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マーガレットと相談の上、アボット伯爵家からはほとんどの使用人たちがオルグレン侯爵邸行くことになり、たくさんの使用人を新しく雇う必要がでてきた。


執事は、修行中であったラルフが新しく任務につき、メイド長もエルザが選ばれた。また料理長にもミリエルがついた。彼らの推薦で、使用人たちが邸にやって来たが、まだ足りずに求人をだし、シャーロットは毎日自ら書類を審査し面接をラルフとエルザと共に行った。

とにかく、忙しくシャーロットは過ごしていて、ラルフやエルザも毎日新しく入った使用人の教育に忙しくしていた。

そんな中の事


応接室で寛いでいたシャーロットの元にラルフがほとんど無表情な中にも困惑の色をわずかにみせ、

「奥方様、面接をしてほしいと女性が来ているのですがお通ししてもよろしいでしょうか?」

今日はもう予定の面接は終わっていた。

求人していると聞いて飛び込みできたのだろうか?

ラルフは新しく執事になったとはいえ怪しい人物かそうでないかは長年の経験でわかっているだろう。

その上で言っているとなると…。シャーロットは疑問に思った。

じっとラルフを見つめた。

「…わかりました、お通しして」

シャーロットはいづまいをただして、その使用人希望者を迎えた。

ラルフが連れてきたのは、まだ若い女性だった。

黒い髪に、白い肌。質素とも言えるグレーのドレス。そして、銀の縁の眼鏡。 そして、指には結婚指輪、服装からすると未亡人に見えた。

眼鏡の奥には褐色の瞳が煌めいていた。

手は荒れているが、その佇まいは貧しげとはいえレディだとシャーロットは思った。

「お掛けになって」

目の前の椅子を進めた。

「突然の訪問にも関わらず、お会いしてくださりありがとうございます」

と礼をとった。

シャーロットは確信した。レディだということを。同じく思ったラルフは紹介なしの彼女を入れたということも。

「ご事情をお伺いしてもよろしいかしら?」

「わたくしは、フロレイン・メドウスともうします。元々貧しい貴族の娘でしたが今では行くところもなく、困り果てておりますす」

シャーロットはうなずいた。

「そうでしょうね…」

貧しい未亡人は修道院に行くか、誰かの愛人となり抱えてもらうしかない。

レディが働くのは難しい事なのだ。

「お願い致します。下働きでも何でも致しますので雇っては頂けないでしょうか?」

言葉はしっかりとレディの言葉だが、その眼には必死でシャーロットを見ていた。

「…わかりました。レディ フロレイン」

フロレインはほっと一息をついた

「ただ、少し条件をつけさせて頂けるかしら?何せ貴女は紹介もなしなので」

シャーロットの言葉にまたフロレインは緊張したようだ。

「先ず1つ目は眼鏡をとって素顔を見せてもらえるかしら?」

おずおずと外したその顔には見覚えは無いと確信した。フロレインは思った以上に若く美しい顔だった。見た目は20歳くらいだろうか?

