「 蓮の台 - 女王 」(六)
鐘の音から しばらくして、花茎通りにいる人々は 武官 や 文官達の誘導で
道の左右に別れ、綺麗に整列して膝まづいた。
人々の間間には武官が立っており、周囲には騎馬隊の姿もあった。
秋陽の天幕から離れた場所ではあるが 白夜と紅炎も花茎通りに姿を現していた ――― 。
「 桔ちゃん、まだ 傘 差してんのかい…!? 」と、日葵が呆れ気味に桔梗に声を掛けるが
「 当たり前でしょ?花蓮様が近くにいらっしゃるまでは閉じないわよ 」と、桔梗は自身の信念を曲げるつもりは無い。
「 まあ、おかげで あたしも影に居られるから良いけどね♪ 」
「 ああ!ほら 日葵、桔梗さん 先頭が見えて来たよ 」
――― 春光の言葉と同時に大通りで歓声があがった。
遠くに花蓮女王の輿の行列の先頭部分が姿を現し、一気に大通りの空気が変わる。
宮廷の音楽家達による華やかで心地良い音楽が 道中に鳴り響いた ――― 。
其の騒ぎは、秋陽の天幕にも聞こえており 秋陽と東雲が顔を見合わせる。
結局、睡蓮と東雲は 秋陽と一緒に天幕に残る事にしたのだ。
「 どうやら、いらっしゃったようじゃな。」
「 ですね。意外と早かったな。」
秋陽と東雲、そして睡蓮も天幕の入り口部分に集まり、膝まづいた。
近くに居た光昭が 三人に目配りしつつ、細心の注意を払う。
因みに、光昭 は 桔梗の姿も 彼女の日傘のおかげで ちゃんと捉えている。
「 睡蓮、花蓮様が近くを通る時は こうやって頭を下げるんだよ? 」
「 はい! 」 ――― 東雲の手本通りに睡蓮は頭を下げた。
頭を下げる事に抵抗は無かったが、どうも しっくり来ない。
「 頭を下げたままだと花蓮様のお姿を見られないですよね……? 」
「 そうだよね! ――― 良いとこ気づくね、睡蓮 」
睡蓮の言葉が自身の笑いの壺に入った様で、#東雲__シノノメ__#の肩の震えは なかなか治まらない。
「 昔から世の中は矛盾だらけなのじゃよ…… 」と、秋陽も しみじみとした表情で笑みを浮かべた。
花蓮女王の乗る輿は、たくさんの花や宝石、金細工などで装飾された女性らしい作りをしており、
遠くに見えただけで華やかな印象をもたらしていて女性達は息を呑むように その光景を見つめた ――― 。
女王は、蓮の花の形のような台座に腰かけており
黒い艶やかな衣装に身を包み、両手の爪は華やかに装飾され、太ももの辺りから足の先まで露出させている両足が男達の目を虜にしていた。
遠くに見えた花蓮女王の 其の衣を見て、桔梗は少しだけ落胆していた。
本人が選んだのでは無いのかもしれないが、女王になった上に 初めて民の前に姿を見せるという
こんな大事な祝いの式に、高貴な印象はあるが重たげな黒の衣を着る花蓮女王の感性が 理解できなかったのだ。
「 白や赤や桃色のような華やかな衣装を期待していたから、なんだか残念だわ…… 」
「 言われてみれば、おめでたい日で まだお若いのに暗い感じもするねぇ。
妙に感じるのは、蓮 様は 白を好まれていたからかねぇ? 」
「 喪に服されているのかもしれないよ? 」
春光の言葉に 日葵と桔梗は " そうかもしれない " と納得した。
そういう理由ならば、重たげな印象の黒色も 急に好印象に思えてくるから不思議なものだ。
桔梗と日葵と春光の目前に花蓮女王を乗せた輿の行列が迫り、
天幕に居る睡蓮達や 周辺に待機している光昭なども含めて、其の場に居る全員が頭を低くし始めた。
段々と大きくなる音楽の音や、馬の足音の中で
睡蓮は瞳を閉じて、無心で花蓮女王が通り過ぎて行くのを待っていた。
途中、頭から首にかけての あの痣が 少しだけ疼くのを感じた――― 。
「 ちょっと待ってもらおうか!! 花蓮姫!!! 」
「 !!? 」
――― 突然、響き渡った 勇ましい女の叫び声に、人々は思わず 一斉に 頭をあげた。




