十月二十八日
仕事が終わった帰り道、携帯に見慣れぬ番号の着信が入っていた事に気が付いた。嫌な予感がしつつもその番号に掛けなおしてみると母が入院している病院からだった。
内容は母が死んだことを告げる電話だった。母はくも膜下出血を患っており数年前に意識不明の重体になり植物人間となり入院していたのだ。僕は家に帰りその事を端的に彼女に伝えた。
「母さん死んじゃったよ」
「嘘でしょ?」
彼女と母は直接の面識は無いが、電話で何度かやり取りしていた。母が倒れたとき必ず一度お見舞いに行かなきゃならないと言ってはいたが、長時間の移動は彼女自身にも負担が掛かるためその期を逸していた。
「すぐに準備しなきゃね、私も行きたいけどこんな身体じゃ足手まといにしかならないから……」
「むしろこんな状況で家を空けられないよ、一人じゃ病院もいけないでしょ」
今彼女と住んでいるのは神戸、母が亡くなった病院は長野、そして墓は北海道にある。とてもすぐに行って帰っては不可能な距離だ。
「行ってあげて、私は大丈夫だから。
彼女に強く説得され僕は一度家に帰る事にした。
「なるべく早く戻ってくるよ、何か有ったら直ぐに電話してね」




