十月三十日
昼になり昨日と同じ母が安置された場所で佇んでいると携帯が震えた。
「おう、今病院についたぞ」
「解った、入り口に行くよ」
携帯の相手は昨日電話した幼馴染だ。母が死んだ事を伝えると自分も出席すると言ってくれたのだ。
入り口に出て辺りを見回すとスーツ姿の二人組みがこちらに近付いて来た。
「久しぶり、わざわざ来てくれてありがと」
「本当に久しぶりだな、話したい事は色々あるけど取り敢えずはお悔やみ申し上げます」
幼馴染が頭を軽く下げると、その後ろからもう一人の男が顔を出した。
「よう、久しぶり……太ったな」
「久しぶり、お前まで来てくれるとは思って無かったよ。ありがと」
いきなり失礼な事を言ったのも高校の頃からの同級生で当時毎日のように遊んでいたうちの一人だ、幼馴染が声を掛けてくれたらしい。
「もう直ぐ車が来て火葬場まで送ってくれるらしい、後ろから付いてきてくれ」
「解った、じゃあ車の中で待機しとくよ」
僕は元の部屋に戻り程なくすると奥の扉が開き、おじさんが二人部屋に入り母を棺桶に入れ始めた。
「では、これより火葬場までお連れ致します、お忘れ物は御座いませんか?」
僕は大丈夫ですと応え頭を下げた、数名の看護婦さんと医者に見送られながら霊柩車に乗り込む。隣には棺桶に入ったままの母。ふっとため息を付くと車が静かに走り出した。
………
………
一時間ほど走っただろうか、山奥の火葬場に到着し中の管理人のような人に軽い説明を受けた。
「では今より大体三時間程かけて焼かせて頂きます。その際にお線香は切らさずにしてあげてください。待合室はあちらになります」
こんな状況じゃなければ避暑地に遊びにでも来たかの様な感じだが、隣では母が焼かれている最中。とても話は弾まない。
だがそれでも僕は純粋に嬉しかった。母が死んだと言うのに不謹慎かもしれないが、十年以上も何の音沙汰も無い人間が急に帰ってきて、母が死んだ事を伝えると迷う事無く集まってくれた二人の友人に感謝以上の感情を覚えていた。
「二人とも、ほんとにありがとな。ちょっと愚痴らせてくれ」
僕は母の死と、そして彼女が癌で苦しんでいる事を二人に話した。この二人に弱い所など見せたくはなかったが自然と涙もこぼれて来た。
二人とも黙って僕の話を聞き、何かあったらいつでも頼れと言ってくれた。
そして母は白い煙となって空に登っていった。




