十一月二日
「ただいま、具合は平気?」
僕は神戸に帰るなり、開口一番帰ってきた挨拶と彼女の身を案じる言葉が同時に出てきた
「おかえり、少しゆっくりしてくれば良かったのに」
迎えてくれたのは何時もと変わらない彼女の姿だった。長野にいる最中も電話やメールで連絡は取っていたが彼女の姿を見るまで不安で仕方が無かった僕はホッと胸を撫で下ろす。
「病院のある火曜までに戻れば良いとは思ってたんだけどね、向こうに居てもする事ないから」
そう言いながら彼女にお土産を渡す。長野に帰った時は毎回買って帰ってくる信玄餅だ。彼女は嬉しそうにそれを受け取ると、早速きな粉に黒蜜をかけた。
「ひとまず長野でやる事はやってきた、後は北海道に行って母さんを墓に入れてくるよ。火曜の病院を終わらせて水曜に飛行機で行くつもり」
母のお骨は隣の部屋に置いてある、きっと彼女も思う所はあるだろう。骨は隣に置いてあるとだけ伝えた。
「飛行機の予約しなきゃね」
「神戸空港近いし病院の日にやってきちゃうよ、点滴の時にでも」
彼女は頷き再び信玄餅を頬張った。
「ちょっと疲れちゃった、眠らせてね」
そう言うと僕は布団で丸くなった、たった数日だというのに長い間離れていた気がする。僕はその日久しぶりの安眠を取る事ができた。




