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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第二章『 蓮の糸 』
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「 泥沼の三面鏡 」

 

 

―――――― 今宵の夕食は、(かつ)てない緊張感に包まれていた。


・・・と、言っても緊張感に包まれているのは桔梗(ききょう)が来ている事を帰ってから初めて知った白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)の二人のみである。

睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)は、何時(いつ)もの様に台の端の方に天板部分を挟む様に向き合って座り、()の二人の横隣りに桔梗(ききょう)が座り ――― 秋陽(しゅうよう)の席から見ると、三人は三面鏡の様に並んで座っていた。



始めの内は、王宮を包む波の音が良く響く程に静けさが漂う食卓だったが、次第に桔梗(ききょう)は自分でも意外だったが 睡蓮(スイレン)の食事する姿に見入っていた ――― 。


睡蓮(スイレン)さんて、とても綺麗な食べ方をなさるのね……! 」


「 え…? そうなのでしょうか……!? 」


自分では考えた事も無かったので、取り敢えず、睡蓮(スイレン)は目の前の食べかけの料理を眺めてみたが 何がどう違うのかサッパリ判らなかった。



「 そうじゃな、(わし)も人間は色々見て来たが 睡蓮(スイレン)は同じ年代の(むすめ)より品がある。 」


「 うん、睡蓮(スイレン)は隙がありそうで隙が無いような所がある。……別に変な意味じゃないよ!? 」

――― 桔梗(ききょう)が睨んでいたので、白夜(ハクヤ)は慌てて最後の部分の言葉を付け足した。



「 もしかしたら、あなたは どこかのお嬢様なのかしら……? 」

自分が睡蓮(スイレン)から感じる脅威は、彼女から滲み出る この品格からでは無いかと桔梗(ききょう)は考え始めていた。


「 どちらにしても、ご両親は さぞかし心配しているじゃろうな…… 」

秋陽(しゅうよう)は同じ親として何とも言えない気持ちになったが、彼の息子の白夜(ハクヤ)は全身に悪寒を覚えていた。

( どちらにしても、俺は睡蓮(スイレン)の両親に殺されかねないな……。 )



睡蓮(スイレン)は、皆が想像する不確かな自分の話より、秋陽(しゅうよう)が口にした確かな事実のほうに関心を持っていた。


「 あの……先生は私の年齢をご存じなのですか? ――― 私、自分が何歳なのかも覚えていなくて……教えて頂けませんか!? 」


「 はて?お主に言っていなかったかの!? 」


日葵(ひまり)が言い忘れたんじゃない? 」


最後の白夜(ハクヤ)の言葉に、秋陽(しゅうよう)と白夜と桔梗(ききょう)は " それに違いない! " と全員一致で(うなづ)き納得した。



「 君は、十四から十六歳くらいだと思うよ? 」


「 十四から十六歳……! どうして、その年齢だと判ったのですか? 」


――― 身体を見たから・・・とは言えず、白夜(ハクヤ)は笑顔で誤魔化した。



「 肌や骨格、肉の付き方などで、大体の年齢は判るのじゃよ 」


「 そうなのですか……!」


睡蓮(スイレン)は気が付かず流したが、桔梗(ききょう)白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)の年齢を知っていた意味を理解し、()れに気付いて目を逸そらした彼を 再び 突き刺す様に睨みつける。



「 もし、リエン国の生まれなら成人と見なされるのは ――― まあ十八歳から二十歳頃じゃな。結婚出来るのは、女子(おなご)の場合は十六歳からじゃ。 」


秋陽(しゅうよう)の言葉に、睡蓮(スイレン)は十六歳になっているのだろうか・・・と、睡蓮(スイレン)自身と白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)は同時に考える。

年齢によっては、白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)の結婚の問題は遠い先の話になる ――― 。



白夜(ハクヤ)は『 自分の心は桔梗(ききょう)にある 』 ――― と、桔梗(ききょう)睡蓮(スイレン)も目の前に座る()の夕食の席でハッキリと感じ取っていたが、桔梗(ききょう)と一緒に居る自分の姿を見つめる睡蓮(スイレン)の視線や表情が気になっている自分の気持ちにも気付いていた。

