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水鏡に咲く白き花  作者: 水城ゆま
第一章 『 一蓮托生 』
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「 蓮の台」(四)

 

「 ――― はて? (ハチス) 様の側近には、()のような名の者はいなかったような気がするが……? 」

 

" 晦冥(カイメイ) " に 対する 秋陽(しゅうよう)の素朴な疑問に春光(しゅんこう)も同意した。

――― 武官(ぶかん)の男は、詳しい事は何も知らないらしい。



「 詳しい事は自分もわからんのですけど、色々と代替わりがあったようですよ?

  自分も、つい最近まで晦冥(カイメイ) 様のような いろんな意味で目立つ方が

  宮廷にいらっしゃったなんて、知りもしませんでした。 」



「 その人は 何故、睡蓮(スイレン)さんを見ていたのだろうね? 」と、全員が疑問に思っていた事を、誰よりも早く 春光(しゅんこう)が口にした。


「 さあ…? 自分には見当もつきませんが、あの方が興味を持たれる位だからお嬢さんには官人の素質がある……とか? 」


武官の男の ()の言葉に日葵(ひまり)は呆れたように溜息を吐くと  

「 馬鹿だねぇ、あんた。そこは " 睡蓮(スイレン)が可愛いから " だろう!? ――― その " 何とか様 " は 男なんだろ? だったら、答えはひとつだろっ!」と得意げに言い放った。

――― 日葵(ひまり)は、何でも 食べ物と恋の話に()り替えてしまう癖がある。



「 あっ!そっか…そうですね!! 確かに、その可能性が 一番 高いかも!?

  自分も、こんな可愛らしい(かた)は初めて目にしました! ―――


 


 ・・・・・・あ、奥さんも素敵ですよ? 」



「 ちょっと!? なんか、取ってつけたような言い方だね!?

  あんた差別主義者なのかい!? 太ってるからって、なめんじゃないよ!? 」


「 どういう事なんだ? 君は僕の妻を侮辱する気なのか!? 」


「 いやいや、自分はそんなつもりは……!――― も…申し訳ありませんっ!!」


(つい)、一秒前まで温厚そうだった春光(しゅんこう)の物凄い(いか)りを見て、武官の男は思わず土下座する勢いで謝った。






――― 日葵(ひまり)と武官の男が自分の事を()めてくれたのは嬉しかったが、

睡蓮(スイレン)晦冥(カイメイ)と云う男が、睡蓮(自分)に関心があったとは如何(どう)しても思えなかった。



( あの 突き刺さるような視線 ――― 。

  あんな瞳をする(かた)なんて、目覚めてから他に見た事が無いわ……


  女王様の側近…?

  どうして、そのような(かた)が あんな風に 私の事を見ていたの…―――!? )



――― と、其処(そこ)東雲(シノノメ)桔梗(ききょう)が飲み物を持って帰って来た。



「 ただいま~ 遅くなってごめん! もう、すごい人でさ……

  ……あれ? 皆 どうしたの? 睡蓮(スイレン)に何か……あ、お客さんか。」


東雲(シノノメ)は決して、武官の男の事を殺してしまおうなどと 考えた訳では無いが、

職業柄、" この大きさの男を(ひつぎ)に入れるのは大変そうだな " と武官の男を見て 率直に思っていた。

桔梗(ききょう)のほうは 結局、日傘を手放さなかったので 一瓶(ひとつ)(自分の分)しか手に持っていない。




「 なんと、美しい……!! 」



武官の男は桔梗(ききょう)を見るなり ――― 突然 椅子から立ち上がり、口を開けたまま彼女の花の様な美貌に見惚(みと)れた。

桔梗(ききょう)を前にした男が()の様な状態に(おちい)る事は珍しい事では無く、日常茶飯事だ。



「 初めまして! ――― 自分の名は光昭(こうしょう) と 言います!! 」


光昭(こうしょう)が 大きな身体でズカズカと桔梗(ききょう)の前まで歩いて来て、

聞いてもいない名前を大声で名乗ったので、東雲(シノノメ)が さり気無く ――― 桔梗(ききょう)の前に出て、得意のニコニコとした笑顔で光昭(こうしょう)に挨拶した。


「 はじめまして ――― 光昭(こうしょう)、俺は東雲(シノノメ)です。 」


「 お…おう!?よろしく頼む! ――― それで、そちらの女性のお名前は…!? 」




「 ……桔梗(ききょう)と申します。」


「 おお ――― !お名前も なんとお美しい…! 」



桔梗(ききょう)は 嫌々 答えたのだが、舞い上がっている光昭(こうしょう)が 彼女の()の様子に 気づく事は無く、すぐさま 質問攻めを開始した。

桔梗(ききょう)が 質問に真面(まとも)に答える訳も無く、合間合間で光昭(こうしょう)を止めようと 東雲(シノノメ)日葵(ひまり)も割って入ったが ――― 光昭(こうしょう)の勢いは(とど)まる事を知らなかった。




「 よ~し!解散じゃ!!

  睡蓮(スイレン)は まだ本調子じゃ無いんじゃ、早く(わし)に容体を確認させるんじゃ!

  光昭(こうしょう)とやら、世話になったな ――― お主も仕事に戻って良いぞ? 」



見兼ねた秋陽(しゅうよう)が、有無を言わせず光昭(こうしょう)を天幕の外に押し出した。

勤務中だった事を(ようや)く思い出し、光昭(こうしょう)は渋々と名残惜しそうに持ち場に戻って行った ――― 。





「 あの…秋陽(しゅうよう)様、ありがとうございます。 」


「 ん?何の事かの 桔梗(ききょう)? ――― さて、睡蓮(スイレン)! お主は 今度は何があったんじゃ? 」



何も無かった様な秋陽(しゅうよう)の態度に 日葵(ひまり)春光(しゅんこう)は顔を見合わせて微笑み、

東雲(シノノメ)桔梗(ききょう)も嬉しそうな笑みを浮かべた。

―――睡蓮(スイレン)も、感動で瞳を輝かせている。



「 お見事ですね、先生……! 」


睡蓮(スイレン)、お主まで、そのような事を……! ―――…まあな、あんな ひよっ子 朝飯前じゃよ。 」



秋陽(しゅうよう) が 得意気な笑顔を見せたので睡蓮(スイレン)も微笑んだ。

睡蓮(スイレン)は、一瞬 " 今と似たような状況 " が以前にもあったような気がした。

秋陽(しゅうよう)と重なったのは誰なのか・・・・―――。







「 そうじゃ、桔梗(ききょう)。後で お主に相談したい事があるんじゃが良いかのう? 」


「 は…はい、では、後ほど……? 」



桔梗(ききょう)は不思議そうな顔で秋陽(しゅうよう)に頭を下げて、日葵(ひまり)春光(しゅんこう)がいるほうへ駆け寄って行った ――― 。




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