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少し寒さが和らいだ頃、シャーロットはエドワードど共にエアハート子爵家を訪れていた。

アベルとの約束の研究を見せてもらうためだ。

アベルは

「よくきたね!レディ シャーロット」

「あの舞踏会以来、どこの夜会でもお会いしないので、本当に相手を探すおつもりがないのだと実感しましたわ」

くすくすとシャーロットは笑った。

「アベル、私も紹介をしてくれ」

玄関に登場したのは、アベルそっくりの顔。

「あら?双子だったの?」

「弟のアランです」

アベルが紹介をすると、

「アベルから、貴女の事を聞いて一度お会いしたいとおもっていました」

と手の甲にキスをした。

「はじめましてアラン様、あなたも研究を?」

「ええ、二人で楽しんでいます」

にっこりと笑いかけた。

こちらへ、とエアハート家の庭にでると、

「見ててよ?」

とアベルが楽しそうに、手にもった鳥のような形の物をカタカタとネジをまき、手を離すとそれはシャーロットの目の前をゆっくりと空を飛び、アランのいる方に飛んで行き落ちた。

「まぁー」

シャーロットは、キラキラとした瞳でそれを見つめた。

「すごいわ!」

とアベルを見た。

「ありがとう、でもこれを飛び続けるように作る方法も、人が乗れるにはどうすればいいか、まったく行き詰まってるんだ」

「きっと、いつか見つかるわ!諦めなければ…!」


「アベル!アラン!」

「「わっ!」」

と、二人は飛び上がった。

「まあまあ、ごめんなさいね」

とシャーロットとエドワードに夫人は頭を下げた。

「ちゃんとしたご令嬢を黙って招待するなんて!」

ぷりぷりと怒る夫人は、

「えっと、俺らがちゃんともてなしをと…」

「貴方たちにご令嬢をもてなすなんて不可能です!」

夫人のキッパリとした口調にシャーロットは目を丸くした。

「わたくしが来ることをおっしゃってなかったの?」

アベルに問うと

「飛行機を見せるのだし、いいかと思って」

「アベル様、わたくしが訪問することを女主人である子爵夫人に伝えてないなんて…!」

唖然とした。

「失礼いたしました。申し訳ございませんわ、わたくしは今日は失礼します。また後日正式に訪問させて頂きますわ」

と踵をかえそうとすると

「待って、そうではないの。悪いのはこの、馬鹿息子で、今からちゃんとおもてなしをさせてちょうだいね?」

夫人はもう、シャーロットに申し訳なさそうにしているのでエドワードを見上げると

「子爵夫人のもてなしを受けようか?シャーロット」

とにっこり笑った。

シャーロットは応接間に通され、上品な調度類のソファにすわり、完璧な淹れかたのお茶をいただいた。

そうか、ここはシエラ・アンブローズ侯爵夫人の実家だった。

「レディ シャーロットは本当に美しいわね、アベルから聞いていた通りだわ」

「シエラ様のお母様に言われるなんて、お恥ずかしいです」

「私は、お世辞は言いませんの。貴女はしっかりと自分を持ってたしなみを身につけたレディよ。姿形はもちろんだけど、それだけで美しくはならないわ。仕草や知性、貴族としての自覚。すべてが貴女を美しく彩っているわ。それが美しいレディだと私は思うのよ?」

暖かい言葉にシャーロットはうれしくなった。

「ありがとうございます…」


エドワードはアベルたちと話している。もしかするとアーヴィンの事かも知れない。


すっかり夫人が好きになったシャーロットは、お茶とお菓子をたっぷりと頂いて、帰宅したのだった。

のびのびとした雰囲気のエアハート家の空気はシャーロットをなごませた。

あんなに和やかに母と話せたら、自分はもっと違ったのではないか?と。



春の兆しの頃、アルバートから、誘いを受けたシャーロットは、母の気合いを受け流しつつも、春らしい、淡いグリーンのドレスを来て、公園で待ち合わせた。

馬車を降りると、アルバートが薄いグレーの上品なフロックコートで待っていた。すらりとして、足が長く格好よい。

「アルバート様、お待ちになりましたか?」

「いいや、少し前に着いただけだよ?」

ふわりと微笑むと、手を出した。

「荷物?」

「サンドイッチが入ってるの」

「なるほど!それはいいね」

アルバートはバスケットをシャーロットから、預かると反対の手にはシャーロットの手をかけさせた。

ちょうど花が咲き始め、美しく彩りを与えていた。

木陰には葉と葉の隙間から、光がさし、美しい光の帯がキラキラとしていた。

アルバートはゆっくりと歩んで、散策を楽しんだ。

「シャーロット、好きな花は?」

「どれも好きだわ、一番は決められない。でも、やっぱり薔薇かしら?あのしっとりとした花びらも香りも」

「そうか、薔薇は美しいからね」

優美な笑みを浮かべた。

美しい花と、木陰で彩られた道を歩くと、小さな湖があった。

側にはベンチがあり、ぱらぱらと人影があるが会話の届く範囲にはいない。

「ここで、せっかくだからいただこうか?」

「ええ」

シャーロットは膝にハンカチを置いて、サンドイッチと紅茶をバスケットから出して、食べ始めた。

「うん、とっても美味しいね」

「ここは、冬はスケートが出来そうだわ」

「そう、スケートリンクになる。シャーロットはスケートも得意だったかな?」

スケート、とシャーロットはあの日の事を思い出す。小広間でのエドワードとのキスを

「ええ、それなりに」

「君のそれなりには、きっとかなりの腕なんだろうね」

くすっとアルバートが笑った。

「シャーロットは、エドワードが好きか?」

どきりとしたが、

「ええ、好きよ?幼馴染みで従兄弟だわ」

はぐらかす。

「そういう意味じゃないよ?」

アルバートは真剣な目でシャーロットを見ていた。

「…わからないわ。刷り込みのようなものなの。ずっとエドワードと結婚すると思って育ったから」

「出来なくはない。他でもない君とエドワードが望めば」

「いいえ、わたくしはそれを望まないの」

にっこりとシャーロットは微笑みかけた。

「望まない、か」

アルバートはゆっくりと空をみて、黒い髪が光を受けて、艶やかに輝く。

「考えてみて?例えば私と君が結婚して、エドワードと君の妹が結婚する、どう?傍目は良いかも知れないが」

「どうして?そんな風におっしゃるの?」

「いや、どうしてかな。聞いてみたかった、エドワードとはずっと前から友人で、君の話をずっと聞かされていた。あいつの気持ちと君の気持ち。それが気になってね?」

アルバートは淡々と言った。

「親の決めた婚約を、勝手に破棄された。それだけだわ」

「うん。ごめんね、いらない話をずっとしてしまったね」

アルバートは苦笑した。

「…アルバート様なら、今のわたくしの求める結婚相手にぴったりだと気付いていらっしゃる?」

アルバートはシャーロットを見つめた。そして、ゆっくりうなずいた

「もちろんだ。考えているよ?だから今日も誘ったし、君も来てくれたね?」

シャーロットはほっと息を吐いた。

「ありがとう、アルバート様。では、また誘って下さるかしら?」

「もちろん」

アルバートは青い瞳を向けて、シャーロットを優しく見つめた。


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