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春の気配が近づいた頃、セルジュとソフィアの婚約が発表された。さぞかしソフィアは不服だろうと思う。
がシャーロットにはどうしようもないことであった。
何よりもシャーロットはもう隠しようもなくお腹が大きくなってきて、外出もままならない。必要な社交の催しにはエドワードが一人で出掛けるようになっていた。
日当たりのよいシャーロットの部屋から近い、一室が子供の部屋になる。
壁紙から床まで子供の部屋らしく、ベビーベットやメリーや子供用の家具が揃えられ、新しい服も揃いつつあった。
乳母となるジェニファーと世話係のフィオナと相談しつつ部屋の配置から揃えるものから相談して決めた。
「楽しみですわね奥方様」
にこやかにいうジェニファーは丸々とした女の子を抱いていた。
ニッキーはシャーロットの子供の乳兄弟となるのだ。
ジェニファーの夫も御者としてアボット邸に共にやって来た。
「ええ、そうね…」
医師と産婆は日にちを合わせて診察をしにやって来た。
「お子様は順調にお育ちですね」
医師はにこやかに告げるが、
「食欲がないようでしたら、少量ずつを何回も食べてください。もう少し食べないと出産の体力がもちませんよ」
と渋面を作った。
「あとはしっかりと散歩をして体を動かしてみてください」
シャーロットはうなずいた
産婆は
「お子様は向きも大丈夫ですし、後は上手に生まれてくれるように頑張りましょうね」
と告げた。
「本当に大丈夫そうかしら?」
シャーロットはおそるおそる尋ねた。
「もちろんです。しっかりと体力をつけて出産に臨みますよ!」
シャーロットは少しずつをちょこちょこ食べるようにして、散歩を増やした。
エドワードは散歩に毎日付き添いをした。
「なんだかすっかり社交界から遠退いてしまって田舎にでもいるようだわ」
「ジョージアナやユリアナを呼べばいい。遠慮はいらないよ?」
「アナもユリアナも、今年は大事なシーズンだもの。妊婦の愚痴に付き合わせられないわ」
シャーロットはエドワードにすがるようにして歩きながら言った。
「シャーロット。俺では頼りにならないのか?」
歩みを止めたエドワードがシャーロットの正面に立ち頬に手を当てて見下ろした。
「頼りにならないなんてそんな事あるはずがないわ」
シャーロットは首を振った。
「どうしようもなく、不安なのよエドワード」
まるで堰をきったかのように涙が出てくる。
「ちゃんと元気な赤ちゃんを産めるのか、自分は死んでしまうのじゃないか…!」
「シャーロット…!!」
「近頃は医師も産婆もわたくしを不安にさせまいと何も言わなくなったわ。だけど……みんな心配性だって、わたくしもそれはそうなんだと思うけれど」
エドワードはシャーロットの手を握って続きを促す。
「こんな馬鹿みたいな話。誰にも出来ないし、エドワードだって呆れるでしょう…?」
「俺たちは夫婦になったんだ。呆れたりするわけがない、もっとぶちまけていい」
シャーロットは嗚咽を漏らした。
「一人で不安にさせて悪かった」
「ごめんなさい、情けないわ…!」
エドワードの胸でシャーロットは泣き続けて、しばらくしてようやく笑顔を向けた。
「泣いたら少しすっきりしたわ!」
エドワードはハンカチでシャーロットの涙を拭いた。
「そうか…なんでも俺に言え。代わってやれないからねこればかりは…男なんて役立たずだ」
シャーロットは背伸びをしてエドワードにキスをした
「頑張るわ、絶対に大丈夫よ」




