九月十五日
「いたたたた」
彼女が悲鳴を上げる。彼女は血管が細いらしく点滴を打つ際にいつも苦労していた。
看護婦さんではどうにもならず、わざわざ麻酔科の先生を呼んで針を通して貰う事もしばしばあった。
そんな事が続き主治医の先生がある提案をしてきた。
「腕にポートを通し、点滴を簡単にする方法がある」
説明を受けるとポートとは細いチューブの様なもので、それを腕から通すことにより点滴の針を簡単に通す事が出来るらしい。
「簡単に出来るから是非やって貰いたい」
主治医にそう勧められ、病院の隣にある付属病院に足を運んだ。
しかし、そこで聞く内容は簡単とはとても思えない内容だった。
「血管から管を通し心臓の辺りまで進めます、腕が良いですか?胸からが良いですか?」
手術の覚悟をしていなかった僕も彼女も青ざめた。
「そんなの聞いてない、簡単に通せるって言うから来たのに」
こんな時、一緒に居るものとしては彼女を宥め、医者の言うことを聞かせる役割なのだろうが僕にはとても手術を勧められなかった。
心臓、と聞いた瞬間に何とも言えない恐怖が襲ってきたのだ。
手術には同意が必要であり、その同意を受けられなければ先生も何も出来ない……結局、その日は手術をせずに家に帰る事となった。




