「 稽古場 」
――― 桔梗と睡蓮が洗濯に勤しむ中、白夜は宮廷にある稽古場に来ていた。
蓮 先王の人柄や手腕により、リエン国は異国との交流も盛んで大変上手く行っており、
国内も平和そのものなので医官達同様に武官達も暇を持て余し気味なのだが、情勢はいつ変わるか分からないので殆どの者が 常に心身の鍛練に励んでいる。
白夜の様に 毎日 欠かさない者もいれば、あまりの平和に胡坐をかいて稽古場では殆ど見かけない者まで様々だ。
此の日は、武官達の頭役的な存在 ――― 武官長である大柄で筋肉質な身体を持ち、髭を生やした男性『 銀龍 』と、白夜同様に蓮 先王の遺言状に名を記されていたリエン国の女性としては珍しく髪が短く、細身で凛とした雰囲気を持つ女性『 佳月』も稽古場に来ていた。
蓮 先王が自ら選んだ白夜 と佳月は注目を浴びる事は必至であり、女性である佳月のほうは男性の多い稽古場の中で一際 目立っていた。
「 すごいですね ――― 女性の剣士なんて初めて見ました! 」白夜は佳月の剣技を観察しながら、素直に感心していた。
「 まあ、いない事は無いんだがリエン国では少ないよな。 」
銀龍 も 佳月の腕前が気になる様で、白夜との手合わせを中断して佳月の動きを観察していた。
「 白夜殿、銀龍殿 ――― 後で手合わせをお願いできますか?」
――― そう尋ねながら、二人の許に現れたのは白夜と佳月同様に蓮 先王の遺言状に名を連ねていた『 蒼狼 』。
両耳に洒落た装身具を付けている美男子で、見た目から斜に構えた人物に思われがちなのだが和を重んじる性格で白夜や銀龍とは気が合っている。
白夜と蒼狼 が手合わせを始めると、稽古場中の武官達が 二人と佳月の何方を眺めようかと右往左往した。
「 蓮 様は、何故わざわざ あいつらを補充したんだろうな……? 」
――― そう銀龍に話しかけて来た男の名は「 盈月 」。
無駄な脂肪が一切無い、細身で長身の男で銀龍とは古い付き合いである。
「 さあな? まだ他にもいるぜ。 」
暫く 三人の若者の動きを見守ると、盈月は全く別の話を銀龍に切り出した。
「 ―――…お前、蓮葉とは会えたのか? 」
「 いや、………まあ その程度だったって事だろうな。 」
『 蓮葉 』と云う女性は銀龍の想い人なのだが
数日前 ――― 丁度、蓮 先王が急死した日の辺りに忽然と宮廷から姿を消していた。
銀龍は他の女官達に彼女に何があったのかと尋ね回ったが
皆、口々に " わからない " と " 知らない " を繰り返すばかりで消息不明なままになっている。
銀龍は、ずっと彼女の事を心配し、想いを断ち切れずに過ごしており、どうにかして彼女を探し出したいと考えていた。
何処を如何探すか、方法は未だ思い付いていないが……―――
「 銀龍 殿、次 お願いできますか? 」
「 ああ、いいぜ 」
蒼狼 が銀龍に声をかけると、銀龍は我に返った様子でに剣を抜き、戻って来た白夜と擦れ違った ――― 。




