「 不可解な鏡 」(一)
( 出来た……! )
――― 洗濯物を干し終わり、睡蓮は太陽の光で乾いて行く白い布地の洗濯物を暫く見上げていた。
目覚めてから初めて何かをやり遂げた為か、達成感を感じたのだ。
「 おお、二人とも ありがとう!ご苦労さんじゃ! ――― 東雲のお土産があるから飲むと良い 」
「 東雲さん!! 」
「 睡蓮、また会えたね! ――― 桔梗にも会えて嬉しいよ。」
睡蓮と桔梗が邸の中に戻ると、大量の飲み物をお土産に東雲がニコニコと微笑んで座っていた。
「 先生に用があって、ちょっと寄ったんだ。白夜も元気?」
「 は…はい!たぶん ――― きっと!! 」
――― 最早、白夜の名前だけで睡蓮は動揺する様になっていたらしい。
動揺し過ぎて、頬を真紅に染めた彼女は無意識に 東雲の傍からも一歩 後退った。
睡蓮の口から 白夜の事が語られ、桔梗も僅かに動揺をしてしまっている。
桔梗のほうは、顔色が やや蒼白の色を浮かべた。
「 睡蓮、今日はお詫びに いろんな種類の飲み物を持って来たから飲んでみてね 」
「 ありがとうございます! ――― でも、東雲さんのせいでは無いのですから、本当に もう お気になさらないでくださいね……? 」
自分の隣に居た睡蓮に刺さった黒い矢の事について 東雲は今でも引きずっており ――― あれ以来、睡蓮に会う度に謝ったり、お詫びの品を渡したりしている。
今日も此処に来た本当の目的は、黒い矢の事について 秋陽や白夜に伝えたい事があるからだ。
( 東雲さんとは上手くお話できるのに……… )
睡蓮は、ふと、食事をする台の上に置いてある花瓶の花を見つめた ――― 。
「 先生、先日の黒い矢なんですが…――― 」
睡蓮と桔梗が喉を潤している中、東雲と 秋陽は二人から少し離れた場所で花蓮女王の即位式の時に睡蓮に突き刺さった黒い矢の話を始める。
「 は? " 呪術 " とな!? 東雲 頭は確かか……!? 」
「 正気ですよ! あくまで晦冥と言う男が矢を放てるとしたらの可能性の話です! 」
――― 『 呪術 』とは 呪いの事で、神や精霊などの自然的な力や神秘的な力に働きかけて様々な現象を起こさせようとする行為・信仰と考えられている。
呪術師を名乗る者は大半が偽物で、リエン国では 実際は呪術なんてものはこの世には存在しない ――― 只の迷信だと考えている者が多い。
「 まあ、昔の医療には呪術も頻繁に使われておった様じゃが、お馬鹿な行為ばかりで現代では使えぬ治療法ばかりじゃし……今時 農家の者だって雨乞いなど せんじゃろ!? 」
「 いや、してる人達だっていますよ!?医療だって、湯治とか本当っぽい物もあるじゃないですか?葬儀とか…――― 儀式的な物は全て呪術の一種ですよ? 」
「 むむ……然し、何をもって 其の考えに至ったのじゃ? 」
「 ――― あの鏡です。 」
東雲の 其の言葉を聞き、 秋陽は眉間にしわを寄せて黙り込み、漸く彼の話に真面目に耳を傾け始めた ――― 。
秋陽も 矢は勿論の事、睡蓮が持っていた鏡については ずっと疑問に思っていたのだ。
「 葬儀の時に副葬品として 棺に鏡を入れる方がいるんですが、土葬なら問題無いんですが火葬では鏡は溶けるからご遺骨に付着しちゃって厄介な事になるんでお断りする場合が多いんです。」
「 睡蓮が持っていた日葵の鏡は、あれだけ黒煙をあげて白夜も 光昭も火傷を負ったのに、溶ける所か割れてもおらんかったな……」
「 はい、鏡は熱に強いけど 睡蓮が持っていた鏡は綺麗過ぎて変なんです。 」
――― 秋陽と東雲は、それぞれ即位式での事を思い返しながら沈黙した。
「 それで、呪術とな……? 」
「 はい、" まやかし " とでも言うのかな? ――― あの矢には、何か細工がしてあったような気がして……それに、呪術に弓矢や鏡を使った伝承って結構あるじゃないですか? 」
「 睡蓮とお主の話を繋げるなら、晦冥が呪術師か何かと言う事か……? 」
「 そこまでは分かりませんが…――― 呪術師が関係してる可能性はあるのでは無いかと…… 」




