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ブラットフィールド公爵家は、公爵と公爵の弟に双子の姉妹が嫁いでいて、カレン・ブラットフィールド夫人とリリィ・ブラットフィールド夫人はそっくりな美女である。
「ようこそジョージアナ、シャーロット」
と同じ顔の二人に迎えられた。
「お招きありがとうございます」
ジョージアナが出してくれたウィンスレット公爵家の馬車で共に来たのだ。
社交界で重要なポストを占める夫人や、令嬢で招待客は選ばれているようだ。
いわゆる敵のポストをもつ派閥外はいない。ジョージアナもシャーロットもそれほど緊張せずともよさそうな顔ぶれだった。
中にはレディたちみんなの憧れのシエラ・アンブローズ侯爵夫人もいた。
和やかにお茶会がはじまると、カレンが紹介をしてくれる。
「皆様、ご存知かも知れませんけれど、可愛らしいレディを紹介されてもらうわね」
「レディ ジョージアナ・ウィンスレット、それから、レディ シャーロット・レイノルズよ」
ジョージアナとシャーロットはお辞儀をした。
「二人とも今一番の社交界の花ね。カレン様」
美しくシエラが言った。
「そうよ、二人ともとっても素敵なレディ」
カレンが、自慢げにいう。
「シャーロットはクリスタ妃殿下の従姉妹なのよね」
リリィがシャーロットに話しかけた。
「はい、そうなのです。幼い頃は遊んで頂いたこともありますわ。ですが、妃殿下とは年の離れた兄弟でしたから」
しかし、11歳年上のクリスタとはあまり遊んでいない。
アボット伯爵と、父のレイノルズ伯爵は、兄弟だ。事故で亡くなった、跡継ぎを亡くしたレイノルズ家に次男の父が婿入りし、シャーロットたちが生まれたが、オーガスタが気にしているのはいうまでもない。2代つづいて跡継ぎがいないのだ。
「殿下とも仲良くしていらっしゃるし、クリスタ妃殿下は素敵なかただわ」
「ええ、そうよ。あの堅物ですから、なにせ、初夜をすませたのは3日目だったそうよ?」
夫人たちはすごい!どこからそんな情報網が。
フェリクスの頼みもわかる。
くすくすと笑いが起こる。
「それに引き換えアルベルト殿下は電光石火で、舞踏会のあとエセル妃殿下を押し倒したとか」
ええっ!そんなことま噂は拡がってるのか…
「そういえば、アーヴィン卿の話を聞きましたか?」
ついにでた!ジョージアナをちらりと見た。
「ええ、お屋敷にまで連れてこられたとか。」
「侯爵様もアーヴィン様には甘くていらっしゃるのかしら?」
「それでお相手は?」
「20歳の領地の召し使いなのですって。」
夫人が、眉をひそめていう。
「アーヴィン卿はたいそうその女性ホリー様とおっしゃるそうですけど、ご執心で。結婚すると息巻いているとか…」
女性たちの目がキラリとした。
「ふぅ、アーヴィン卿は全く次期スプリングフィールド侯爵という立場をお分かり出ないのね!」
カレンが怒りをこめていい放った。
「そこに、つけこもうとエーヴリー伯爵が画策してるようですわ」
「エーヴリー伯爵が!」
とリリィがカレンと目をみあわせた。
カレンとリリィの実家。ウェルズ侯爵家には、エーヴリー伯爵家のキャサリンが、次期侯爵のベルナルドに嫁いでいたが、離婚して、ベルナルドはしばらく荒れていたというが、無事にこの春マリアンナ・デボア伯爵令嬢との婚約が発表されていた。
しかし、カレンとリリィの顔を見るに、キャサリンはかなり訳ありなのだろう。
シャーロットは、デーヴィドを思いだし、鳥肌がたった。
「つまり、そのホリーを養女にと?」
シエラがそっと言った。
「ええ。そうすれば表向きは侯爵家に嫁がせたと、繋がりも、恩も売れますしね。」
「キャサリン様が、出戻りで、かなり評判も地に墜ちてますから、何でもやるかもしれませんわ」
「そんな事をしても、そんな方に侯爵夫人が務まると思えません」
シャーロットはやや青ざめて告げた。吐き気がしそうだ。
「ええ、全く!貴女のおっしゃる通りですよ!誰もそのホリー様に頭を下げようなんで思いませんわ」
そんな馬鹿な事があるものか!
デーヴィド。あのいやらしい男の父ならおぞましい事をするに違いない。
「大丈夫よ、養女の縁組みも結婚も王の許可がいるわ。そんな事をお許しにならないわシャーロット」
ジョージアナが青ざめているシャーロットにいうが、
「ジョージアナ、それはわからないわ。無用な争いを避けるため決断されるかも知れないわ」
カレンもこわばらせて言った。
「よりにもよって結婚なんて…」
リリィも眉をひそめていった。
「そんな、教育も受けてない、自由を満喫していた女性が侯爵夫人になるなんて、頭を下げるのは絶対に赦せないわ…。無理よ」
シャーロットは首をふった。
「その通りよ!シャーロット。わたくしたちも同じ意見よ」
前の令嬢たちが力強くうなずく。
侯爵より上の地位は公爵と王族だけ。
貴族社会において、巨大な領地をもつ、筆頭貴族だ。
立場上はその、もと平民だか、なんだからわからない女性に伯爵令嬢であるシャーロットは頭を下げざるを得ない。
貴族令嬢の教養は一朝一夕で務まる事ではない。
シャーロットだって、ジョージアナだって、ここにいる女性たちは小さな頃からたくさん我慢して、辛いことを乗り越えてきたはずだ。その自負が自分を支える自尊心だ。貴族令嬢を馬鹿にするなと言いたい。
ジョージアナが送ってくれて、シャーロットはたどり着いた。
夜、父と母に今日の話を伝えた。
父は渋面をつくり、
「わかった、シャーロット。ゆっくり休むといい」
シャーロットは部屋に帰りつき、ベッドに入った。