「 蓮の国の姫君 」( 二 )
花蓮の父である蓮 国王の死は突然だった。
余りにも突然で、王宮に仕える人間だけでなく国中が少なからず動揺していた。
直に接する機会の無かった国民の中にまで泣き崩れる者もいた。
それだけ、蓮王は 多くの民達から愛されていたのだ。
蓮王の盛大な葬儀が終わったその夜、
花蓮姫は自室の寝台の上に座りこみ 静かに泣いていた。
父親だけじゃなく、母親もすでに 此の世にはいない。
まだ幼さが残る少女には、その孤独と 父を継いで一国の主になるという
二つの運命の重圧を受け止める事などできなかった。
――― 本来、リエン国では 王の息子・娘は 十六歳になるまでは、あまり人前に出る事が無く過ごす。
此れは、リエン国 王家の独特の仕来たりで
子供達は十六歳を迎えて、はじめて 国民や他国の王族などにお披露目される。
十六歳を迎えるまでの間は、自身の親である王と王妃と
身の回りの世話をする臣下達と顔を合わせる程度で、基本的に王宮の中に引き籠ったように過ごしている。
兄弟姉妹がいる場合は、母親が同じであれば幼少の時から交流する事もあるが
そうじゃない場合は、十六歳になるまでは 殆ど顔を合わせる事はない。
此れは、まだ幼いうちから跡目争いや 敵国などによって
大事な次期国王候補者達が暗殺されたりしない為の対策でもあった。
蓮王は側室を持たなかったので、此度は母親達とその子供達による醜い 後継者争いは避けられそうだが
花蓮姫は、まだ十五歳になったばかりだった。
蓮の一人娘なので、次の国王には花蓮姫しかいないのだが
十六歳になる際の顔見世・・・簡単に言えば ” 御披露目の儀式 ”をおこなっていない者が
王位を継承した事例はこれまでに無かった。
その為、花蓮姫は まだ 王位を継ぐのに相応しくないと云う意見も少なからずあった。
事実、花蓮姫には 国王に必要な知識や作法など 全て 欠けている状態である。
然し、一年近くも 国王不在にする事もできない。
そんな事をすれば、直ぐにどこかの国が攻め込んで来るだろう。
例え、十五の少女でも 誰もいないよりかは 幾分かマシなのだ。