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十二月一日
「寒くなってきたね」
病院の帰り道、新しく買ったコートのポケットに手を突っ込みながら彼女が話しかけてきた。
「そうだね、もう十二月だもんね。でも雪が降らないだけマシかな」
この辺では滅多に雪は降らない。振っても薄く積もる程度、やっと雪球を作れるくらいしか積もらない。
「私は雪降ってほしいな、あまり見たこと無いから」
彼女は良くその言葉を使う。雪をあまり知らないから雪で遊んでみたいと。
「そっか、確か去年の今頃は……」
去年の十二月、僕は母親の病院に呼び出され長野に帰っていた。その時大雪が降り電車も何もが止まってしまい彼女の所に帰ってくる事も出来なかったのだ」
「雪国で雪に困ってる人には悪いと思うけどね、でもやっぱり雪降ってほしいな」
長野でも北海道でも、あまり雪に対して良い思い出の無い僕だったが敢えて彼女の意見に乗ってあげた。
「体調が良くなったら長野行こう、そしたら嫌になるほど遊べるよ」
「うん」
彼女は楽しそうに目を細めた、いつか雪で遊べる日を思い浮かべて。