「その眼鏡は顔を隠したいのね?」

度が入ってなさそうだ。

「女一人ですから、トラブルに巻き込まれないように…」

シャーロットはうなずいた。

「後のもう1つは、なにでもいいから貴女が大事にしているものをわたくしに預けて頂けるかしら?保証として預からせて?もちろん預り証は書きます」

フロレインはうなずくと、首から下げていたロケットを外しシャーロットに渡した。

「このロケットはどなたか大切な方からの贈り物と思っていいのかしら?」

「はい、母の物でした」

フロレインはしっかりとうなずいた。


シャーロットは、紙をラルフから受け取り預かった旨を書き、署名と印章を押した。

「貴女はわたくしの顧問として側に仕えてもらうわ。但し少しでも怪しい素振りがあれば出ていってもらう事になるわ。いいかしら?」

「はい、伯爵夫人」

シャーロットはうなずくとエルザに客室を1つフロレインに使わせるよう告げた。エルザも心得てフロレインを連れていった。


ちらりとラルフを見た。

「反対かしら?」

「いいえ、私には判断しかねましたので。奥方様に従うまでです」

「何かあれば知らせるように」

ラルフは一礼すると下がっていった。



晩餐の席にフロレインを同席させるようにいい、

シャーロットとエドワードはダイニングルームについた。

「エドワード、新しくわたくしの顧問として雇ったレディ フロレインよ」

エドワードはフロレインをみて、シャーロットが何故顧問なんて役職につけたのかわかった。


フロレインの身元ははっきりしない。レディである彼女を放っても置けず、また邸をうろつかれても困るし、それならシャーロットの近くで監視する、ということだ。

「エドワード・アボットだ。働きに期待している」

と微笑んだ


フロレインのテーブルマナーも完璧な物で、それは付け焼き刃とも思えなかった。


シャーロットはフロレインを顧問としたが、実質は客人に等しかった。時間があるときに、一緒にレースを編んだり刺繍をしたりくらいだ。じっくりと様子を見て、そしてラルフとエルザから報告を受けていた。今のところ怪しいそぶりは無さそうだ。

何しろスパイであるならもっとしっかりとした紹介状を用意してくるだろうから…。


「奥方様、わたくしにも仕事を与えていただけませんか?」

フロレインの言葉にシャーロットは

「レディ フロレイン、少し待って頂けるかしら?うちはこの通り恥ずかしながら新しく雇った使用人たちで混乱している時なの。貴女の仕事はもう少ししてから」

「よろしければメイドたちの指導をさせてください。奥方様はお忙しくされておりますから」

「…わかったわ、エルザを呼ぶので相談しながら進めてくれるかしら?そして毎日報告はしてちょうだい」

フロレインは一礼した。

なかなか意思のしっかりとした女性のようだ。

切り盛りをしていた自信がありそうだった。


夏の盛りがきて、シャーロットはアボット伯爵家の領地に行く時期になった。

タウンハウスはラルフとエルザに任せ、シャーロット付きとなったメイドの二人クララとアリス、それからフロレインも連れて馬車にゆられた。

「シャーロットはひさしぶりだろう?この地に来るのは」

エドワードが窓を開けて、アボットの主領地をみせた。

南に位置する豊かな自然に囲まれた街は美しく、王都にも匹敵するほど栄えている。

安穏としたレイノルズ家の領地よりも遥かに活気にあふれ、賑々しかった。

「ええ、子供の頃以来だわ」

夏も終わりに近づいているとはいえ、日射しはまだ強く、暑い。


アボットのカントリーハウスは、ハウスというよりは宮殿と言うべき威容を誇り、門から邸に至るまで庭も美しく整えられ、完璧なガーデンであり、そして広々としたその敷地はまるでどこまでも広がっているかのようだった。

