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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第一章 『 一蓮托生 』
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「 睡る花のような少女 」(一)

 




―――――― (ハチス)王の葬儀から明けて早朝。



リエン国に暮らす青年・白夜(ハクヤ)は、愛馬の紅炎(コウエン)と共に日課である朝の鍛練(たんれん)に出かけた。



(よわい)二十五歳のこの青年は、父親の医者家業を継ぐかと思われていたが

半年前に(おこな)われた国の剣術大会に ふらっと参加したにも(かかわ)らず、

勝ち残ってしまってから (たま)にでは無く、毎日 剣の腕を(みが)いている。

腕を磨く理由のひとつは、(ハチス)王から (いず)れは宮廷入りするように誘いを掛けられていたからでもあった。



(ハチス)王は、白夜(ハクヤ)の腕前はもちろん、武術を(たしな)む者としてその恵まれた体格と

華やかさのある容姿の割に、生真面目さを持つ性格である所が非常に気に入っていた。

白夜(ハクヤ)自身は、何が理由で(ハチス)王が自分を気に入っていたのかは知らなかったが、

王が目を掛けてくれた事は彼の誇りでもあった。



(ハチス)王が亡くなった今でも、王宮が自分を必要とするかはわからないが

例え、王宮に呼ばれなくても自分自身を高めるために、 白夜(ハクヤ)は、この鍛練を続けるつもりでいる。


今朝は (ハチス)王への(とむら)いの気持ちも重なり、(つるぎ)を持つ手に一層 力がこもった。




白夜(ハクヤ)が早朝に鍛練に励むのは、努力する姿を人に見せたくない性格からでもあるが

朝日が昇る瞬間の海を眺めるのが好きだからでもあった。



もともと海が好きなのだが、()が昇り始める空と海面の色の組み合わせが

なんだか、神聖な景色に見えて 気に入っていた。

夕日が沈む瞬間も美しいが、陽が昇って行くほうが希望を感じて好きなのだ。



いつものように、上機嫌で 砂浜を歩いていた白夜(ハクヤ)だったが

この日の朝は、太陽でも海でも無く、全く 別のものに 目を奪われてしまった ――― 。



波打ち際に人が倒れていたのだ。



彼は、この海には 何年も足を運んでいるが人が倒れているのを見つけたのは初めての事だった。

 


()ぐに駆け寄り、声をかけて倒れていた人物の身体を(おお)っている黒い布をめくってみると、

倒れていたのは十代と思われる若い女性 ――― 髪の長い、華奢(きゃしゃ)な体をした小柄の女の子だった。



布は海水で濡れてしまっているので、もし、まだ 生きているのなら

これ以上 体を冷やさない(ため)に取ってしまったほうが良いのかもしれないが

少女はその布以外は何も身に着けておらず、それに気づいた白夜(ハクヤ)

咄嗟(とっさ)に 黒い布を また彼女の身体(からだ)(かぶ)せた。



少しだけ見てしまった その体には、傷のような物は見当たらなかったが

全身が蒼白くなっており、打撲(だぼく)した(あと)のようなものが 所々(ところどころ)に見えた。



一応、少女の脈を確認してみた所 、彼女がまだ生きていたので

てっきり、水死体だろうと思って悠長(ゆうちょう)にしていた白夜(ハクヤ)

慌てて少女を抱きかかえて波打ち際から移動し、少女を仰向(あおむ)けに寝かせると

思いきって、少女を覆う黒布を()ぎ取った ―――――― 。



少女の(なま)めかしい身体(からだ)(あら)わになったが、一秒の遅れでも命取りになる中、

その身体を女性の身体として眺める気持ちなど白夜(ハクヤ)には無かった。



溺れたのか、あの場で倒れたのか(わか)らなかったが 少女は呼吸をしておらず

白夜(ハクヤ)は父親から教わっていた心肺蘇生法(しんぱいそせいほう)(こころ)みる事にする。



蘇生(そせい)をおこなう相手の胸部(きょうぶ)を手を使って圧迫させるのだが、

あまり力を込め過ぎると少女の華奢で柔らかな体を壊してしまいそうで

滅多に恐怖心を感じない白夜(ハクヤ)でも、それには少しだけ(おのの)き、力 加減に気を遣う。





やがて、白夜(ハクヤ)は少女に口づけをした――― 。



少女の呼吸を回復させる(ため)なのだが、上下する少女の(つや)やかな身体が

まるで(ちぎ)りを()わしているかのような(あや)しさで

惹き込まれて行くかのように、何度も何度も白夜(ハクヤ)は少女に唇を重ねた。

 

 

 

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