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次の日は、シャーロットはすっきりと起きてジョージアナや、フェリクス、エドワード、キース、アルバートと共に乗馬服に身を包み、ウィンスレット公爵の馬を選びにきた。
キースとは、乗馬の話が出ていたので、キースが話しかけてきた。
「シャーロットは、どの仔がいい?」
昨日の醜態のお陰か、シャーロットと男性たちはぐっと打ち解けたので、自然とくだけた口調になる。
「わたくしは、あの栗毛の鼻に星がある仔がいいわ」
「じゃあ私はあの黒毛にしよう」
馬丁がシャーロットの選んだ馬に横鞍をつけてくれる。
皆それぞれに馬を選んだ所で出発だ。
キースは乗馬の話を出しただけあり、とても上手だ。
もちろんこの仲間の中で下手くそは一人もいない。
ジョージアナはそれなりだが、シャーロットは乗馬には自信があった。
「キース様。わたくしは乗馬にはいささか自信がありますの」
「エドワードから聞いていたので、是非とも腕前を拝見したい」
と良い声で、言われると俄然負けず嫌いの血が騒いでくる。
「ちょっと難しいコースをいくよ?」
キースは窺うように、シャーロット、それから、エドワードに確認するように見た。
「シャーロットはなかなかのお転婆だからキースについていけると思うよ」
「なるほど……じゃあ付いてきて」
キースは手綱を握ると馬を走らせ出した。シャーロットはキースを追いかけて続いて走らせる。
キースの選んだコースは本格派の乗馬コースで、丸太を飛び越えたり、川を飛び越えたり、並みの令嬢なら難しいコースだった。
難なくついてくるのを、見てキースは楽しげに笑った。
「全く!おそれ知らずなんだね、シャーロットは。横のりでこのコースを走るなんて」
「言ったでしょう?乗馬は自信があるの」
コースを一週して、みんながゆったりと乗馬を楽しんでいるところに向かった
髪を少し乱し頬を紅潮させて戻った。シャーロットの顔は大好きな乗馬で、いきいきと輝いていた。
「エドワード!シャーロットはすごいよ!全く遅れをとらなかった!」
キースが興奮ぎみに少し遠くから叫んだ。
馬を並足にすると
「横のりで行けるのがすごいね」
とフェリクスも感心していった。ウィンスレット公爵の敷地だから、フェリクスなら熟知してるコースなのだろう。
「小さな頃からお兄様に、鍛えられましたの」
ふふふとシャーロットは不敵にわらった。
「エドワード、この姫には他にどんな隠しダネがあるんだい?」
アルバートが聞いた。
「ほかに?うーん。ピアノは隠してないか、すごく上手だし、スケートも上手だね。だけど、ボードゲームは滅茶苦茶弱い。子供にも負けるんじゃないかな?ダンスはすごく上手いはずだよ?かなり難しい曲も相手をさせられた」
「エドワード、もうやめて。恥ずかしいから!」
「じゃあ、朝食の後にピアノで合奏しましょう」
ジョージアナとなんの曲にするか相談しながら、馬を歩かせる。
ダイニングルームで、全員で朝食をとると、ジョージアナとシャーロットはピアノの、前に座った。
グランドピアノが2台もあるとはさすが公爵家だ。
「シャーロット、これよ弾ける?」
楽譜を渡され少しだけ、合わせて弾いてみる。
「大丈夫そうね!」
ジョージアナは楽しげに言った。
ジョージアナのピアノはすごく上手で、はじめてでも問題なく合わせられた。
技巧を競争するかのような複雑な指使いの曲もシャーロットとジョージアナは完璧に弾いてみせた。
音を聞き付けて、夫人が入ってきた。
「まあまあ、すばらしい腕前ね。シャーロット」
パチパチと拍手する。
ジョージアナに似た美しい女性で、気品がある。
「ありがとうございましす。公爵夫人」
シャーロットはお辞儀をした。
「もう少し聞きたいわ、お願いしても?」
ジョージアナはじゃあ、次はこれね
と楽しげに言った。
