十一月七日
「ただいま……大丈夫?」
北海道から帰ってきた僕を迎えてくれたのは寝たままの彼女だった。
「うん、大丈夫。だけどちょっとしんどいだけ」
この一週間程でかなり毛も抜けてしまっているようだ、心なしか顔色も悪い気がする。
布団の上で転がるだけの彼女を見て、何かしてあげたいが何も出来る事が無いジレンマに襲われた。
「テレビも……ゲームもしてないの?」
普段なら寝転がったままテレビを観るかゲームをするかしている彼女がそれすらもしていない、本当にかなり具合が悪いようだ。
「食欲はある?北海道のお土産あるけど食べれる?」
「ありがと、後で貰うね」
いつもの彼女と全然違うリアクションをされ。不安に押し潰されそうになる。
僕は黙って寝ている彼女の背中にピタリと張り付き、静かにしている事しか出来なかった。
「お母さんの事ごめんね、私も行きたかったんだけど」
「大丈夫だよ、その気持ちだけで」
ここまで具合が悪くなっているのなら、やはり無理に行くべきではなかった。今回留守番してもらって正解だった。
「私ね、お母さんにちゃんと謝らなきゃいけないんだ……ちゃんとお墓に行って手を合わせる。だからそれまでは絶対に死ねないんだ」
謝るというのは恐らく僕が実家を出て神戸に住みだした事を言いたいのだろう。僕が家を出た結果、母は一人で暮らす事になり心労が祟り、病気の引き金になったのかもしれない……彼女はそう考えているのだ。
「うん、病気治したら一緒に北海道も行こうね」
謝るなんてどうでも良い、ただ彼女が絶対に死なないと言ってくれた事が嬉しかった。僕は彼女の背中に顔を埋め眠りに付いた。




