「 不可解な鏡 」(二)
( お二人は何を真剣なお顔でお話されているのかしら……? )
睡蓮が 秋陽 と 東雲の長話を気にかけた時と同じ瞬間、桔梗は思いきって睡蓮に話を聞いてみる事にした ――― 。
「 ねぇ、睡蓮さん……あなた 白夜から海での話は聞いたのよね? 」
「 え !? 」
余り会話する事が無い桔梗に話しかけられた事にも多少驚いたが、白夜に助けられた話を聞かれた事にも睡蓮は戸惑いを隠せず、再び 自身の頬を赤く染めて俯いた。
「 桔梗さんもご存じでしたか…… 」
まさか、自分が 白夜に何をされたのかを此処に居る皆や日葵と春光も知っているのでは・・・・と睡蓮の中で 軽く不安が過り、彼女は今度は蒼褪めた。
もし、そうなら穴があったら入りたい ――― と言うより、直ぐに飛び込んで蓋までしたい勢いだ。
「 リエン国の女性への考え方は知ってる……? ――― 誰かに肌を見せる事ね。 」
「 はい ――― 知りませんでしたが聞きました。 」
「 あなたはどうしたいと思ってるの? その…… 白夜との事なんだけど…… 」
訊ねながら、桔梗のほうも目を伏せた。
睡蓮と桔梗の二人は其々 頭の中に 白夜の姿を浮かべていた ――― 。
「 白夜さんには感謝しています。感謝してもしきれないです……! ――― 目覚めた後も名前まで考えて頂いて、今もお世話になっておりますし……あの…でも、婚姻とかそういうのは……桔梗さんもご存じだと思いますが、私、ここに来る前の記憶が無くて……それどころでは無いと言いますか ――― どなたかと一緒になる前に記憶を取り戻さないと…… 」
睡蓮の言葉に 桔梗は少し安心を覚えたが、新たに気になる事がひとつだけ浮かび上がっていた ――― 。
「 あなたの名前…――― 白夜が考えたの? 」
「 はい…! 睡蓮の花のようにと この名前を付けて頂きました。」
「 そう…… 」
睡蓮と言う名は 白夜が名付けたものと初めて知った桔梗 は 睡蓮に顔を向けたまま目だけを伏せた。
" 睡蓮の花のように ――― " 其の言葉に白夜がどの様な意味を含めているのか知る由も無い桔梗には不安だけが押し寄せて来る ――― 。
「 あ…!髪飾りをお返ししなければ! 付けたままでした……!! 」
――― 桔梗の髪飾りを取ろうとした睡蓮の手を桔梗は手を伸ばして止めた。
「 いいのよ、そのまま あなたにお貸しするから使って? 」
「 え? あ…あの……でも…… 」
「 秋陽様も 白夜も几帳面なようで面倒くさがりな所もあるの。―――二人と居ると、そのうち きっと あなたは雑務に追われて忙しくなるわよ?髪をまとめる機会が増えると思うから持っていたほうが良いわ 」
「 それじゃあ……あの、お言葉に甘えてお借りします…! ――― ありがとうございます…! 」
「 私も なるべく顔を出すから、無理はしないでね! 」
――― 睡蓮 と 桔梗は微笑みあった。
睡蓮は桔梗の優しさを素直に受け取り、桔梗も心からの言葉を述べていたが ――― 桔梗が睡蓮に髪飾りを貸したのには もうひとつ理由があった。