「わたくしもゆっくり聞きたいから、一曲ずつ交替しましょうよ」
「わかったわ!」
シャーロットもジョージアナのピアノを聞きたかったのだ。
ジョージアナが指定したのは、有名な曲なだけに技量がとわれるだろう
華やかな曲で、シャーロットも大好きだ。
「シャーリーはとても楽しそうに弾くのね!」
「じゃあ、わたくしは…」
同じ作曲家の曲をひきだした
ジョージアナのピアノは正確で巧みだ。力強く、弱く、すばらしい技量だとおもった。
「素敵!」
次はシャーロットは静かなしっとりとした弾くことにした。
「そういう曲も似合うのねシャーリーは」
ほぅっとジョージアナがため息をついた。
「ひさしぶりにエドワードもどう?指が鈍ってるかもしれなくてよ?」
からかうとエドワードは苦笑して、
「君たちの後じゃやりにくいよ」
「あら、わたくしも聞きたいわ」
とエドワードを押して、ピアノに座らせる。
少し、フロックコートの袖を上にすっとあげて、姿勢を正すと、迫力のある演奏をしてみせた。
感嘆と共に悔しくもある。
「ひさしぶりに聞いたけど、やっぱり悔しくなるわ」
エドワードは苦笑すると
「次はアルバートが弾いてくれるって」
「えっ!」
冷淡なイメージのアルバートが慌ててる。ぼそぼそと耳元でエドワードがささやいた。
しぶしぶといった感じでひきはじめる。シャーロットは知らない曲だった。
綺麗な旋律で素敵だった。
「なんという曲なのですか?」
「有名な曲じゃないから、」
とアルバートは苦笑していったが、
「アルバートのオリジナルなんだよ」
とエドワードがばらした。
「ええーすごい!」
シャーロットとジョージアナは拍手をおくった。
「他にはないんですの?」
ジョージアナが、聞いた。
「いや、これだけだよ」
アルバートは恥ずかしそうにわらった。
演奏を終えると、お茶の時間になる。
テーブルにつくと、男性たちは少し固い話になる。
「アーヴィンの話をきいたか?」
とフェリクスがきりだした。
「なんの話だ?」
キースが眉をあげた。
アーヴィンは色々な噂があるのだろうか。
「最近、女にうかれてるらしい。」
「…アーヴィンを相手にする女性がいるのか?」
アルバートが冷たい口調でいい放った。
「それが平民の女性らしい」
「…結婚前に愛人でも作るつもりか?」
エドワードが眉をしかめた。
「あいつはあれでも次期侯爵だ。アーヴィンのことはどうなってもいいし、そもそも居なくてもいいが、侯爵家が揺らぐと、それはそれでまずい。」
フェリクスが眉をひそめた。
ジョージアナとシャーロットも顔を合わせた。
結婚前に愛人なんて、次期侯爵のする行いではない。
侯爵というだけあり、広大な領地をもつ。
その一つが揺らぐと、どんな影響が広がることか。領地を争う、戦争になったり政治の駆け引きで要らぬ争いが生じるかもしれない。アーヴィンはその事に気づかないのだろうか。
「今の所。あくまで噂は広がっていないから、それほど動きを見せている諸侯はいないが、うちとしても気を付けている。何か動きが有れば知らせてくれ」
ここにいるのは、次期伯爵のエドワード、キース。それから、アルバート。みなそれぞれ情報網があるだろう。
平和なイングレス王国でも見えないところで、貴族たちの戦いがあるのだ。
「ジョージアナ、出来るだけお茶会やサロンに行ってくれ。彼女たちの噂話は出来るだけ知りたい」
ジョージアナはうなずいた。
フェリクスはさすが次期公爵という、威厳がある。
「ちょうどブラットフィールド公爵家のお茶会があります。シャーリーもいってくれるでしょう?」
「でも、招待状が…」
「大丈夫、多分届いているはずよ?」
「そう?」
わかった。とうなずいてみせる。
夕食の後はボードゲームで、シャーロットはこてんぱんに負け続け、最弱の名を冠した。
夜会から2日ぶりに帰宅すると、ブラットフィールド公爵家からの招待状があった。