幼い頃の記憶が蘇る。

「エドワード!懐かしいわ」

「私も懐かしいよ。シャーロットが馬に乗せろと騒いだこととか、木登りして降りれなくなったこととか…」

シャーロットはジロリとエドワードを見た。

エドワードはくすくすと笑っている。


出迎えてくれたマーガレットは、一足先に領地に入り息子夫婦の為に結婚の準備をしてくれたようだ。

式は2度目だという事にシャーロットはあらためて苦笑する。


クララとアリスも初めてみる華麗な室内にほうっとため息をついている。

フロレインもまじまじとみている。


エドワードと共にエドワードの部屋とその隣のシャーロットの部屋に向かう。

そのフロアはエドワードとシャーロットが使うのだが呆れるほどだ。

そこにまるごとタウンハウスが入りそうだ。

エドワードの私室は、三つ、シャーロットもおなじだけ、バスルームにクローゼットルーム。遊戯室。図書室。それからたくさんの使っていない部屋などなど。

そこにフロレインの部屋を一室用意させる。


クララとアリスはメイドとしての力量を発揮し、バスルームを用意させ、シャーロットのクローゼットをチェックし、ドレスを用意した。

同じくさっぱりと着替えたエドワードは

「どう?気に入った?」

「もちろん、と言いたいところだけれど圧倒されてるというのが本音よ。呆れるほど贅沢なんですもの」

くくくっとエドワードは笑った。

椅子に座りシャーロットを抱き寄せて口づける。

「そのうち慣れる」

さらに深くなるキスにシャーロットはうっとりとエドワードを受け入れた。

とんとんと、ノックされ

「レイノルズ伯爵夫妻がお見えです」

執事のクライナスが告げた。

シャーロットはひさしぶりにあう両親に会いに向かった。


「お父様、お母様おひさしぶりです」

シャーロットはお辞儀をした。

「シャーロット、元気そうでなによりだ」

アルフレッドは微笑んだ。エドワードもにこやかに挨拶を交わした。

「シャーロット!会えて嬉しいわ」

オーガスタはシャーロットを抱き締めた。

アデリンとエーリアルはぼんやりと邸内をみつづけている。

デビュー前だ。仕方ないだろう。これより豪華な邸なんて、公爵くらいかもしれない。

くすりと笑うと、

「クライナスお部屋にご案内を」

とシャーロットはいった。

「お疲れでしょう?まずはゆっくりなさって、晩餐でまたお会いしましょう」

シャーロットは微笑んでアルフレッドとオーガスタの頬にキスをした。


それから翌日には、ジョージアナとユリアナ。それからフェリクス、キース、アルバート、フレデリック、イアン、レン。といった友人たちもやって来た。

今回は極限られた招待客での披露宴となる。式はあくまで、アボットの領民にシャーロットを紹介する意味合いが強い。

慌ただしいことに3日後が式だ。


領地の美しい海に面したロマンティックな聖堂は美しい。

二つ目のウェディングドレスは、レースの美しいドレスでシャーロットのレイノルズの領地で作られたものだとシャーロットは知っていた。

領主のエドワードの結婚式を見にきたアボットの領民たちにも祝福をうけた。


カントリーハウスでのパーティはほとんどが親族のみなので、格式張らずに行われた。

「エドワード、シャーリー。お兄様とわたくしでね、結婚のお祝いを用意したの。楽しみにしていて」

シャーロットはジョージアナの言葉に首をかしげた。

「まだここにはないの。だけど、来月までにはここにつくと思うわ!」

「まあ、アナ!なにかわからないけれどたのしみだわ」

シャーロットはにこにこと笑った。

「わたくしからはこれなの」

ユリアナは美しい細工の銀の鏡と櫛だった。

「ユリアナ、ありがとう!」

その夜は無礼講とばかりに親たちも酔っぱらい、踊りあかし、ジョージアナとユリアナも珍しくかなり飲んで、アデリンとエーリアルも夜更かしを許された。

つまり、ものすごくくだけたパーティだったのだ。


真夜中をすぎて、もちろんかなり飲まされたエドワードと、少しでも酔うシャーロットは引き上げてきた部屋の前でかなり濃厚なキスを交わしていた。

「まって、お風呂に行きたいわ」

「待てない…すぐにベッドに行こう」

エドワードに抱えられたシャーロットはエドワードの私室の寝室に行った。

かなりの広さのベッドは弾力も素晴らしく、エドワードとシャーロットはたっぷりと愛し合った。


目が覚めてからも、エドワードとシャーロットは睦みあった。どうやら、気配を察したらしく使用人たちはベルを鳴らすまで起こしにこなかった。

「フェリクスたちと乗馬の約束をしていたんだ」

ベッドから降りながらエドワードは言った。

簡単な服だけを身に付けて、エドワードは近侍のレオンに手伝わせるため身仕度をしにむかった。

かわりに、クララとアリス、それからフロレインが昼のドレスを持ってきた。

「先にお湯を使われますか?」

「そうしたいわ」

「ではご準備はできております」

アリスはガウンをだし、シャーロットは素肌にそれを着た。

いつもエドワードは体を清めてくれるけれど、やはり洗いたいのだ。

あくびをしながら湯船につかる。

「お疲れでございますね、奥方様」

クララが髪を洗いながら微笑んだ。

「酔っていたからあんまり覚えてないの…。わたくしはお酒に弱いでしょう?」

くすりとシャーロットは笑った。

クララもアリスもシャーロットに仕えてから毎日の様に営まれてる、エドワードとの閨事情を知っている。もはや、知られて恥ずかしいというのも薄れてきていた。

シャーロットは二人にはベッドを整えることも、翌日の湯あみも安心して任せている。


シャーロットはドレスを身に付けると、オーガスタとマーガレット。それからアデリン、エーリアルとジョージアナ、ユリアナ。そこにフロレインも連れてガーデンで朝食にした。

