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シャーロットは、結婚してからはじめて奥さま方のお茶会に来ていた。ホストはウェルズ次期侯爵夫人のマリアンナだ。


今日はみんな新婚のレディたちの集まりで、シャーロットも今回お誘いを受けたのだ。

ただ、シャーロットは17歳で一番最年少だった。

「レディ シャーロットはつい最近ご結婚されたのよね?おめでとうございます」

先輩夫人たちの祝福を受けてシャーロットはありがとうございますと礼を述べた。

「エドワード様といえば月光の貴公子と影で言われておりますのよ、 レディ シャーロット」

ふふふと、マリアンナは笑みを浮かべて言った。

「いつも穏やかで貴族然としていらっしゃいますけど、夜の方はどうなんですの?」

ベル・ウィンザー伯爵令息夫人が言った。他のレディたちも、シャーロットを爛々とした目でみられて、はじめて怖じ気づいた。

「どうと言われましても…!」

真っ赤になってうつむいた。

まぁ。とほほほっと笑い声が広がる。

「レディ シャーロットもそのうち色々と旦那様にしてさしあげてね」

と、こそっと言われたその、夫人たちの閨事情にシャーロットはますます顔を赤らめて、曖昧にうなずくしかなかった。

やはり、先輩レディたちには叶いそうもない。

いつもの良く回る舌も、今日は固まったように、ええ。そんな。を繰り返すのみだった。


「そうそう。アーヴィンとミリセントですけれど…ついにロイヤルクラブを除籍されたそうですわ」

キャロライン・オルブライト子爵夫人が声をひそめていった。

ロイヤルクラブは上流階級の社交場で、そこから除籍されるということは大変な不名誉な事であった。

「平民上がりの貴族夫人がなら過去もおられましたが、そのかたはとても聡明で、立ち居振舞いも申し分なく勉強されて今では立派なレディですから、ミリセントも出来ないはずはないのに」

マリアンナが呟いた。

過去にそのような夫人がいたとは驚いた

「それはやはりご主人が賢明でいらしたからですわね。アーヴィンでは無理なんでしょうね。彼自身がちっとも貴族らしくありませんもの」

鼻をならすようにイヴリン・プリマロロ伯爵令息夫人がいった。

「このままではスプリングフィールド侯爵も廃嫡を考えざるを得ないかも知れませんわね…もはや評判は地におちておりますから、今さらまっとうなレディと結婚させようにも、まっとうなレディはお相手をしないでしょうから」

