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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第二章『 蓮の糸 』
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「 不可解な鏡 」(三)

 

 

「 さてと、俺はそろそろ帰ろうかな ――― 桔梗(ききょう)白夜(ハクヤ)にもよろしく言っといて 」

――― そう言って、東雲(シノノメ)が立ち上がると、桔梗(ききょう)も立ち上がった。


「 私も一緒に帰るわ! 東雲(シノノメ) 近くまで送ってくれる……? 」


「 良いけど……泊まるんじゃなかったの? 」


「 今日はやめとくわ。そういうのお父様が良く思ってないのよ。 睡蓮(スイレン)さんも居るって言ったのだけど…… 」


それも本当の理由ではあるが ――― " ただ単に白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)が二人いる姿を見たくないのかもしれない " と桔梗(ききょう)は感じていた。

特に、白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)の名を呼ぶ姿を見たくない ――― 。

睡蓮(スイレン)に対しては以前よりも彼女に好感が持てていたが、同時に一筋縄ではいかなそうな脅威(きょうい)も感じ始めていた。


「 ああ ――― その件はすまなかったのう、桔梗(ききょう)。家内もおらず娘も持たぬので、つい、白夜(ハクヤ)の男友達と同じように考えておった。お父上にも 申し訳ない事をした。 」


「 いいえ、お気になさらないで秋陽(しゅうよう)様。こちらこそ、お役に立てなくて申し訳ありません。 」


「 お二人とも帰られるのですか…… 」


寂しさも感じてはいるが、他に誰かいれば 白夜(ハクヤ)の事で気が紛れるだろうと考えていた睡蓮(スイレン)は気を落とさずにはいられない。

睡蓮(スイレン)が悲しそうな表情な事に気が付いた東雲(シノノメ)は、彼女に何か声をかけようと思い、言葉を考えながら立ち止まり ――― なかなか その場から動けずにいた。

静かになると、宮中を包む 波の音が 良く聞こえる ――― 。



「 また来るよ?睡蓮(スイレン)


「 はい……お待ちしております 」


「 ――― さっきから言おうと思ってたんだけど、睡蓮(スイレン)


「 ? 」


「 今日は髪型が違うんだね ――― それも 良く似合っているよ! 」


「 あ…ありがとうございます! 」


睡蓮(スイレン)が照れた様に微笑んだので東雲(シノノメ)は安心して、最後の一言を桔梗(ききょう)に聞こえないように睡蓮(スイレン)の耳元で囁いた。


「 先生に聞いたけど、ちゃんと白夜(ハクヤ)と仲直りするんだよ? 」


「 !? 」


――― 今度は困惑の表情を浮かべた睡蓮(スイレン)を見て、以前よりも表情が増えた睡蓮(スイレン)の姿に気付いた東雲(シノノメ)は にっこりと笑うと彼女の頭を撫でて去って行った。

「 二人とも気を付けて帰るのじゃぞ 」秋陽(しゅうよう)がそう声をかけると、東雲(シノノメ)桔梗(ききょう)は軽く頭を下げて玄関を後にする ――― 。



( 仲直りと言われても……別に喧嘩をしている訳では……! )


照れと困惑で顔をふくれっ面にしながら、睡蓮(スイレン)東雲(シノノメ)に撫でられた髪を整えながら居間に戻って行った ――― 。






――― 帰り道、東雲(シノノメ)桔梗(ききょう)は 宮中へ 何か大きな薄い板の様な物が紙に包まれて大量に運びこまれている光景に遭遇し、思わず足を止める。


「 何を運んでいるのかしら? 」

「 さあ…? 何だろうね…… 」


良く見ると、板の様な薄い物以外に 家具の様に大きく形ある物まであり、それら全てを運び屋達が長い列を作って宮中へ持ち運んでいる。


「 あの、これは何を運んでいるんですか? 」

運び屋の一人に東雲(シノノメ)が訊ねてみると、()の男は " 荷物は全て鏡 " だと答えた。


「 えっ!? 鏡…ですか? ――― 全部!? 」


(ハチス) 様から花蓮(カレン)様に変わったから宮中の模様替えなんだってさ 」 ――― 言い終わると、呼び止めた男は王宮へと歩を進めた。




「 一体、どんな部屋を作る気なのかしら……? 」


「 そうだね……。 」


桔梗(ききょう)の言葉に返答しながらも、東雲(シノノメ)は 運ばれて行く鏡を見ながら響き鳴る波の音の中に眉を(ひそ)めて立ち尽くした ―――――― 。




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