「 姫鷹と葵目 」
――― 其の日、年齢の割に発育の良い身体をした花蓮女王の健診をしながら、姫鷹は顔には出さないが " 自分が見たかったのはこれじゃない!! " と心の中で嘆いていた。
「 うん、花蓮様 健康そのものね! ――― もう衣を羽織られて結構ですよぉー 」
「 ……。 」
「 ……。 」
健診中、花蓮女王が一言も発しない事を姫鷹は 内心 好ましく思ってはいなかった。
決して、顔には出さないが・・・―――
( この娘、口 持ってないの? これで女王業 大丈夫なのかしら……ああっ!もう!! 代われるもんなら あたしがっ!! )
「 それに比べて、睡蓮ちゃんは和むわ~♪ ……女の子なのが難点だけど。 」
――― 花蓮女王の健診を終え、姫鷹は医院で 今度は睡蓮の健診を行っている。
医院長である姫鷹が 自ら診るのは、最近では花蓮 と 睡蓮の二人の少女のみで、年齢が近い割に性質が違う二人の少女を彼女は無意識に比べてしまう事が多くなっていた。
――― 因みに、付き添いの秋陽は 待合室で医官達と雑談している。
「 " 比べて " とは……? 」
「 ううん、こっちの話よぉ~? 会話するって大事よねってお話よ! 」
( 会話……大事……。 )――― 姫鷹の言葉に、睡蓮は心の中に白夜の事を想い描いた。
白夜が 夜しか家に居ない為でもあるが、未だに真面に顔を見て会話をしていない。
「 うまく会話が出来なくなった時はどうすれば良いのでしょうか……? 」
「 何?何何何!?やだ!! 何か恋の匂いがするんですけどっ!? ――― 葵目!!葵目! あんたも来なさい!!」
「 えっ!? 何故 葵目さん? 待ってください!衣を……!! 」
睡蓮は自身の衣を整え、少々掻い摘みながら姫鷹と葵目に白夜との事を語り始めた。
・・・・何故、葵目が加わっているのかは不明なままだが。
「 結・婚……?!!! 」
結婚絡みの話だと認識した途端、姫鷹は 軽い目まいに襲われ ――― 自身の机の上に突っ伏した体勢で倒れ込んで使い物にならなくなったので、仕方無く、余り口を開く事が無い葵目が睡蓮と話を続ける事になった。
( 葵目さんは このために呼ばれたのかしら……??? )
「 でも、その方も 貴女をどうするつもりでいらっしゃるんでしょう……? ――― 貴女をお嫁さんにしたいと仰ったのですか? 」
「 ………いえ、そういう事は…聞いておりません。 」
「 私は、彼のほうが 貴女にきちんとお話されるべきだと思いますけどね……? ――― 貴女より 年上なのでしょう? 」
「 いえ、ですから あちらはお話されたのですが私が……! 」
「 では、貴女がどうされたいのか 正直にお話すれば良いのでは……?お話がしづらいのでしたら、お手紙という手もありますよ? 」
――― 葵目は、そう言いながら 穏やかな笑顔を浮かべた。
「 お手紙……? 」
「 睡蓮…さんは、文字の記憶はあるのでしょうか? ――― 少し 待っててください!私の持っている書簡紙を差し上げましょう。 」
そう言い残し、葵目は いそいそと自身の机がある部屋へと紙を取りに向かった。
「 はあ……ごめんなさい、睡蓮ちゃん。花蓮様に続き、あなたまで結婚をチラつかせたから ちょっと堪えちゃったわ 」
姫鷹は復活すると、机に置いてあった水を一口飲んだ。
「 花蓮様……? 」
「 そうよぉ? 花蓮様、今度 お見合いなさるのですって! ――― 若い妻も リエン国も手に入るし、どこの国の男もほっとかないでしょうねぇ。お相手が決まるまでは、これから 宮中は そういう客が増えるわよ? 」
姫鷹の話を聞き、睡蓮は花蓮女王に僅かに親近感を覚えた。
自分の意思とは関係無く、結婚話が浮上して来るのは大変だと身に染みている。
「 蓮 様 みたいな人は そうそう居ないと思うから期待はしないけど、国にも影響して来るだろうから、どうにか マトモな男を選んで欲しいわよね? 」
――― そして、あわよくば 自分が専属医に・・・・と姫鷹は密かに企んでいた。
「 はい……! お好きなのをお選びください。――― 沢山あるので 全部 差し上げても構いませんよ? 」
「 わあ……綺麗ですね! こちらは 花の模様が とても可愛い…!! 」
嬉しそうな表情で葵目が 机いっぱいに広げた 様々な色彩と模様の紙を見て、睡蓮も瞳を輝かせた。 ――― 彼女は " 書簡紙 " という言葉にも聞き覚えがある事に気が付いていた。
「 私は人と話すのが苦手な所があるので、よく お手紙にして相手にお渡しするのです。ですから、いろんな紙を集めるのが趣味になっちゃって……! ――― あ…ごめんなさい! なっておりまして。」
葵目の其の言葉に、睡蓮は姫鷹が葵目を呼んだ理由が解った様な気がして微笑んだ。
本当は、姫鷹が葵目を呼んだ理由は他にあるのだが・・・・
「 睡蓮ちゃんって、文字は書けるの? やだわ、盲点! ――― もしかしたら、あなたの出身国が わかるんじゃない!?」
「 リエン国の文字が分からない時は、宜しければ 私が代筆しましょうか? 」
姫鷹と葵目は睡蓮に筆と紙を渡し、興味津々で彼女が書く文字を見守った。
すると、睡蓮が 取り敢えず書いた " 睡蓮 " という文字は・・・・・
「 書けたわね……!? リエン国の文字が! 」
「 しかも、睡蓮さん 字がお上手……!! 」
リエン国の文字が書けた事に睡蓮自身も驚き、筆を手にしたまま 自分の書いた文字を呆然と見つめ ――― 彼女の心の中は、直ぐに白夜へ何を伝えるかで一杯になっていった。