フロレインは眼鏡はまだしているが、今日は深い紺色のドレスを着ている。黒や灰はやめてほしいとシャーロットがフロレインに言ったからだ。

皆夜更かしをしたためか、ぼんやりとしている。

「どうやら男性たちは乗馬に行ったようよ」

マーガレットが言った。

「レディ ジョージアナは今シーズンはいかがでしたの?」

オーガスタがたずねた。

「どなたも、素敵な貴公子ばかりで…」

ジョージアナは微笑んで、言った。つまり、気になった相手はいないと。

「でも、楽しかったですわ。今年はシャーリーの結婚式がありましたし、こうしてこちらにも滞在させていただきましたし」

ジョージアナはお茶を飲むと微笑んだ。

ユリアナとアデリンとエーリアルは、隣同士に座り楽しそうに過ごしている。

オーガスタはそれを見て

「シャーロットの言うとうりレディ ユリアナはアデリンたちに合うようだわ。素敵な方ね」

微笑んだ。

シャーロットは微笑んだが、二日酔いな様で食欲もなければ、少し座っているのも辛くなってきた。

「シャーリー、顔色が悪いわ」

ジョージアナが言ってきた。

朧気な記憶によれば夕べはかなりたっぷりと愛し合った。その疲れかもしれない。

「少し二日酔いなのかもしれないわ。休ませてもらうわ…」

シャーロットは立ち上がり、クララとアリスに目配せをして立ち上がった。


移動の疲れと式の疲れが出たのか、シャーロットは2日ほどベッドで過ごした。マーガレットがかわりに女主人の役割をしてくれてので、客人も楽しく過ごしているようだった。

「もう大丈夫そうだ、顔色が良くなったねシャーロット」

エドワードはシャーロットの頬に手をあてて、ホッとしたように息をはいた。

「ありがとう、良くなったわ。式が終わってほっとしたのね」

シャーロットは微笑んだ。


しかしシャーロットにとってアボットの領地はまだ暑すぎる。涼しい地方のレイノルズ家で育ったシャーロットは食欲はなかなか元に戻らなかった。エドワードは心配そうだ。

ジョージアナたちがいるのでシャーロットはほとんど涼しい邸の中で過ごしていた。


音楽室にあるピアノはアボット邸の物は素晴らしい逸品でシャーロットは夢中になり、連日触らずにはいられなかった。

音が素晴らしく、何倍も上手くなったように感じた。

楽譜も豊富にあり、弾いたことのない曲もたくさんありシャーロットは暇さえあればそこにいた。

「熱心だね、シャーロット」

笑いながら入り口にいたのは、エドワードやフェリクスたちだった。今朝は狩りに出掛けていたようだ。

「おはよう、エドワード。このピアノが素晴らしくてすっかり夢中よ」

くすくすとシャーロットは笑った。

「それに、外は暑くてわたくしにはつらいの」

エドワードはうなずくと、楽譜の棚から一冊選び

「じゃあそんなシャーロットにはこれがおすすめかな」

エドワードはシャーロットと椅子をかわり座ると、重厚かつ、複雑な技巧のいる演奏を始めた。

迫力のあるエドワードの演奏にシャーロットは圧倒される。

「エドワードったら、本当になんでもしてのけて。俄然燃えてきたわ!」

シャーロットは少しばかりむっとすると、その曲に取り組み始めた。

「シャーロットは負けず嫌いだからね」

くすりと笑うと、シャーロットがつまってしまう指使いを訂正する。

シャーロットの手より大きなエドワードの手と長い指は、鍵盤の上を自由自在に動く。エドワードが楽々とするその動きはシャーロットには難しい。

しかし、シャーロットは凝り性だ。エドワードたちが立ち去ったあとも熱中しすぎてメイドたちが心配するまで、ピアノの前に座り続けた。


「おはよう、シャーロットずいぶんと熱心に練習していたわね」

マーガレットが微笑みながら言った。

「こちらのピアノが素晴らしくてつい夢中になってしまうのです」

「シャーロットは昔からピアノは熱心でしたから、昔から何時間も練習してしまうの」

オーガスタが笑いながら言った。

「すごいわシャーロット。わたくしは辛うじて弾けるくらいで、何時間も弾けるなんて感心してしまうわ」