風習に従うなら睡蓮(スイレン)を選ばなければならない ――― 他の女性(桔梗)といる姿を見せる事が睡蓮(スイレン)を傷つける事になるのは避けたいと彼は考えていた。



白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)とは違って、睡蓮(スイレン)()の夕食の一時(ひととき)に懐かしさを覚えていた。

今日みたいな食事の風景を、以前にも何処(どこ)かで経験している様な気がするのだ ――― 。


白夜(ハクヤ)さん、桔梗(ききょう)さん、先生…… ――― 私が 誰かを思い出そうとしたお三方がいらっしゃる……。やっぱり、この方々は 以前の私が知っている誰かに似ているのではないのかしら……? )



中でも、一番 懐かしく感じるのは・・・・・



「 ? ――― どうかした? 」


「 いえ…!何でもありません……! 」


睡蓮(スイレン)何時(いつ)もの様に白夜(ハクヤ)と目が合って、頬を紅く染めて(うつむ)く姿を白夜(ハクヤ)が優しい表情で見つめている事に桔梗(ききょう)が気付かぬ筈が無く、 桔梗(ききょう)が 一番 見たくなかった光景が現在(いま)、彼女の目の前で繰り広げられていた ――― 。



「 そういえば、睡蓮(スイレン)は海老が好きだよね? 」


「 えっ!? 」 ――― (まさ)に、一口分の大きさの海老を頬張ろうとした瞬間だった。


「 君は いつも海老を食べる時が 一番 幸せそうな顔をしているよ? 」


「 そ…そうなのですか? お恥ずかしい限りです…… 」


白夜(ハクヤ)何時(いつ)もの様に優しそうに微笑んでいるので、揶揄(からか)われた訳でも非難された訳でも無いのは理解出来ているが、()の事実は 食い意地が張っているという事では無いかと思い ――― 睡蓮(スイレン)は茹でられた海老と同じ様に顔を真っ赤にさせた。

食に関する自分の姿について、三人から色々言われた事で自分が思ってる以上に自分は見られているのだなと睡蓮(スイレン)は初めて知る。


( ど…どうしましょう…!どんな顔して食べれば良いのか、わからなくなって来たような気が…… )


「 なぁに、食欲があるのは良い事じゃぞ 睡蓮(スイレン)! それと白夜(ハクヤ)…!」

秋陽(しゅうよう)白夜(ハクヤ)に目配せして、蒼褪めた顔をしている桔梗(ききょう)の事を知らせた。


「 ! ――― ()…… 」「 御馳走様でした!! 」


()の瞬間 ――― 桔梗(ききょう)白夜(ハクヤ)の差し出した手を振り払いながら立ち上がったのを睡蓮(スイレン)は目撃した。


「 皆さん、お皿は水屋のほうにお願いね? 」

桔梗(ききょう)は自分の食べ終わった食器を持つと、水屋(台所)のほうへと向かい始め ――― 彼女を追いかけようと白夜(ハクヤ)も立ち上がった。


桔梗(ききょう)! 」

「 ついて来ないで!!この後、お手洗いに行くから!! 」



( 桔梗(ききょう)さん…? 白夜(ハクヤ)さん……? )

睡蓮(スイレン)は、桔梗(ききょう)に初めて出会った時の事や秋陽(しゅうよう)白夜(ハクヤ)に掛けた言葉を思い出しながら、不穏な空気の二人をただ見守った ――― 白夜と桔梗の姿は、彼女の瞳の中には彼女が目覚めてから出会った人々の中の どの二人組とも違う雰囲気を纏って映っていた。



睡蓮(スイレン)、今日買った書簡紙じゃが (わし)も何枚か貰っても良いかの? 」


「 あ…はい!もちろんです! 」


(わし)も、大至急 東雲(シノノメ)日葵(ひまり)春光(しゅんこう)に伝えねばならぬ事ができてのう……! 」



―――――― 勿論、内容は『 白夜(ハクヤ)の泥沼の三角関係 』についてだ。




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