キャロラインが言った。


「ベネディクト・マクラーレン侯爵の話を聞きまして?」

そうそうと、話をふったのはアガサ・ブルーメンタール子爵夫人だ。

「マクラーレン侯爵というと、あの…」

その地位に関わらず最近まで独身だったのは、口下手なうえに口のうるさい母親がいて、あれこれと結婚相手に注文をつけすぎて、次第に相手がいなくなったというのだ。

陰気な33歳の侯爵はレディたちにとっていやな結婚相手として有名だった。

「そう。昨年冬に領地で結婚されたそうなんですけれどもね、どうやら、花嫁は逃亡したようなんですって」

アガサは扇を広げて語った。

シャーロットも先が聞きたくて思わず身を乗り出す。

「お相手のフローラ・バルフォア伯爵令嬢はまだ18歳でいらして、しかも親兄弟をご病気で立て続けに亡くされて、そこを侯爵が奪うかのように結婚を決められたとか…」

「マクラーレン侯爵からすれば跡継ぎもいるでしょうしね…でも、レディ フローラの事は知りませんでしたわ」

マリアンナがほぅとため息をついた。

「レディ フローラは社交界デビューされてないとか。財政難だと聞きましたわ…伯爵もずいぶんとお身体がお悪いようでしたからね」

アガサは痛ましげに呟いた。

「駆け落ちで幸せになられていればいいのですけれど…」

駆け落ちと聞いてシャーロットは目を見開いた。

「噂ですわ噂!」

駆け落ちで幸せになったと聞いたことはない…。ボロボロで見つかるか、苦労の挙げ句慣れない生活で病を得たり。

小説のような甘やかなことではないとシャーロットは聞いていた。


しかし、いつもながらレディたちの情報収集能力はものすごい才能だと思う。外にほいほいと出歩いてるわけでもないだろうに…



アボット邸に帰宅したシャーロットは執事たちに出迎えられた。

レイノルズ家より圧倒的に堅苦しくシャーロットは内心苦笑する。

真面目な伯父のカルロスの性格を表しているかのようだった。

アルフレッドはいくぶん緩くもあったし、またアボット伯爵家の格の違いだった。

ここではエドワードでさえ、毅然とした主を演じていた。

気を抜くのは、使用人たちの目のない所だ。


塵ひとつなく清掃された邸宅に、手入れを怠らないガーデン。

丁寧な食事に、ピンといつも清潔な衣類やリネン類。

それがすべてアボット伯爵家の力だ。

また使用人たちが主を敬愛していると、シャーロットは見てとれた。また、ハウスメイドたちは明るく陽気で、決しておそれながら仕えてはいないとわかる。それはマーガレットの明るい性格を表していた。


外出の際にもシャーロットにはメイド二人と御者、それから従者がつけられ、御者とこっそりつけられた護衛のみでふらふらと歩いていた頃が懐かしく感じる。


部屋に入ると、外出着から夜用のドレスに着替える。

メイドたちは、シャーロットの服をそれは楽しそうにいつも選んで着せてくれるので、一体どれくらいのドレスを持っているのかわからなかった。レイノルズ家が用意したものと、エドワードが作ってくれたものと合わさって大量に並んでいるのだろう。

もちろん靴もバッグも宝石も…。


ノックされ、エドワードが入ってきた。

「おかえりなさい、エドワード」

「ただいまシャーロット」

と頬にキスをする。

貴族議会にカルロスと共に出席していたエドワードは、黒のフロックコート姿だった。

いつものエドワードだが、少し緊張がみられ

「何かあったの?」

「ん?なぜ?」

「…なぜだか悩んでるような気がして」

エドワードは苦笑した。

「シャーロットは今日はレディ マリアンナのお茶会だった?どうだった?」

「アーヴィンとミリセントがロイヤルクラブから除籍されたとか、マクラーレン侯爵が花嫁に逃げられたとか、あとは…」

刺激的な話を思いだし、少し赤くなる。

「なに?」

「あとは…ちょっと、夜の話…。」

エドワードはくくくっと笑うと

「レディたちのお茶会もなかなか刺激的なようだ」

シャーロットの耳元に近づくと、

「じゃあ詳しくは夜に聞くよ」

と言った。思わず真っ赤になって固まってしまった。


この夜の晩餐はカルロス、マーガレットと共にダイニングでとる。

長いテーブルの中央で向い合わせに座った。

晩餐が始まり談笑していたが、デザートになったとき、

「マーガレット、シャーロット話がある」

とカルロスが注意を向ける。

「私は、侯爵位を頂くことになったのだ」

まぁ、とマーガレットが息を飲んだ。

「先日、モレリー侯爵邸で犯罪行為が行われていた個とが発覚し、アビゲイル侯爵未亡人とカルヴィン・モレリー侯爵も幼子とはいえ共に処罰をされざるを得ず、モレリー家の断絶が決まり、私がそのモレリー侯爵の領地と財産を受けとる」

カルロスがその責に命じられたのは、王太子妃の外戚という事もあるのだろう。

「それに伴い、エドワードもアボット伯爵となる」

シャーロットはエドワードをはっと見た。

エドワードの緊張はこの事だったのだろう。

「まだエドワードは22歳と若輩者だが、こうなってみればこの時にシャーロットという賢く美しい妻を得ていて私としても心強い。どうか支えてやってほしい」

とシャーロットに微笑みかけた。

つまり、シャーロットも伯爵夫人となり、この邸の女主人となるのだ。ゴクリと唾を飲み込む。

あまりにも早すぎる。

エドワードとカルロスをみて、うなずいた。

「わたくしに出来ることを精一杯勤めさせていただきます」

と言った。

「頼んだよ」


モレリーの名はなくなり、カルロスはオルグレン侯爵とる。

オルグレンは古くに絶えた名門の名だ。いずれはエドワードが侯爵を引き継ぐ。


大変な事になった。

領地での結婚式は夏の終わり、それまでもう日にちがないのに

ここに来て、伯爵夫人としての仕事ががっつりとのしかかってきたのだ…。



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