一月十日
いつもの様に病院に行き病室に入ろうとすると主治医の先生に呼び止められた。どうやら術後の後の部屋から普通の病室に移動になったそうだ。
だが話はそれだけで無いらしく小部屋に通された。
「前にも話した通り、このままでは二ヶ月はもたないと思います。本人と色々と話すべきだと思います、お墓の事や死んだ後の事を……もうそういう時期だと思います」
僕は何も言えなかった、言いたい事は幾らでもあるのに言葉が出なかった。
「今の医学では意識は戻らなくとも命を留めて置くだけの事は可能です、だがそれが生きてると言えるかどうかは……もしもの場合、治療を中断させても構わないと了承を頂けませんか?」
「いや……です。彼女を助けて下さい」
僕は声を絞り出した。
「きっと本人も辛いと思いますよ、意識が無くずっと寝たままなのは」
「それでも……嫌です、彼女を殺さないでください」
僕は頑として首を縦には振らなかった、どんな状況になろうとも彼女を死なせる選択は出来なかった。
結局話は平行線のまま僕と先生は部屋を出て彼女の病室に向かった。
「おはよう、気分はどう?」
「もう大分良くなったよ、何とか歩けるし」
彼女は昨日までの管は取られ動きやすそうにベットの上で半身を起こしテレビを観ていた。
「それは何よりです、所でちょっとよろしいですか?」
先生が彼女に話しかける、内容はさっき僕に言ったことだ。僕がうんと言わないので本人に了承を取るつもりなのだろう。
「でも最後までちゃんと治療はしてくれるんですよね?」
「ええ、それは勿論」
「わかりました、それで構いません」
彼女は延命治療をしないと先生に返答してしまった。
「何でそんな事言うんだよ……」
僕は前も見れないほどに涙を流しながら話しかけた。
「だって仕方ないじゃん……」
彼女の判断に僕は何も言えずにただただ泣き続けた。
「病院で泣くな、なんか変なの寄って来そうだから」
彼女が何を言おうとも僕の涙は止まらなかった、彼女の死をリアルに想像してしまい言い知れぬ恐怖に包み込まれたままでいた。
「心配すんな。もし死んだらアンタの後ろにいてずっと見守って居てあげるから」
そんな話なんか聞きたくない。僕は後ろで見守って欲しくなんかない、隣で笑っていて欲しいんだ…だけど僕の声は嗚咽となって全て消えた。
十分程経過し、やっと喋れる様になり僕は小指を彼女の方に差し出した。
「約束……」
「うん」
彼女が小指を絡めてきた。
「ゆびきりげんまん、もし死んだら僕も追いかける……指切った」
彼女は少し驚いた表情を浮かべたが、僅かに頷いてくれた。
「もしもの時は必ず追いかけるから……約束」
僕は本心では今死んでしまいたかった。彼女の死を見る位なら先に死んで楽になりたかった。だけどまだ望みが無くなった訳じゃない。
まだ……死ねないんだ。