ユリアナが言い、アデリンとエーリアルもうなずいた。

シャーロットは眉を少しあげた。

「ありがとう、ユリアナ」

ピアノに限らず、乗馬もスケートも勉強もエドワードという手本がいて、頑張らずにはいられなかった。


しばらく滞在を予定しているジョージアナたちと、連日楽しみを見つけては過ごした。もちろん夜には時々ホームパーティをしたり。


暑かった夏もそろそろ終わり、秋の気配がやって来てシャーロットはようやく食欲も戻ってきた。

そんな頃、ジョージアナのお祝いが届いたのだ。

「セリで落としたのよ!」

ジョージアナが得意そうに言ったその贈り物は、馬だった。

エドワードには黒毛の大きな雄馬で、シャーロットには葦毛の優美な雌馬だった。

「すごいわ!アナ!」

一目見てシャーロットはその馬が好きになった。

「ありがとう!」

シャーロットはジョージアナにぎゅっと抱きついた。

「きっと喜んでもらえると思ったの!」

エドワードもその馬を気に入ったらしくて、鼻を撫でている。

フェリクスも満足そうにうなずいていた。

「数日休ませたら、是非乗ってみたいわ!」

厩務員たちに世話を任せて、シャーロットたちはエドワードたちのフロアの談話室に行き、どのコースにしようかと話し合っていた。

「あの、奥方様…差し出がましい事を申すことをお許しください」

おずおずとクララがシャーロットに近づいていた。こそこそと囁いてくる。

「どうしたの?クララ」

「奥方様の体調を考えますと、乗馬はもうしばらくお控えくださいませんか?」

クララはメイドとして、こんな事を言い出したのには理由がありそうだ。

「確かに調子はよくなかったけれど、涼しくなって戻ってきたわ?」

「その通りですわ。ですが…」

言いにくそうに、アリスを見てシャーロットに顔を戻した。

「奥方様は月のものが1週間ほど遅れていらっしゃいます。ですから乗馬は控えていただいた方がよろしいかと思うのです」

シャーロットは驚いた。

確かにまだ来ていなかった。遅れることは何度もあったし、環境が変わっての事だとも思えたが、違うとも言いきれない。

「わかったわ、言うとおり控えるわ」


エドワードの目線に

「乗馬のお楽しみはもう少し後にするわ。体調が心配なのですって」

とにっこりと微笑んだ。

ジョージアナも残念そうだが、最近のシャーロットを見ていたので

「そうね、もう少し元気になってからの方が楽しめるわね。シャーロットは乗馬が得意だから遠くまで行きたいでしょうし」

にっこりと笑った。


冬の前に皆領地に帰るため、一緒に乗馬出来なかったのは残念だが仕方ない。

ジョージアナにだけは、こそっと事情を打ち明けた。

「ええっ?そうなの」

ジョージアナは嬉しそうに小さく叫んだ。

「まだわからないけれど、次の月のものが来るまで乗馬はやめておくわ」

「いいえ!きっとそうよ!はっきりしたら教えてちょうだい」

ジョージアナはにこにこと言った。



客人たちはそれぞれに帰っていき、大きな邸宅はとたんに大きく、静かになった。

数日過ぎても、月のものは来ずクララとアリスはシャーロットの体調を気遣ったが、シャーロットは体調も良好そのものであった。


「シャーロット、街に行ってみるか?」

エドワードがにこやかに誘ってきた。

「もちろん行きたいわ!」

シャーロットは喜んでドレスを出来るだけシンプルな物にして、クララとアリスも連れてエドワードと玄関を出た。

そして眩しい日射しを浴びたその時、くらくらと目の前が回りしゃがみこんだ。

「どうした!シャーロット」

エドワードが、シャーロットを抱えて話しかける

「急に目眩がして…」

クララとアリスも慌てて支える。

「クライナス、医師を呼んでくれ」

エドワードはシャーロットを抱き上げ、寝室に運び込んだ。

「もう、大丈夫よ。収まったわ」

「いや、診てもらおう。今日はゆっくりするんだ」

シャーロットはしぶしぶうなずいた。

せっかくのお出掛けなのに!


