「 東雲と白夜 」
「 え…? 睡蓮からの手紙!? ――― なんだろ? 」
白夜は東雲の家で彼に手紙を渡すと、東雲が手紙を読む様子を面白く無さそうな表情で見守った。
『 ――― 東雲さんへ
風が心地よい日が続いておりますが、お変わりなくお過ごしでしょうか?
東雲さんのお姿を心に思い浮かべるにつき、いつもお元気でいらっしゃいますようお祈りいたしております。
先日は、沢山のお飲み物をご恵贈いただきまして心よりお礼申し上げます。
皆様と一緒に美味しくいただいております。
私も 早速、六種類ほど いただきましたが 枇杷の味が大変気に入っております。
お話は変わりますが、初めてお会いした時に私に見覚えがあると仰られていた事を覚えていらっしゃいますでしょうか?
次にお会いできる時で結構ですので、詳しいお話をお聞きしたく思っております。
それでは、くれぐれもご自愛をお祈り申し上げます。
またお会いできます日を楽しみにしております。 ――― 睡蓮 』
「 何て? ――― 返事伝えとくから 」
白夜は急かす様に東雲に聞いたのだが、東雲は内容よりも睡蓮の字に心を打たれており、暫くの間 手紙を持ったまま感動していた。
「 睡蓮の字、すげぇー!! これ彼女が自分で書いたの!? 」
「 他に感想は無いのかよ!? 何て書いてあった? 」
「 ――― 枇杷が好きだって? 」
「 なかなか危険な物を好むな、 睡蓮…… 」
「 いいんじゃない? 枇杷はどんな病気でも治すって言うじゃん! ――― 処で、先生から黒い矢の話は聞いた? 」
「 呪術の話? ――― 相変わらず突拍子も無い事 言い出すよな…… 」
「 うん、まあ 俺も興味無い分野だから あんま良くわかんないんだけど ――― あと… 桔梗から宮殿に運ばれる鏡の話は聞いた? 」
「 いいや? 何それ? 」
東雲は、桔梗と見た 沢山の鏡が運ばれていた話と呪術の話を織り交ぜながら白夜に伝えたのだが ――― 白夜は東雲の語る絵空事の様な話に余り関心が無く、話半分で聞き続けていた。
「 ただの飾りじゃない? 花蓮様も女の子だし…――― 桔梗も 睡蓮も鏡ばかり見てるよ?日葵も沢山持ってたろ? ――― そう言えば、武官が使う稽古場にも 此間 設置されたけど、剣の構え方とか確認出来て便利だよ? 」
「 そうなのかなー…でも、時々 説明がつかない不思議な事ってあるじゃん? ――― お前の所は診療所やってるから解るだろ……? 」
「 ……う~ん、まぁ 無くは無いけど 」
" 死者が幽体になる " と云う伝承だけは、白夜も否定しきれなかった ――― 。
二人は其の儘会話の脱線を繰り返し、次第に話は桔梗と 睡蓮の話に変わって行く ――― 。
「 何それ? お前がちゃんと 睡蓮に桔梗が好きだって言えば良いだけの話じゃん? 」
「 そうだけど、良心が痛むと言うか……。 」
「 まあ、この国的には最低最悪な奴だよね? ――― 人助けって言っても、色々仕出かしたようなもんだし。」
「 ………否定は出来ない。 」
「 でも、 睡蓮はリエン国生まれじゃ無いかもしれないじゃん? 」
「 手紙を見ただろ!? ――― 誰も教えてないのに、あんなに綺麗な字でスラスラとリエン国の文字を書くんだぞ? この国の人間だろ…… 」
「 でも、あの娘 この国の事を覚えて無いみたいだし ――― そこんとこ、そんなに拘って無いんじゃないかなぁ? 」
「 確かに、そういう所はある……。 」
「 とにかく、 睡蓮に ちゃんと言え! 言わないから桔梗も不安に思うんだよ。 ――― 記憶を取り戻す手伝いをする事で手打ちにしたんだろ!? 桔梗と違って、 睡蓮はお前に気があるわけじゃ無いんだし 喜ぶかもしれないよ? 」
「 お前にそう言われると、なんか ムカつく…… 」
「 なんで? 」
其の後 ――― 白夜が帰った後に、独りになった東雲は 睡蓮と 何処で会ったのか思い出そうと自身の記憶を遡ってみたのだが、全く思い出せずに居た。
( 睡蓮は 結構 可愛いし、歳の割に落ち着いているし……忘れるほうが難しそうなんだけどな……? ――― もしかして、会話はしていないのかな? でも、どこで見た……!? )
―――――― 考え込んでいると、もうひとつの手紙が彼の目に映り込んだ。
「 あ! 先生からも貰ってたんだっけ! 」
秋陽からも手紙を貰っていた事を思い出し、手に取って紙を開くと、東雲は 泥沼の現場を見逃した事を深く後悔した。
( 白夜、この事 隠してやがったな……――― どおりで桔梗と睡蓮の話になるわけだ! )
『 ―――…と言う訳で 東雲、白夜が世話をかけてすまないが 桔梗の様子を見てやってくれ。
儂も あの娘の悲しそうな顔は見たくないんじゃ……、この事は日葵達にも伝えてある。
睡蓮は気づいていないようじゃが、もしもの時はこちらで何とかするから桔梗の方は頼んだぞ? ――― 秋陽 』
( 後で、桔梗の様子を見に行ってみるか…… )
東雲は、二人から貰った手紙を小物を入れる箱に大事に仕舞うと、睡蓮と何処で会ってるのかを考えながら仕事に戻って行った ――― 。




