雨の色彩

雨が長く続くなら花を探しにお出でなさい

花弁（はなびら）の滴（しずく）を御覧なさい

雨粒に色彩（いろ）が溶けています

菖蒲（あやめ）　躑躅（つつじ）　八重桜（やえざくら）

次第に澄んでゆくでしょう

細かな脈の網模様

色彩は僅かに残るのみ

終には其れも滴が吸って

花弁は手を切るほどに透明です

色彩をすっかり手放すと

花はやおら散りゆきます

地面に割れてさりん、といいます

土に浸み入る霧雨よりもうんと幽かな音なのです

扨（さて）其れなら

色彩を含んだ雨垂れは？

色彩を含んだ雨垂れは

地面へ落ちてぴたん、といいます

滴と滴は一緒になって

けれども色彩は交じり合わずに

つうっと道を渡ってゆきます

石の面（おもて）を伝っていって

川に細く注し入ります

揺らめきながら下流（した）へ流れて

まるい海に辿り着きます

銀の引き汐に連れられて

遥かな沖へ滑りゆきます

色彩は小さな光と分かれて

南を向いてそよ吹きます

海はようよう浅くなり

真珠の砂に宝石の波

転がる色彩は珊瑚の窪みに落ち着いて

睡たい目をした熱帯魚を

花弁のように染めるのです