老医師と若い医師の二人連れでやって来て、

「おめでとうございます。ご懐妊ですね」

と老医師がにこやかに告げた。

エドワードは驚いて医師とシャーロットをみた。

「しばらくは目眩がおこるかも知れませんから、静かに過ごされると良いでしょう」

順調にいけば春頃には、父と母になるわけだ。

とても不思議な気持ちだ。

「ご病気ではありませんから、それほど気になさらずに」

エドワードがあまりにも心配そうにしていたのか、若い医師は穏やかに告げた。


「エドワード、どんな気持ち?」

二人きりになったシャーロットはおそるおそる聞いてみた。

「ああ、とにかく驚いている、その可能性はあったというのに」

エドワードは苦笑する。

「でも、とにかく嬉しいよ。シャーロット、こんなに早くに授かるなんてね」

そっとまだ平らなお腹に手をあてた。

「わたくしはクララがもしかしてと言っていたから、少し前からそう思ってはいたの」

「ああ、あの乗馬の時か?」

シャーロットはうなずいた。

エドワードはやさしくシャーロットにキスをして、

「とにかく大事にしよう」


そこからのエドワードはシャーロットにとにかく過保護だった。

階段はとにかくエドワードが一緒でないといけなかった。

少しくしゃみをすればベッドに押し込まれ、食欲がなければ食べれる物を用意させた。

シャーロットはただ、ひたすら眠い事を除けば体調もよく吐いたりなどはとくになかった。


「本当に大事にされておいでですわね奥方様」

くすくすとクララが言った。

「ねぇ、妊婦は動いてもいいんでしょう?」

シャーロットはうんざりと言った。もともと体を動かすのが好きなシャーロットだ。

しかし外はそろそろひんやりとしてきて、エドワードは頑として散歩すら譲らなかった。

「もちろんですわ」


「ねぇエドワード。妊婦にも適度な運動は必要なのですって」

「うん、それで?」

「だから、街にお出掛けしましょうよ。連れていってくれようとしていたでしょう?」

「もう寒いから駄目だ。それにここの街は人が多すぎる、ぶつかられたらどうするんだ」

エドワードは怖い目でシャーロットを見た。

「じゃあ、ダンスは?」

「まだ駄目だ」

「じゃあピアノは?」

「それなら、構わない。但しやり過ぎないように」

うっとシャーロットは言葉に詰まった。シャーロットはやり過ぎる自覚はあった。

とにかくピアノの、許可はおりたのでシャーロットはピアノを弾きに通った。


「レディ フロレインはお子様はいらっしゃらなかったの?」

シャーロットの私室でフロレインと編み物をしながら訊ねた。

シャーロットはベビー服を作っていた。

「え、ええ」

「ここでは眼鏡をとってもいいのではなくて?わたくししか居ないのだし?」

フロレインはためらいがちに外した。

やはり美人だとシャーロットは思った。

「ねえ、再婚は考えないの?」

フロレインはまだ若く美しい。

「それとも亡くなったご主人をそれほどわすれられないの?」

「いいえ」

戸惑ったようにフロレインは返事をする。

「貴女はよく働いてくれているし、社交界に出れるように、わたくしが力になるわ」

「いいえ!駄目なんです!」

フロレインははっと叫んだ。

「社交界が駄目なの?なぜ?貴女は未亡人でしょう?」

シャーロットは不審に思った。彼女はなにかを隠している。

「わたくしが信用ならない?」

フロレインは編み物の手を止めて、シャーロットを見た。

「…実はわたくしは未亡人ではないんです」

シャーロットは眉をよせたが、そのまま促した。


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