「 蓮の台 」(二)
―――― 花蓮姫の即位式 ――――
本日のリエン国は、蓮 王の葬儀式ぶりに騒めき立っている。
中でも、王都は 人がごった返しており、昨日、 睡蓮や日葵が掃除した花茎通りには
沢山の人間が集まっており、客入りを見越して出店なども並んでいた。
うろついてる 殆どの人間が花蓮姫を乗せた輿が通るのを今か今かと待ち侘びており、
相変わらず 様々な意見はあるものの、殆どの者達が 新しい王の姿 ――――
名君・蓮 王 の 愛娘 の 顔を一目 見てみたいと思っていた。
此の人だかりの中で花蓮姫の即位式を無事に終わらせる為に
白夜達 武官を始めとする臣下達が総出で 護衛と警護に当たる事になっており、
秋陽達の天幕の周辺にも何名かの武官の姿が在った。
平和なリエン国と謂えども、たった一人だけの王位継承者が
命を狙ってくれと言わんばかりの輿に乗って、王都の中心部を通過するなど
中止の声は 当然、上がっていたが、顔見世をおこなっていない花蓮姫が
民衆の前に出ないまま即位すると言う事も、仕来たりを重んじるが故に難しいものがあった。
結局、即位式さえ終えれば、暫くの間は女王が民の前に姿を晒す機会は無いので
此の一回だけ乗り切れれば良いだろうと言う意見に纏まり、今日を迎えている。
其の為、宮廷に仕えている者達は 全員が神経を尖らせていた。
――― そんな中、睡蓮は 初めて見る(?)人の多さに圧倒されていた。
「 すごい 人ですね……! 昨日の大通りの雰囲気とは全然違います! 」
「 白ちゃんは、この辺にはいないみたいだねぇ? 」
「 おや?東雲くんが来たようだよ。」と、東雲の姿を 逸早く見つけた男の名は『 春光 』。
日葵の夫で、日葵とは大恋愛の末に一緒になり、今では " 愛妻家 " と呼ばれる事が板についている
物腰柔らかく、線の細い 何処から如何見ても美青年と呼ぶに相応しい男だ。
今日は、即位式で 鍵師の仕事が休みなので、秋陽の手伝いに来ている。
「 日葵、春光 さん、お待たせしました。 ――― 睡蓮も! また会えたね。 」
「 はい…!おはようございます、東雲さん。」
「 うん、おはよう! ――― あれ?先生は……? 」
「 包帯と傷薬を忘れたそうで 取りに帰られました。」
「 ……なんで、そんな 一番 必要そうな物を忘れたんだろうね? 」
――― さすが先生、うっかり度が違うな・・・と、真顔で思いながら、東雲はそのまま 睡蓮達の輪の中に加わった。
「 それにしても、秋陽先生 遅いね? ――― 日葵、僕が様子を見てくるよ。」
「 うん、お願い! 」
春光 は、爽やかに笑うと診療所へと向かって軽やかに走って行った ―――。
日葵も、そんな彼の姿を 恋する少女のような眼差しで見送る ――― ・・・・この二人は毎度こんな感じなのだ。
入れ替わるように、日傘を差した桔梗が天幕に訪れる。
( あ…!桔梗さん ) ――― 桔梗との再会に睡蓮は心が弾んだ。
今日も彼女は美しく、その立ち姿に憧れずにはいられない。
東雲も、安心した様に微笑みながら桔梗の傍に駆け寄った。
「 おはよう、桔梗 ――― ちゃんと 来たんだね。 」
「 ――― 約束を破るのは嫌いなの。 」
「 君のその律儀な所が、俺も白夜も 昔から好きだよ。 」
にこやかに笑う東雲に、桔梗は照れくさそうにしながら
少し考えたかのような間を置き、睡蓮にも挨拶した。
「 ……おはよう。」
「 あ…はい! おはようございます、桔梗さん 」
――― それ以上、二人の会話が続く事は無かったが 睡蓮は満足していた。
「 桔ちゃん……、あんた こんな人が うようよしてる場所に、そんな大きな傘なんて広げて…… 」
「 だって、焼けたくないもの。」
「 そういや、あんた達のお母さん達は来てるの? 挨拶に行かなきゃね。 」
「 ウチは二人とも向こうのほうにいるわ。
わざわざ 行かなくても、会ったらで良いわよ。 」
「 俺の所は仕事が終わったら来るかも? ――― 今日も一件、葬儀が入ってるんだ。」
日葵達の何気ない日常の会話を見聞きしながら、睡蓮は自分の家族の事を考えていた。
( 当たり前なのだろうけど、皆さん ご家族がいらっしゃるのね……。
私の家族はどうしているのだろう…? 私の事を探しているのかしら……? )
考えながら、睡蓮は なんとなく、自分の家族を探す様な気持ちで周囲を見渡した。
見渡す限り 人の海だったが、見覚えのある人物は見当たらない。
―――――― と、そう思った矢先に 一人の男が自分を見ている事に気づく。




