十月二十九日
長野に到着し出迎えてくれたのは変わり果てた姿の母だった。
「来て下さったんですね、神戸の方も大変で遠いので無理なのかと思っていました」
病院に到着し、母の名を告げると霊安室に案内され母との対面が終わり看護婦さんが部屋に入ってきて僕に話しかけてきた。
だが僕は看護婦さんの話は耳に入っているが何の反応もせずに母の姿を見つめていた。
不思議とそんなに悲しくは無い。勿論何の感情も沸かないとまでは行かないが、数年前倒れたときに覚悟はしていたことだ。そこまで取り乱す事でもない。
それに薄情な言い方かもしれないが親が先に逝くのは自然の摂理、僕は心の中で母に語りかけた。
「十分好き勝手に生きたんだ、悔いはないだろ。最低限の事はしてやるさ、安心してくれ」
僕は目を伏せ、看護婦さんの方に向き直り頭を下げた。
「長い間母の面倒を診て頂いて有難う御座いました」
「いえ、この度はお悔やみ申し上げます……それでこの後はどうしましょう。手続きは済んでますか?」
「はい、ここに来る前に市役所の人とも話してきました」
母は生活保護を受けており、亡くなった場合は市から数万の援助を受け火葬することが出来る。
「そうですか、では日程は?」
「明日行う予定です、それまでよろしくお願いします」
僕はもう一度頭を下げて部屋を出た。親が死んでなんと淡々と物事を片付ける人なんだと看護婦さんには思われたかもしれないがやることはいくらでもある。火葬の手続きと準備、近しい人への連絡、市役所への報告など……一刻も早く終わらせ早く帰らなければいけないのだ。
………
………
「ふう、後は明日を待つだけでいいかな」
日も暮れて部屋で座り込む、前日は高速バスで神戸から長野まで揺られ、次の日は一日中歩き回り流石に体力が無くなった。
ボーっと部屋を見回すと一つの名刺が目に入った、小学校の頃から仲良くしていた友人の物だ。僕が神戸に行ってから全く連絡を取っていない……軽く十年は経っている。
「話してみるか」
僕は幼馴染の顔を思い浮かべながら名刺の番号を携帯に打ち込んだ。




