったが、この国も我々の役割も だいぶ変わったな…… 」

盈月(えいげつ)は自身の記憶を(さかのぼ)り、しみじみとした様子で そう呟いた。


「 もし、人を斬る事になったら 俺 ちゃんと できんのかなぁ…? 」

蒼狼(せいろう)の言葉に、白夜(ハクヤ)も 他の若い武官達も心の中で自問自答する。


「 できなくても、やるのだ。その時は…… 」 ――― 冷たげに響いた盈月(えいげつ)の声に()の場が一瞬で静まり返ったので、銀龍(ぎんりゅう)が話を変える。

武官長の彼は、味方である武官同士の争いの火種になりそうな物は 無意識に絶やす癖が付いてしまっているのだ。


「 まあ、女性の花蓮(カレン)様だ。 ――― よっぽどでなきゃ そんな命令は出さないだろうから心配すんなって? 俺達に出る指令は、精々(せいぜい)花を荒らすなとか壁を壊すなとか そういうのだろ? 」


銀龍(ぎんりゅう)の言葉に笑いが溢れ、場の空気が一気に盛り返すと、蒼狼(せいろう)が また素朴な疑問を投げかけた。


「 女性と言えば…――― 銀龍(ぎんりゅう)殿って、何時(いつ)も違う女性といますよね? 」


「 そうか? 」


「 そうですよ! ――― ねぇ、白夜(ハクヤ)さん? 」


「 うん、俺も ニ・三回…… いや、四・五回は見たかな。 」


「 ハハッ…バレてたか! ――― でも、お前達だって人の事は言えないだろ? 」


「 否定はしませんけど… 俺はリエン国の習いを破るような事はしませんよ? 」――― 蒼狼(せいろう)は答えたが、白夜(ハクヤ)は笑顔で流す。


「 なんだ? 俺が習わしに逆らってると言いたいのか!? 」


「 逆らってるじゃないですか!? 」――― 蒼狼(せいろう)白夜(ハクヤ)を含めた若い武官達全員が、面白い程に声を揃えて銀龍(ぎんりゅう)に そう告げた。


「 お前達、まあ そう責めてやるな…。こいつも真剣に考えていた女性が居たんだ。 ――― (いや)、今も考えてる……と、言ったほうが正しいのかもな? 」

銀龍(ぎんりゅう)を横目で見ながら()れだけ言い残すと、盈月(えいげつ)は自身の鍛練(たんれん)へと戻って行った。



「 あいつ、余計な事を言いやがって……! 」


「 なんか、意味深でしたね……!? 」


「 どんな女性なんです? 銀龍(ぎんりゅう)殿! 」


白夜(ハクヤ)蒼狼(せいろう)は期待で瞳をキラキラと輝かせて、銀龍(ぎんりゅう)の言葉を待った ――― 。


「 そりゃ俺だっているさ! 一人や二人………でも、悪いな。その件は まだ話したくないんだ。 」

――― 気持ちを落ち着かせる為、銀龍(ぎんりゅう)()の場を後にした。



「 なんか、訳ありっぽいですね? 」


「 うん……。 」


白夜(ハクヤ)さんは? ――― 此間(こないだ) 見ましたよ!? 美人と馬に乗ってる所! 」


「 お前、何でも目撃するんだな! 普段どこで何してんだよ!? 」


白夜(ハクヤ)が呆れた様に蒼狼(せいろう)に そう言うと、蒼狼(せいろう)は微笑んだ表情の(まま)、淡々とした口調で答えた。


「 別に? ――― 人より気付くだけですよ? 性分ですね。 」


そう言うと、蒼狼(せいろう)は笑顔の(まま) 自身の剣技を極めに、()の場を後にした ――― 。




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